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第六章・発動のトリガー14

「ブレイラ、下がっていろ。俺より前にでるなよ?」 「はいっ」  私がハウストの背後に下がったその時、初代イスラが魔力を一気に解放させました。 「小賢しいぞ!!!!!!」  ドンッ!!!!  魔力の爆発的な解放。  衝撃波に光の矢が消滅し、イスラも後退を余儀なくされます。  その一瞬の隙をついて今度は初代イスラからの猛烈な攻撃が始まりました。  初代イスラの高速の剣技にイスラも対抗します。  それは目には見えないほどの速さで、私には剣と剣がぶつかり合う音が聞こえるだけ。でもハウストとゼロスは目で追っています。クロードもじっと見つめているので動きが見えているのでしょう。  こういう時、少しだけ寂しさを覚えてしまう。私たちは親子だけれど、ハウストもイスラもゼロスもクロードも私が見えない領域の景色を見ているのだと。  私はせめて音の変化を聞き逃すまいと、必死に二人の戦う気配を追いました。  ガキンッ! キンキンキンッ! ガキンッ!!  激しく金属がぶつかりあう音。  初代イスラが火炎魔法陣を発動してイスラを攻撃します。  荒野に巨大な炎の塊が出現し、地面を舐めるように動きだす。それはまるで生き物が地を這うようで、凄まじい熱風が周囲に吹き荒れます。  ハウストが防壁魔法を発動しなければ私など数秒もこの場で生きていられません。  イスラは暴れまわる炎を突破し、隙をついて初代イスラの背後に回りました。  剣で攻撃しても初代イスラに剣で受け止められる。けれどイスラはすかさず懐に潜り込み殴り掛かります。バキイイィィィィッ!!!! 「くそッ……!」  吹っ飛んだ初代イスラを追ってイスラは更に踏み込み、今度は回し蹴りを打ち込みます。咄嗟に初代イスラは防御しましたが強烈な蹴りに顔を顰めました。  そんな初代イスラにイスラはニヤリと笑う。 「悪いな。俺は小細工がなくても強いんだ」 「そうか、奇遇だな」  初代イスラが素早く体勢を変えてイスラの鳩尾を蹴りつけます。  イスラは体の向きを変えて直撃を免れましたが、それは掠っただけで肉が裂けるものでした。初代イスラの容赦ない攻撃も力も、すべては相手を殺すためのものなのです。  こうして荒野の中心では二人の剣術、体術、魔力が激しく衝突しあい、決着がつかないまま平行線を辿りました。  二人の体力も魔力もいつ限界を迎えてもおかしくないのに、二人の戦闘は激しさを増すばかり。私は不安を覚えてしまう、このまま命が燃え尽きるまで戦い続けるのではないのかと。だって二人は死闘の中でも楽しそうにも見えてしまって。 「次で決まるぞ」  ふとハウストが言いました。  私はクロードを抱きしめる腕に力を籠める。決着は一瞬。この勝負、どちらが速いかで決まります。  対峙するイスラと初代イスラの闘気が膨れあがった、次の瞬間、――――ドンッ!! 二人が同時に踏み込む。  でも初代イスラの方が僅かに速い。初代イスラの剣がイスラの首を刎ねる寸前。  ドオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!  轟音がして大地が激しく揺れました。  それは立っていられないほどの地震。  幸いすぐに収まりましたが、場の空気を変えるほどの不気味な地震に荒野にいた私たちに動揺が走りました。  戦闘中だった初代イスラとイスラでさえ戦いを中断しています。 「ハウスト、さっきの地震は……」 「ああ、普通の地震ではなかったな」  ハウストが警戒します。  見るとデルバートやオルクヘルムも兵士に周囲の様子を確認するように命じているようでした。  異様な雰囲気が漂う中、ハウストに抱っこされていたゼロスが声をあげます。 「あっ、ちちうえあれみて! かえってきた!!」  ゼロスが山間の空に向かって指差しました。  そこを見ると黒い影。ハウストが使役する魔鳥の鷹です。 「良かった、戻ってきたんですね! あれ、でも様子がおかしいです……」  鷹はこちらに向かって飛んできていたのに、ふと様子が変わったのです。翼を羽ばたかせているのに宙吊りになっている。なにかに絡めとられたように動けなくなっているようでした。 「クウヤ、エンキ、行ってこい。ああ、お前も行ってこい」  ハウストがそう言うとクウヤとエンキ。そして親である巨大な鷹も飛んでいきました。  私はそれを見送りましたが、……どうしてでしょうか、胸騒ぎがします。ドクドクと心臓の鼓動がいやに大きく響いて落ち着きません。 「ハウスト……」  私はハウストの側に身を寄せました。  得もいえぬ異様な空気が濃くなっていく。首筋をぬるい風が撫でるような不気味さと、……におい。じめじめと湿った獣の臭いに気付いた、次の瞬間。 「うっ、うわあああっ!! なんだこれは!!」  突如魔族の兵士が悲鳴をあげました。  ハッとして見ると兵士が細い糸で宙吊りにされています。  しかも人間や幻想族の兵士も次々と糸に襲われていく。  崖や岩の隙間から糸が飛びだし、兵士を絡めとりながら空間に網を張っていく。そう、それは蜘蛛の巣のように。 「わああっ、なんだこれは!?」 「くそッ、切れない! なんて頑丈な糸だっ!」 「うわああああ!! 蜘蛛だ! でかい蜘蛛がいるぞ!!」  兵士が声をあげました。  気が付くと荒野は馬ほどの大きさがある巨大蜘蛛の大群に包囲されていたのです。  それは蜘蛛の怪物。十万年後から来た私たちも初めて目にする異形の怪物でした。  ゼロスが驚いています。 「わああっ、こいつらなんなの!? くものおばけ!?」 「ハウスト、この異形の怪物は、まさか……」  蜘蛛の怪物は初めて見ましたが、十万年後にも異形の怪物が出現したことがありました。  もしこの蜘蛛の怪物も同じものだというなら、それはっ……。  嫌な予感に全身の血の気が引いていく。ハウストが私を守るように前に立ってくれます。 「ああ、その可能性はあるだろうな。ブレイラ、今は俺から離れるな」 「はいっ」 「ゼロス、お前は戦え。できるな?」 「できる!」  ゼロスがハウストの抱っこからぴょんっと飛び降りました。  甘えん坊のゼロスですが異常事態が起こればステキな冥王さまとして戦います。  まだ疲労が残っているので心配ですが、本人は冥王の剣を出現させて好戦的に身構えました。  荒野は蜘蛛の襲撃に騒然としながらも兵士たちが応戦します。  初代イスラとイスラもこれ以上決闘を続けられなくなりました。

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