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第六章・発動のトリガー19

 荒野から山の中腹にある洞窟に向かいました。  私たち家族と初代王の四人とジェノキスとレオノーラで洞窟に向かって歩きます。  道中、デルバートと初代イスラとレオノーラはほとんど無言でしたが、オルクヘルムとリースベットはよくお喋りしていました。  そしてそんな初代王やレオノーラを、ゼロスとクロードは遠巻きながらもチラチラと意識してます。ハウストやイスラは特に気にしている様子はありませんが、幼いゼロスとクロードにとっては警戒しつつも気になる方々のようですね。  それにしてもおかしな気分。十万年後から時空転移してきた時は、まさかこんなことになるとは夢にも思っていなかったのでなんだか落ち着きません。  少しして洞窟に到着しました。突然、ゼロスがぴゅーっと駆けだします。  そして洞窟の入口で初代王四人とレオノーラとジェノキスを振り返ったかと思うと。 「ぼくたちのおうちへ、ようこそ!!」  両手を広げて迎えました。  緊張しながらも誇らしげに胸を張ってお出迎え。  今までは対戦相手でしたが、どうやらお客さまとして認識したようですね。 「あぶっ、あーあー!」  抱っこしているクロードも洞窟を指差してなにやらおしゃべり。クロードもゼロスを真似てお出迎えのつもりのようですね。  リースベットとオルクヘルムとジェノキスが朗らかに出迎えを受けてくれます。 「それはありがたい。歓待感謝するぞ」 「どうぞ、ゆっくりしていってね!」 「俺は二度目だな。暗くなったらまた泊まらせてくれ」 「いいよ! くらいとあぶないもんね!」 「出迎えが出来るなんてもう一人前だな」 「まあね!」  この三人は楽しそうにゼロスに応えてくれました。  次にゼロスはデルバートを見上げます。父上の面影と重なる彼に少し緊張している様子。 「こっちにどうぞ!」 「……ああ」  短く答えてデルバートはちらりとゼロスを見下ろしました。  淡々としているように見えますが、あれは幼い子どもとどう接していいか分からないだけのようにも見えます。以前ハウストもそんな感じだったので分かりますよ。  続いて初代イスラを迎えようとしましたが、初代イスラはゼロスなど視界に入っていないとばかりに素通りしていきます。  でもその後ろに控えていたレオノーラが申し訳なさそうにお辞儀しました。 「お邪魔します」 「おじゃまどうぞ!」  ゼロスも気を取り直して初代イスラとレオノーラを迎えました。  こうして全員を出迎えたゼロスは私のところに戻ってきて誇らしげに報告してくれます。 「ようこそって、ちゃんとできた!」 「あぶぶっ、あー!」 「はい、じょうずでしたね」  少しはしゃいでいるようにも見えるゼロスとクロードに目を細めました。  この洞窟でゼロスが暮らし始めた時はクロードと二人きりでした。それから少しして私たちが合流し、ここが『おうち』になって、今日はたくさんのお客さまが訪ねてくれました。ゼロスとクロードはどうやら嬉しくなっているようですね。 「今からお客さまにお菓子とお茶の準備をします。手伝ってくれますか?」 「できる!」 「お利口です」  思わぬ展開で初代王たちと情報交換をすることになりましたが、これは私たちにとっても好都合なものです。異形の怪物については十万年後の世界でも度々問題になることがありました。  私がお茶とお菓子の準備をする間、ハウストとイスラが初代王たちと歓談します。どうやらリースベットに十万年後の話しをするようにせがまれているようでした。  私は紅茶を淹れ、籠にお菓子を見栄えよく並べます。ここが十万年後の魔界の城なら専門の給仕が仕切ってくれる上等なおもてなしが出来るのですが、今はこれが精一杯のおもてなしです。  ピチャンッ。ふと洞窟の小川で水が跳ねる。振り向くとお友達の小魚が跳ねています。 「ごめんなさい、お客さまがたくさんでびっくりさせたようですね」  私は小魚に話しかけて手早く準備を終えました。 「さあ準備ができました。ゼロス、お客さまのところにお菓子を運んでください。できますか?」 「できる!」  ゼロスはビシッと背筋を伸ばして返事をすると籠を運んでくれます。  その後ろから私もポットとカップを運び、テーブル代わりの平らな岩に全員分の紅茶とお菓子を並べました。 「このような場所ですので不自由はあるかと思いますが、どうぞ召し上がってください。皆さんのお口に合うといいのですが」 「どうぞめしあがれ!」 「あぶぶっ!」  私に続いてゼロスとクロードもご挨拶。  紅茶とお菓子を勧めるとリースベットがさっそく焼き菓子に手を伸ばす。彼女が最初に選んだのはふわふわのマフィン。ぱくりと一口食べた瞬間。 「ッ、んん~~ッ!! な、なんという甘味じゃ! 口に入れるとほろりと解けて、芳醇な味が広がってっ……! このような極上の菓子があるとは素晴らしいっ!!」  感激に打ち震えています。  マフィンの次に紅茶を一口飲むと、その味わい深さと焼き菓子との相性の良さに目頭を押さえて感動していました。  もちろんオルクヘルムも焼き菓子と紅茶に満足そうです。  良かった。ゼロスとクロードを思って用意しましたが、まさか初代王の方々も食べてくださるとは思っていませんでした。たくさん持ってきて大正解でしたよ。  喜ぶ二人の姿にゼロスも嬉しくなったようで、「こっちもおいしいの! こっちのも!」と自分のお薦めを教えています。クロードも赤ちゃん用のビスケットを「あいっ、あいっ」と差し出しています。クロードのお薦めのようですね。  こうした光景に目を細めて、デルバートと初代イスラに目を向けました。

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