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第六章・発動のトリガー11

「俺とチビガキの戦いはここまでだ。まだまだ未熟なガキだが面白かったぜ。次は勇者の番だな」  オルクヘルムはそう言うとイスラを見ました。  イスラは平然としたまま腕を組んでいます。  そんな様子のイスラにオルクヘルムは「可愛げねぇな」と笑いました。 「まあ頑張れよ。この時代の勇者もなかなかのもんだぜ?」 「望むところだ」 「いい答えだ」  オルクヘルムは頷くと、私たちにひらひらと手を振って踵を返しました。 「じゃあな、俺はいったん自分の軍に戻る。また落ち着いたら酒でも飲もうぜ。心配すんな、勇者どもに決着がつかなかったとしても今回の一件の仲裁役をしてやるよ」  そう言って歩いていくオルクヘルム。  仲裁役を請け負ってくれて私の心が軽くなります。 「ありがとうございます! よろしくお願いします!」  ゼロスがオルクヘルムと戦うと決まった時はとんでもない方だと思いましたが、基本的には善良な方なのでしょう。  私は見送ると、ゼロスを抱っこしたままハウストとイスラを振り返りました。  ハウストとイスラに迎えられ、ゼロスは満身創痍ながらもフフンッと胸を張って誇らしげ。絶望的な戦いを乗り越えたので凱旋気分なのでしょうね。 「どうだった? ぼくつよかったでしょ?」  ゼロスは期待の顔でハウストとイスラを見ました。  父上と兄上に褒められたくて仕方ないようです。  ワクワクするゼロスにイスラは少し呆れた顔になる。でもニヤリと笑って頷きました。 「悪くなかったぞ」 「えへへ。あにうえ、おともだちのよびかた、おしえてくれてありがとう!」 「ああ、上手く発動したな。どうなるかと思ったが、よくやった」 「わあああっ、あにうえがじょうずだったぞって! ぼく、じょうずにできたから!」  イスラに褒められたゼロスは嬉しそうにはしゃぎます。  ゼロスに戦い方を教えているのはイスラです。いつもは厳しい特訓に涙ぐんでいることが多いのでとっても嬉しいのでしょう。 「あにうえ、またあたらしいのおしえて。またいっしょにあそびにいこ!?」 「ああ、またな」 「やった~! おやくそく!」  今回の召喚魔法は二人で山に遊びに行ったときに教えてもらったものなので、ゼロスがまた一緒に遊びに行きたいとお願いしました。  どうやら兄上とのお出掛けがとても楽しかったようですね。  でも。 「あう~……」  クロードが低い声でうなっていました。  心なしかクロードが不機嫌になっています。そうあの日、クロードは自分も一緒に遊びに行くのだと信じて疑っていなかったようで、二人が出掛けてから不機嫌になって大変だったのです。置いていかれたショックとプンプンで昼寝の寝つきも悪く、私とハウストであの手この手で寝かしつけたのでした。  そんなクロードにハウストが苦笑しますが、今はゼロスに向き直ります。ゼロスはとても頑張ったのです。 「見ていたぞ。見事だった」 「えへへ。ぼくえらい!」  兄上に続いて父上にも褒められてゼロスはますます満面笑顔です。  そんなゼロスにハウストは目を細め、ぽんっと頭に手を置きました。するとゼロスは照れ臭そうにはにかんで、ニヤニヤ……ではありませんね、ニコニコしてとても可愛らしい。  いつも見上げるように憧れていた父上と兄上に認められて嬉しくてしかたないようです。  ゼロスはニコニコしていましたが、ふと思い出したようにハウストに話します。 「あ、ちちうえ。おっきなとりさんがしんぱいしてた。ちっさいとりさんが、まだかえってないんだって。しってる?」 「ああ、把握している。大丈夫だ、必ず見つけだす」 「うん、みつけてあげてね」  どうやらいつも手紙を配達してくれる魔鳥の鷹のことのようでした。  先ほどの大量召喚の時も姿を見せませんでした。それはハウストのところに帰ってきていないということ。巨大な魔鳥の鷹と手紙を運んでくれる鷹は親子なのです。  それは私も気になっていることでした。  この決戦の前に精霊王リースベットへ手紙を出しましたがまだ返事がありません。ジェノキスとも連絡が取れていないのです。 「ハウスト、やっぱりまだ帰ってきていないんですね……」 「ああ、消滅した様子はないが何かに巻き込まれている可能性がある。他の使役獣たちにも探しに行かせたところだ」 「そうですか、早く見つかるといいんですが」  心配が深まります。ハウストの使役する召喚獣はどの子もとても強くてお利口で、こんなふうに音信不通になることはないのですから。  でも今は、目の前にも心配が一つ。  私は抱っこしていたゼロスをハウストに預けます。  受け取ったハウストは左腕にクロードを抱っこし、右腕にゼロスも抱っこしてくれる。 「クロード、ぼくとおんなじ!」 「あぶぶっ」  二人お揃いの抱っこにゼロスがはしゃぎます。 「ゼロス、暴れるなら降りろ」 「やだ。ぼく、つかれてるからあるけないの。だっこしてて」  ゼロスはそう言うとハウストの首に両腕でぎゅっとしがみ付きました。  父上の抱っこは目線が高くなるので遊んでいる気分になるのでしょう。  今のゼロスは一人で歩けないほど疲弊しているので抱っこをお願いしたのですが、どうやら気持ちだけは元気なようです。  先ほどの戦闘では普段の甘えん坊が見違えるほど立派な姿を見せてくれましたが、抱っこされる姿はやっぱりまだまだ幼い子どもですね。  その光景に目を細め、次にイスラを見つめました。

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