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第六章・発動のトリガー23

「ゼロス、突然どうしました?」 「ブレイラたいへんなの! あれをみて!?」  ゼロスが真剣な顔で洞窟の外を指差しました。  その勢いに押されて全員が振り向きます。  でも。 「…………?」  首を傾げてしまう。  ゼロスは指を差したけれど、そこには夜の森の景色が広がるばかり。いつの間にか陽が沈んで夜になっていたようですね。でもその景色に不自然なものはありません。  しかしゼロスは苦悩するように頭を抱えます。  しかも抱っこしていたクロードもなにかに気付いた様子。ハッとして「あ、あうう~っ……」と苦悩し始めました。赤ちゃんなのに眉間の皺が癖になってしまいますよ。 「…………あの、なにかありましたか?」 「おそとまっくらなの! よるになっちゃったっ、みんなあぶなくなっちゃう~!!」 「えっ!」  私はぎょっとしました。  ハウストとイスラも真顔になる。嫌な予感を察知したようです。  そんな私や父上や兄上を知らずに次男と三男は苦悩します。  さらに追い打ちをかけるようにオルクヘルムまで大袈裟に苦悩し始めました。完全に面白がっている顔です。 「ああ~、こりゃやべぇな~。こんな暗くなっちまったら危なくて帰れねぇよ」 「そうだよねえ……」  ゼロスが同情の顔でオルクヘルムや初代王たちを見回します。  そして最後に私、父上、兄上を見たかと思うと。 「おきゃくさま、こんなにいっぱい。たいへんだけど、がんばろうね!」  グッと小さな拳を握りしめました。気合いの拳です。  そう、ゼロスは勝手に初代王たちが洞窟に泊まっていくものと思っていました。  冗談じゃないですっ。ゼロスを説得しなければ! 「ゼロス、ちょっと待ってください! 初代王様方をこのような場所にお泊めするわけにはいきません! 初代王様方はとてもお忙しいのです。無理に引き止めてはかえってご迷惑というもので」 「いや気にすんな。俺はぜんぜん迷惑じゃねぇぞ? 今晩も肉料理を頼む。この前の味付け最高だった。さすがステキな冥王さまのとこのブレイラだ。すげぇな~」  オルクヘルムが割り込んできました。  しかもオルクヘルムだけではありません。状況を察知したリースベットまで割り込んできます。 「分かるぞ、幻想王よ。われもブレイラが淹れてくれた紅茶に感動しておった。類いまれな才の持ち主と見受ける。ちなみにわれもぜんぜん迷惑ではない」  なんという事態! 褒め殺し作戦ですね、オルクヘルムとリースベットに組まれては厄介です!  阻止しようと言い返そうとしましたが、その前にゼロスがえっへんと胸を張ってしまう。 「そうなの! ブレイラはおりょうりじょうずなの! でもおりょうりだけじゃなくて、おくすりつくったり、おようふくつくったり、なんでもできちゃうの! すごいでしょ!!」  ゼロスがとても無邪気に自慢してくれました。  自慢してくれるのは嬉しいけれど、よりにもよってこのタイミング……。でも私のことを嬉しそうに話してくれるゼロスに胸がキュンッとしてしまう。  しかも抱っこしているクロードがオルクヘルムとリースベットを見て小さな鼻をピクピクさせています。これは『えっへん』と自慢してくれている顔。クロードの自慢顔が可愛くて、また私の胸がキュンッとして……。ああ、胸がくるしいっ……。 「…………まずいな」  私を見ながらハウストが神妙な顔で呟きました。  イスラまで「嫌な予感がする……」と真顔になっています。  そんな父上と兄上の様子も知らずに、ゼロスとクロードがキラキラした純粋な笑顔で私を見上げました。 「ブレイラはなんでもじょうずなんだよね!? ぼくね、いっぱいじまんしちゃった!!」 「あうー、あー、あぶぶ!」 「っ、もちろんです! ゼロスとクロードが自慢してくれるなんて嬉しいですよ?」  ああダメです。もうダメです。私はキラキラした幼い瞳に勝てませんっ。  ごめんなさい、ハウスト、イスラ。あなた方の嫌な予感は……的中ですっ。  私が褒められたことを喜んでくれるゼロスとクロードを前に、どうして否などと言えるでしょうか。  いいでしょう。ゼロスとクロードの純粋な気持ちに答えましょう。  私はゼロスを手招きしました。  側に来てくれたゼロスの小さな手を取り、そのまま抱っこしているクロードの赤ちゃんの手に重ねる。二人の幼い手をまるごと包んで握りしめ、優しく笑いかけました。 「ゼロス、クロード、あなた達のお客さまをおもてなししたいという優しい気持ちはよく分かりました。そうですよね、夜の森は危ないですからね」 「そうだよね、あぶないよね」 「あぶぶ。あーうー」  私は二人に頷くと、次にハウストとイスラを振り向きました。  二人はやれやれ……と頷いてくれる。どこか諦めた顔をしている二人に申し訳なくなるけれど了承してくれたようで良かったです。  私は初代王たちに向かってお辞儀しました。 「遅い時間になりました。まだすべての話しが終わったわけではないでしょうし、よかったら朝が来るまでゆっくりお過ごしください。御覧の通りの場所ですが、せいいっぱいおもてなしいたします」 「また十万年後の肉料理が食えるなんて光栄だ!」 「ありがたい! ぜひよろしく頼む!」  こうしてオルクヘルムとリースベットは今夜ここに泊まっていくことになりました。ということはジェノキスも一緒ですね。 「ジェノキス、連絡が取れなくなっていたので心配していました。無事に合流できて良かったです。今夜はゆっくり休んでくださいね」 「ああ、ありがとう」  私はジェノキスに頷いて返し、次にデルバートを見ました。  せっかくなので初代魔王や初代勇者にも泊まっていってほしいです。

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