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閑話・三兄弟と初代幻想王2

「助かった。まだ赤ん坊だから放っとけないだろ」 「図々しい兄弟だぜ。やっぱりブレイラに似たのか? 親子が似るってのは本当だな」 「……それブレイラに言うなよ」 「クソガキもブレイラには甘いな」  そうオルクヘルムとイスラは軽口を交わしていたが、クロードを見ていたゼロスが慌てだす。 「ちょっと、たいへんたいへん」 「今度はなんだ」  オルクヘルムが面倒くさそうに聞き返した。  返事をしなければこの子どもは返事をするまで話しかけ続けるのだ。 「クロード、おもらししてる」 「「えっ?」」  オルクヘルムとイスラがぎょっとする。  二人がおそるおそる確認すると、たしかにクロードのお尻に染みが滲んでいた。 「ね、おねしょでしょ? ぼくがみつけてあげたの」  ゼロスが指差して胸を張る。赤ちゃんのおねしょに気付いてあげるなんてえらい、とばかりに誇らしげ。  しかもゼロスはリュックサックからクロードの着替えとおむつを持ってくる。 「あにうえとおじさん、はいどうぞ。あかちゃんはきれいにしなくちゃダメなんだって。ブレイラがいってた」  さっさとクロードを着替えさせてやれということだ。  ゼロスはブレイラを見ているので知っている。こういう時、ブレイラはクロードを起こさないようにしながら上手に着替えさせていた。  しかしオルクヘルムには関係ないことである。 「ふざけんな、どうして俺がチビの着替えをさせてやんなきゃならねぇんだ。お前らでしてろ」 「おじさん、しーっ。クロードがおきちゃうでしょ」  ゼロスが慌ててしーっと口の前で指を立てた。  でも今までスヤスヤ眠っていたクロードの顔がくしゃっとする。  その反応に三人はハッとするが、薄っすら開いたクロードの目がうるうる潤みだして。 「…………う、うぅっ、あう~~……っ」  泣きだしてしまった……。  眠っていたクロードが起きてしまって三人は困ってしまう。  ゼロスはじとっとした目でオルクヘルムを見た。 「あーあ、おじさんがおおきなこえだすから~」 「俺のせいなのか?」  オルクヘルムは嘆いた。  だが彼の本当の苦難はこれからである。なぜならクロードは、ただでさえ気持ちよく眠っていたところを起こされて情緒不安定なのに、視界にオルクヘルムの顔が飛び込んできたのだ。 「あぶっ!? あ、あう~、あ~~~っ」  びっくりしてさらに泣きだすクロード。  泣きながら小さな手で顔を隠してしまう。隠れているつもりなのだ。  そんなクロードをゼロスが覗き込んだ。 「クロード~、クロード~、だいじょうぶだよ~。あにうえとぼく、こっちだよ~。ここにいるよ~」 「あう~、あう~~っ。あああああっ」  聞き慣れた声に向かってクロードが小さな両手を伸ばして空を掻く。  しかし目はぎゅっと閉じたままである。近くにいるオルクヘルムが怖いのだ。 「クロード、大丈夫だ。ほら」 「あい~っ、あ~」  イスラが手を差しだすとクロードは小さな手でぎゅっとした。  それを見ていたゼロスも手を差しだす。 「ぼくも、おててどうぞ」 「あう~っ、うっ、うぅっ……」  ゼロスの手もぎゅっと握るクロード。  こうすると少しは安心したのか泣き声が小さくなって、うっ、うっ、と嗚咽が漏れるだけになった。  イスラはその様子にニヤリと笑い、オルクヘルムを見やる。 「こうなったら仕方ないな。あとは頼んだ」  オルクヘルムにクロードの着替えを任せることにした。  今のイスラとゼロスはクロードに手を掴まれている。無理やり離せばきっと大泣きされてしまうことだろう。 「お前らわざとだろっ」 「人聞きが悪いこと言うなよ、俺だって弟を着替えさせてやりたい気持ちはある。でも無理やり手を離させるなんて非道な真似は出来ないからな」 「ぼくも、おててぎゅってしてるし」  イスラに続いてゼロスも言った。しかしゼロスの方は三歳児なので他意などない。  赤ん坊と手を繋いでニヤニヤしているイスラと、純粋にお任せするゼロス。  イスラもゼロスもクロードの着替えなど手慣れたもののはずだが、仕方ないんだとばかりにオルクヘルムに押し付ける。ゼロスはともかくイスラの方は完全に面白がっていた。 「絶対わざとだな……」 「心配するな、ちゃんと教えてやるから。うちではハウストだってしてるぞ」 「マジか。あれ十万年後の魔王だろ」 「子どもも三人目になるといろいろ吹っ切れるんだろ。魔王だがミルクも作れる。しかも温度調整も完璧だ」 「そういうものか、すげぇな……」  オルクヘルムが驚きながらも感心した。  みずから進んで子守りをするような男には見えなかったが、どうやらそうではないらしい。 「ねえねえ、まだ? クロードまってるんだけど」  ゼロスがクロードの手をにぎにぎしながらオルクヘルムを見た。  どうやらクロードをあやしていたようで、クロードは涙ぐみながらもじっとしている。  赤ん坊だがさすが次代の魔王である。今から自分はお着替えされると理解しているようだ。  こうしてオルクヘルムの前でじっとする赤ん坊。ここまでお膳立てされて突っぱねることはできない。  オルクヘルムは諦めたようなため息をついた。そう、初代王たちのなかでオルクヘルムは一番大人だった。

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