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第六章・発動のトリガー7

「ハウスト、もしかしてさっきの巨大蝙蝠は」 「ああ、あれから飼い慣らしたんだ。俺も丁度補助専門の召喚獣が欲しいと思ってたからな」 「やっぱり。見覚えがあると思いました」  そう、あの巨大蝙蝠は家族で鍾乳洞探検をした時に襲ってきた蝙蝠でした。どうやらハウストは倒した時に召喚獣として回収していたようです。 「あなたの召喚獣たちは戦闘力に特化していますからね。でも、あの巨大蝙蝠も好戦的に見えるのですが……」 「やっぱりそう思うか……。イスラの召喚獣が便利そうだったから俺もと思ったんだが、攪乱はともかく偵察は無理か」 「魔界の生き物は基本的に気性が荒いんだ」  イスラも呆れたようにそう言うと、オルクヘルムとゼロスの戦闘を見据えます。  ゼロスは見事な連携で召喚獣と一緒に戦っていますが、それでも徐々に召喚獣が倒されて召還されていきました。 「どうする、お前を子守りする召喚獣はあと二頭だ」  そう言ってオルクヘルムがニヤリと笑いました。  残った召喚獣はクウヤとエンキだけなのです。あれほどたくさんいた召喚獣がオルクヘルムによって倒されてしまいました。 「ゼロスっ……」  私は抱っこしているクロードを強く抱き締めました。  せっかく呼んだ召喚獣がいなくなってしまってゼロスは大丈夫でしょうか。  でもゼロスが怯む様子はありません。それどころか勝ち気な笑みを浮かべます。 「もうだいじょうぶ! みんな、ぼくのおてつだいしてくれたから!」 「手伝い?」 「うん! じょうずにできた!!」  そう言ってゼロスが魔力を高めた、その刹那。――――ピカリッ!!!!  荒野の四方から光が放たれる。まばゆい光は視界を塗り潰すもので。 「ブレイラ、目を塞げ!」 「わあっ、ありがとうございますっ……」  ハウストが咄嗟に私を目隠ししてくれました。  目隠ししていても皮膚に感じるほどの光。普通の人間の私には強烈すぎる光なのです。私もハウストに目隠ししてもらいながらクロードを目隠ししてあげました。  目隠しされている間にも連続して爆発音が聞こえて、何かが爆破される物音に緊張が高まります。  私を目隠しするハウストの手をぎゅっと握りしめました。 「まだ目を開けてはいけませんか!? 今なにが起きているんですか!?」 「大丈夫だ。お前が心配するようなことは起きていない」  そう言ってハウストがゆっくり目隠しを外してくれました。  私は目の前の光景に息を飲む。  荒野にたくさんの魔法陣が出現していて、ゼロスの魔力発動に応じて順に爆破を繰り返していたのです。突然の爆発にオルクヘルムは翻弄されながらゼロスに応戦していました。 「ハウスト、いったいなにが起きてるんですか!?」 「特殊工作魔法陣だ。召喚獣が時間稼ぎする間に魔法陣を仕掛けていた」 「ゼロスがそんなことをっ」  召喚獣と連携する戦術だと思っていたのに、更に奥の手を考えていたというのです。  今、胸が高鳴っている。まだ幼い子どもだと思っていたゼロスも、ハウストやイスラと同じように剣を握って戦う王なのだと。 「ハウスト、ゼロスは勝てるでしょうか」  私は期待して聞きました。  ゼロスと召喚獣、そして特殊工作魔法陣を併用した素早い攻撃はオルクヘルムを圧倒しているように見えるのです。 「俺やイスラが予想していたよりも善戦している。正直ここまで戦えるとは思っていなかった」 「それじゃあっ」 「だが、ゼロスは限界をすでに超えている」 「えっ……」  私は言葉が出てこない。  その時、特殊工作魔法陣が発動してひときわ強力な爆発を起こしました。 「こっちだよ~っ!!」  爆煙の中を三つの影が駆け回ってオルクヘルムを翻弄します。  そう、ゼロスとクウヤとエンキが目にも留まらぬ速さで駆け回っていました。  爆発の爆煙を目くらましにして鬼ごっこのように駆け回り、クウヤとエンキがオルクヘルムに襲いかかってゼロスの動きを隠します。  こうして一人と二頭で攪乱し、オルクヘルムに隙ができたその時。 「ええええええええええええい!!!!」  ドオオオオオオオオオン!!!!  特殊工作魔法が爆発しました。  爆発の中を突っ切る小さな影、そうゼロス!  ゼロスはオルクヘルムの懐に一気に踏み込み、剣を振りかぶる。でも。 「あっ!」  ガクンッ! 瞬間、ゼロスが膝から崩れ落ちました。  そのままバタンッと倒れて、……ああ、私の視界が滲んでいく。  まるで時が止まったように、動いていたゼンマイおもちゃが停止したように、ゼロスの体がピクリとも動かなくなったのです。 「ど、どうしてっ、どうして!? うおおおおおおおっ、ぼくがんばれ~!! がんばれ~~!!!!」  ゼロスは倒れたまま雄叫びを上げました。  気合いの雄叫びをあげて、自分を叱咤して、剣を握ろうとして、何度も何度も立ち上がろうとします。  でも体はだらんっとして微動もせず、指一本動かせません。  そう、ゼロスの体力が限界を迎えたのです。  四界の王は体力も魔力も無尽蔵ともいえる規格外のものですが、それでも疲弊しないわけではありません。  ザッ……。ゼロスの前にオルクヘルムが聳え立ちました。 「どうした、ちょこまか動き回るのはもう終わりか?」 「っ、ちがう! まだおわりじゃない!!」  ゼロスは言い返しましたが、オルクヘルムがゆっくり腕を伸ばす。  そしてゼロスの首根っこを掴んで自分の目線の位置まで持ち上げました。  持ち上げられたゼロスの体がぶらんと垂れ下がりますが、戦意を失わない青い瞳はオルクヘルムを睨みつけます。  するとそれに応えるようにクウヤとエンキがオルクヘルムに襲いかかりました。 「ガアアアアアアアッ!!!!」 「邪魔をするな!!!!!!」  鋭い一喝に衝撃波が広がり、クウヤとエンキが吹っ飛ばされます。  こうしてゼロスが召喚したすべての召喚獣が戦線離脱し、特殊工作魔法陣も潰え、荒野の中心にオルクヘルムとゼロスだけが残りました。

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