「お前が十万年後の勇者か」 　初代イスラが挑発するような口調で言いました。 　口元には嘲笑を浮かべていて、イスラはスッと目を細めます。 「そうだ、初代のお前を倒して歴代最強になる勇者だ」 　イスラは初代イスラを見据えて宣言しました。 　初代勇者を前にしても真っすぐに向き合います。 　そんなイスラに初代イスラの闘気が高まる。足元からゆらりと、でも爆発的に高まって。 　――――ガキイイィン！！！！ 　初代イスラの剣とイスラの剣が激しくぶつかりました。 　衝撃波が広がって私はクロードを抱っこする腕に力を込めます。 　先制攻撃は初代イスラ。一瞬にして距離を詰め、剣を出現させてイスラに切りかかったのです。 　二人は剣を交差させたまま力比べの状態になり、イスラは近い距離で睨みあったまま口を開く。 「いきなりだな」 「なんだ、挨拶でもしろっていうのか」 「そうだ。殺し合いをしたいわけじゃない」 「ぬるいな」 　ガンッ！！ 　初代イスラは言い捨てると、剣を交差させていたイスラを弾き飛ばしました。 　追い打ちをかけるように剣で連続攻撃し、イスラはそれを剣で受け止め続けます。 　防戦に徹するイスラの姿に私の緊張が高まりました。普段は攻撃的な戦い方をすることが多いのに……。不安を覚えて、私は祈るような気持ちで防戦に徹するイスラを見つめていました。 　そんな中、初代イスラは攻勢を強めていく。隙をついて背後から切りかかり、イスラは咄嗟に受けとめました。 「十万年後の勇者はその程度かっ！」 「ッ……！」 　命を狙う攻撃を繰り出され、その容赦のなさにイスラは険しい顔になります。 　一瞬でも気を抜けば初代イスラの剣がイスラの心臓を貫き、首を掻っ切ってしまうでしょう。 　凄まじい戦闘に私は圧倒され、ハウストに抱っこされているゼロスも「あ、あにうえ……」と青褪めていました。 　初代イスラは剣を振り下ろして防戦のイスラを追い詰めます。 「俺は十万年後から来たお前たちを見ているとイライラするんだよ。十万年後がどんなものか知らないが、お前たちを見ていると生ぬるい世界が想像できて笑えてくる。十万年後の勇者だろうと関係ない、どうだ、死が迫る恐怖はっ……！」 　ガキンガキンガキンガキンッ！！ 　凄まじい勢いで剣が振り下ろされ続ける。イスラはじりじりと後退させられましたが、次の瞬間。 　ガキイイィンッ！！！！ 　剣が弾かれました。弾かれたのは初代イスラの剣。 「ベラベラベラベラ、うるさい奴だな」 　イスラの淡々とした声が聞こえました。 　突然の反撃に荒野がシンッと静まり返り、その中心にイスラが悠然と立っています。 　イスラは剣の切っ先を初代イスラの顔に向け、そして。 「お前は勘違いをしている。これは俺が歴代最強だということを証明する為の戦い。お前はその為の対戦相手にしか過ぎない。それだけのことだ」 　イスラは初代イスラを見据えて当然のように言い放ちました。 　そう、イスラの目的は歴代最強の勇者になること。相手が殺す気でいようがイスラの目的は揺るがないのです。 「……お前、俺を計っていたな」 「剣筋を見せてもらった。相手に不足なしだ」 　そう言ってイスラはニヤリと笑い、改めて剣を構えます。イスラ自身が出現させる勇者の剣を。 　初代イスラは試されていた事実に憤るも、すぐに集中力を高めて構えました。 「ふざけた真似をしてくれるっ」 「相手の実力を計るのは基本だ。次は俺からいかせてもらう」 　イスラはそう言うと一歩踏み出す。 　刹那、風のような速さで初代イスラの懐に入って剣を一閃させました。 　美しい弧を描く剣筋。初代イスラは寸前で避けたものの、イスラは更に一歩踏み込んで剣の軌道を変えて攻撃を繰り出しました。 　変化する軌道に初代イスラは対応しながらも苛立っていく。 「小細工が多い奴だ」 「戦闘中にうるさい奴よりマシだろ」 　イスラはそう言うと剣で攻撃しながらも魔力を発動させます。 　千を超える光の矢が初代イスラに向かって放たれました。命中寸前で避けられるも、すべての矢が初代イスラの後を追い続ける。初代イスラは矢の対処をしながら戦わなくてはならなくなります。 　しかもイスラは畳みかけるように魔法陣の罠を張り巡らせ、初代イスラを追い詰めていきました。 　二人の力は拮抗していますがイスラがやや優勢のようにも見える。抱っこしているクロードもゼロスも興奮して応援しています。 「すごいっ、すごーい！　あにうえ、がんばれー！！　がんばれーー！！」 「あぶっ、あうー！　あー！　あー！」 「クロード、みてる！？　ほらね、あにうえがえいってしてくれるっていったでしょ！？　ほらね！　ほらね！　ぼくたちのあにうえ、すっごくつよいの！！　いちばんつよいの！！」 「あいっ！　あいっ！」 　二人は抱っこから身を乗り出しておおはしゃぎしています。 　クロードが短い手足をバタバタさせるので落ちないようにしっかり抱っこしていてあげないと。 　ハウストも抱っこしているゼロスが暴れるので大変そう。 「おいゼロス、暴れるなら降ろすぞ」 「ダメ！　ちゃんとだっこしてて！！　あにうえがんばれー！！」 　ゼロスはハウストに甘えながらもイスラを全力応援です。 　クロードもそれにあわせて声をあげていました。 　そんな幼い二人の様子にハウストは呆れた顔になります。 「……ブレイラ、これなんとかしろ」 「ふふふ、許してあげてください。ゼロスは甘えん坊ですから」 　ゼロスはハウストとイスラの強さに憧れていますが、ハウストに対しては無条件に甘えられる相手ということもあるのでしょうね。 「ハウスト、イスラはどうですか？　勝てますか？」 「このまま決着がつくとは思えないが、イスラが初代勇者に劣るということはないだろう」 「そうですか」 　ハウストから明確な答えは出ません。それは二人の力が拮抗しているので何が起きてもおかしくないからです。 　そうした中、初代イスラの魔力が急激に高まりました。気付いたハウストが警戒します。