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第七章・円環の呪い1

◆◆◆◆◆◆  初代勇者イスラは夜の暗い森を一人で歩いていた。  今晩、イスラ以外の初代王たちが洞窟の家に泊まっている。しかしイスラはレオノーラだけをそこに残し、自分は行動を共にすることはなかった。  イスラは転移魔法で山奥へと移り、暗い夜道を無言で歩き続ける。  しばらく歩くと鬱蒼とした茂みを抜けた先にぽっかりと開いた空間があった。  そこは集落跡。かつては山奥でひっそりと暮らしていた人間の村である。  集落跡のそこかしこに朽ちた廃墟があった。今にも崩れ落ちそうな廃墟だが、十年ほど前まで人が住んでいた家である。当時のままの食器や家財道具に村人の平穏な暮らしの面影が見えた。  だが、この村から平穏を奪ったのはイスラの父親であった。  部族の長だったイスラの父親は村を襲い、すべての村人を皆殺しにしたのである。そう、レオノーラ以外の村人を。  まだ子どもだったレオノーラだけが生き残り、イスラの従者としてなら生きることを許されたのだ。  イスラは集落跡をゆっくりと見回した。  きっと集落跡のどこかにレオノーラが暮らしていた家もあるのだろう。イスラは知らない、レオノーラに聞いたこともない。  イスラは集落跡を後にすると、さらに山奥に向かって道なき道をまっすぐ歩いていく。  しばらく歩くと木々に埋もれるようにして石造りの建物があった。廃墟の教会だ。  そこはレオノーラが幼い頃に通っていたという教会。魔力を持たない力無き人間たちが集っていた場所である。  イスラは中に入って祭壇に刻まれた紋章を見つめた。  紋章はゲオルクが落としたブローチに刻まれていたのと同じもの。  その事実はイスラの中に長年あった疑問を確信に変えていく。それは意識して触れないようにしていた疑問だ。しかし、もうその疑問を暴かなければならない。  ガンッ!!  イスラは祭壇を蹴り飛ばす。  祭壇が鎮座していた場所に地下へ続く階段が現われた。  地下への階段を下りていく。その先には古めかしい扉が現われ、ゆっくりと開けた。  そこは研究室のような部屋だった。  イスラは放置された研究書類に目を通し、その内容に口元を歪める。  それは『祈り石の製作実験記録』。ゲオルクをはじめとした力無き人間は、みずからの祈りを力に変える呪法の研究をしていたのだ。  まさしく邪教のそれ。この教会に集っていた力無き人間は邪教の信者だったということ。 「……やはりそうだったのか。レオノーラ、お前は……」  言葉が続かなかった。  イスラは研究室を出る。廃墟の教会を後にしたと同時に火炎魔法陣を発動させた。  高温の炎が廃墟の教会と地下研究室を焼き尽くす。研究室の記録は後世に残してはならない呪法だからだ。  イスラは炎上する教会を見つめながら、レオノーラと初めて出会った時のことを思い出す。  イスラが五歳に満たない頃、首領である父親が子どもを連れてきた。イスラより少し年上の子どもだ。 『……はじめまして、レオノーラともうします』  初めて出会ったレオノーラはひどく怯えていた。緊張に強張り、張り詰めた顔をしていた。そう、気丈なのに針で突けば今にも泣きだしそうな顔だ。  でもレオノーラは泣いたりしていない。まるで何かに必死に耐えているような、戦っているような顔だった。  まだ幼かった当時のイスラはその意味が分からなかった。しかし今思えば当然のことだ。あの時、レオノーラの村は襲撃を受けて数日しか経過していなかったのだから。  その時のレオノーラは親も身近な人々も帰る場所さえも失くしていた。ましてや引き合わされたイスラは村を襲撃した首領の息子で、当時のレオノーラは恐怖と悲壮感でいっぱいだったことだろう。 『イスラ、この子どもがお前の面倒を見てくれる。年も近いし遊び相手に丁度いいだろう』  首領である父親がイスラにそう言った。  しかしイスラに親しみや喜びといった特別な感情が生まれることはない。  イスラが生まれてすぐに母親は病死し、それからずっと独りだ。首領である父親は戦いに明け暮れて、イスラを可愛がったり優しい言葉をかけたりすることはなかった。首領の息子として不自由なく暮らしていたが、それだけだったのだ。  反応の薄いイスラに父親は舌打ちするとレオノーラをおいて立ち去った。次の戦場に向かったのだろう。  それから幼いイスラの側には子どものレオノーラが控えるようになった。  イスラが心を開くことはなかったが、子どものレオノーラはまだ幼かったイスラの世話をしてどんな時も一緒にいたのだ。  そんなある日の夜、イスラが滞在していた陣営が強襲された。以前イスラの父親によって滅ぼされた部族の復讐である。  幼いイスラは殺されそうになったがレオノーラが命懸けで守ってくれた。  レオノーラは背中を切られて大怪我をしながらも、それでもイスラを抱きしめたのだ。そして。 『イスラさま、お怪我は……?』 『レオノーラっ……』 『良かった。ご無事、なんですね……』  レオノーラはイスラの無事をたしかめると、痛みに顔を歪めながらも微笑んだ。  そのまま意識を失ったレオノーラ。  イスラは強い衝撃と動揺を覚え、この時に規格外の力を覚醒させたのだ。  その夜、陣営は赤く染まった。  強襲した敵は百人を超えていたが、すべてイスラが殺したのである。

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