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第六章・発動のトリガー17
「ぼくがまもってあげるからだいじょうぶ! ぼくから、はなれないでね!」
「はい、クロードと私をよろしくお願いします」
「まかせて!」
ゼロスが頼もしく返事をしてくれました。
魔法陣からは蜘蛛が出現しますがゼロスが撃退してくれます。
でも次々に蜘蛛が現われて、ゼロスは一気に始末しようと魔力を集中しました。
「もう、こんなにたくさんでてきちゃダメでしょ! よ~し、やっつけちゃお!」
ゼロスは火炎魔法陣を発動して凄まじい火力で蜘蛛を焼き払おうとしましたが、…………プスッ。魔法陣から噴き出したのはちっちゃな煙。
「あああっ! おっきいのでない~~!」
ゼロスが慌てだしました。本人は巨大な炎で攻撃するつもりだったよう。
そう、死闘を終えたばかりのゼロスは魔力が底をついていたのです。いくら四界の王が無尽蔵の魔力を持っているとはいえ、今のゼロスの魔力は回復が必要な時でした。
しかし、こうしている間にも周囲を蜘蛛に囲まれてしまう。
ゼロスは剣で応戦しようとしますが間に合わない。でもその時。
「おいおい、ステキな冥王さまなんだろ?」
ゴオオオオオオッ!!!!
声がしたのと同時に、強烈な炎が蜘蛛を焼き払いました。オルクヘルムです。
オルクヘルムが私たちのところに駆けつけてくれました。
思わぬ助っ人にゼロスも驚きます。
「あっ、おじさんだ~! ぼくよりよわいのに、どうもありがとう!」
「やっぱりぶっ飛ばす!」
オルクヘルムが即座に言い返しました。
ああいけませんっ。せっかく助けに来てくれたのに!
「す、すいません、本人に悪気はないんですっ。助けていただいてありがとうございます!」
「図々しいところはお前にそっくりだな」
「どういう意味です!」
私も即座に言い返してやりましたよ。
でも今はそんなことを言い合っている場合ではありません。
「オルクヘルム様、あの大きな蜘蛛はっ……」
「それなら心配するな。ほら、もう終わるぜ?」
オルクヘルムが背後を顎で指しました。
振り向くと、超巨大蜘蛛を初代魔王、初代勇者、当代勇者の三人が追い詰めている。デルバートが強烈な氷霧で超巨大蜘蛛を凍結させ、初代イスラが蜘蛛の八本足を一瞬で切断し、最後にイスラが巨体を両断しました。
「キエエエエエエエエエエ!!!!!!」
超巨大蜘蛛の断末魔が響きました。
絶命した超巨大蜘蛛が塵となって消えていきます。
超巨大蜘蛛が消滅したことで巨大魔法陣も消え、そこから湧き出ていた蜘蛛たちも消滅しました。
荒野に静けさが戻ります。でもいたるところに負傷した兵士がいて、その痛ましい姿に胸が痛くなる。
ここには屈強な兵士しかいませんが、兵士たちは初めて目にした異形の怪物に動揺しているようでした。
「ブレイラ、無事か!?」
イスラが駆け寄ってきました。
私の足元から頭まで確認してくれるイスラに苦笑してしまいます。こういうところハウストに似ていますよね。自分の方がずっと危険な場所にいて、初代勇者とも戦っていたばかりなのに。
「私は大丈夫ですよ、ゼロスとオルクヘルム様が守ってくれました。イスラこそ怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ」
「良かった。あなたが無事で安心しました」
そう言って笑いかけるとイスラも優しく目を細めてくれました。
そして私たちの元にデルバートと初代イスラとレオノーラが歩いてきます。
イスラが私を守るように前に立ってくれる。デルバートと初代イスラは疑心の面差しで私を見ていたのです。
先ほどまでのゲオルクの発言から、私たちがなんらかのことを知っているのではないかと疑っているのでしょう。
「イスラ、ありがとうございます。私は大丈夫ですから」
前に立っているイスラの腕に手を掛けました。
イスラは不満そうな顔をしたけれど、ゆっくり首を横に振ります。
そうやってイスラを下がらせてデルバートと初代イスラに対峙しました。
初代イスラは剣を出現させ、鋭い切っ先を私に向けます。
「知っていることをすべて話せ」
初代イスラが私を見据えて厳しい口調で問いました。
私は自分に向けられた剣を見つめ、初代イスラを真っすぐ見つめ返します。
「これが人にものを聞く態度ですか」
「黙って質問に答えろ。あの蜘蛛の怪物を知っているのか?」
怖い顔です。
どうしてくれるんですか。私のイスラに少し面差しが似ているので、まるでイスラに睨まれている気分になるじゃないですか。
イスラの名前の由来は初代勇者イスラからなので、この初代の存在を私も特別に思っているけれど、……中身はまったく違いますね。
「蜘蛛の怪物を見たのは私たちも初めてです。でも、十万年後にも異形の怪物が出現することがありました。おそらく先ほどの蜘蛛も出現条件は同じものでしょう」
「出現条件だと?」
私の答えにデルバートが表情を変えます。
この十万年前の世界でも各地で異形の怪物が出現している様子。やはりデルバートや初代イスラも把握し、異変を感じていたのでしょう。
「はい。十万年後の四界では、世界が不安定になった時に異形の怪物が出現すると言われています。理由も原因も不明です。しかしさっきのゲオルクの言葉はまるで、まるで……」
確信が持てずに言葉が続けられませんでした。
だってさっきのゲオルクは、まるで異形の怪物を作ったのが自分であるかのような口ぶりだったのです。
「おい、あまりブレイラに気安くするなよ」
ふとハウストの声が割って入りました。
逃走したゲオルクを追っていたハウストが戻ってきたのです。
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