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第七章・円環の呪い4
「このような場所で不自由もあったかと思いますが、そう言っていただけて嬉しいです。また機会があればぜひ作らせてもらいますね」
「おっ、言ったな! ガハハッ、俺は覚えたぞ」
朗らかなオルクヘルムに私まで笑ってしまう。
オルクヘルムは十万年後の料理をとても気に入ってくれたようで、昨夜もたくさん食べてくれました。最初は言いたいこともたくさんありましたが、気持ちのいい食べっぷりに私の方が折れました。
「はい、覚えておいてください。またお気に召していただけると思います」
「そりゃいい、楽しみが増えたぜ」
自信満々に答えた私にオルクヘルムが面白そうに目を細めました。
私は頷いて次にジェノキスを見ました。
「またしばらく精霊王様のところにいるんですね」
「ああ、そうするつもりだ。なにかあったら連絡してくれ。今度は邪魔されるようなヘマもしないから安心しろ」
「はい、ゲオルクの島のことが分かったら連絡します」
「頼む。ここはなにがあるか分からない時代だ。あんたは魔王様か勇者様か冥王様か、とにかく誰でもいいから側を離れるなよ?」
「もちろんです。分かっていますよ」
こうして挨拶をして見送りします。
私の隣に立っていたゼロスも、ハウストに抱っこされているクロードも上手に見送りできますよ。
「おみやげ、どうぞ! またあそびにきてね!」
「あいっ」
ゼロスが袋詰めにした十万年後のお菓子を差しだしました。クロードも一緒に袋詰めにしたどんぐりを差しだしています。
今朝、早起きしたゼロスはお気に入りのお菓子を並べ、ああでもないこうでもないと言いながら袋詰めしていたのですよ。
「おおっ、まさか手土産まで用意してもらえるとは驚いた! 感激したぞっ、ぜひいただこう! 感謝する!」
「こりゃ嬉しい土産だなっ。ガハハハッ、このどんぐりもいい形だ!」
「まあね! みんな、よろこぶとおもって!」
「ばぶっ!」
とても喜んでもらえてゼロスとクロードは誇らしげに胸を張りました。
朝早くから用意した甲斐がありましたね。二人はとても真剣な様子でお土産を用意していたのです。間違えないように指差しで何度も確認して、……ああでも、あのお土産はちゃんと受け取ってもらえたでしょうか。
ふと早朝のことを思いだします。
――――時はさかのぼって、早朝。
私はハウストとイスラに手伝ってもらいながら朝食の支度をしていました。
野宿した時の調理は力仕事もたくさんあるので、いつもハウストやイスラが手伝ってくれるのです。二人とも手際が良いので助かります。
「うーん、おはよ~……」
ゼロスが起きてきました。
いつもより早い時間の起床です。
「おはようございます。今日は早いですね、一人で起きられてえらいですよ。顔と歯を洗ってきなさい、朝食はもう少し待ってくださいね」
「はーい」
ゼロスは眠そうにあくびしながら顔を洗いに行きました。
それを見送って調理を続けようとしましたが、あぶー……と背後の寝床から小さな声。今度はクロードの目が覚めたようですね。
調理の続きをハウストとイスラに任せ、目が覚めたクロードの元へ。
「クロード、おはようございます。あなたも今日は早いですね」
「あうー、あー」
「ふふふ、よく眠れたんですね。ご機嫌なので助かります」
こうしてクロードをあやしていると、ふとゼロスがなにやらしている姿が見えました。
しかもとても真剣な様子で、私はクロードを抱っこしてゼロスのところへ行きました。
「なにしてるんですか?」
「あ、ブレイラ~。いまね、みんなのおみやげつくってるの」
「おみやげ?」
「そう。みんなでたのしかったから、ありがとうってしようとおもって」
ゼロスはそう言うと並べたお菓子を見せてくれます。
そこに並べられていたのは、私がゼロスのためにと持ってきた十万年後のおやつです。どれもゼロスが大好きな焼き菓子ばかりでした。
「これと、これと、あとこれも。こっちのもおいしいから、もうひとつずつ」
小さな指で数えながらお菓子を人数分に分けています。
小分けにする小袋とリボンまで準備しているので、プレゼントのお土産ですね。魔界の城で式典が開かれると記念品を用意しているので、きっとそれを見て覚えたのですね。
「ふふふ、きっと喜びます。中身はゼロスの好きなお菓子ばかりなんですね」
「うん。これぼくのすきなおかし。こっちのも。おいしいのばっかりある」
「たくさん用意しましたね。でも、あなたのお菓子が少なくなっていますが大丈夫ですか? この時代ではあなたが魔界のお城で食べているお菓子は手に入りませんよ?」
「ううん? …………。っ、ああ! そうだった!」
少し考えて意味に気付いたようです。
そう、ここは十万年前の世界です。今持っているお菓子がなくなったら、元の時代に戻るまで食べられないのですよ。
「そっかあ……。うーん、うーん、……そうだけど、いいの! おみやげにする!」
「いいんですか?」
「うん、これおいしいから、みんなもよろこぶとおもって」
「そうですか」
私は頷いて笑いかけました。
ゼロスの優しい答えを嬉しいと思いました。でも同時に、胸に微かな切なさを覚えてしまうのはどうしてでしょうね。
純粋で優しいあなたに、私ができることをしてあげたい。
「では、また私が作ってあげます。ゼロスの好きなもの、なんでも作ってあげます」
「えっ、ほんと!?」
「はい、たくさん作ります。この時代で同じものを作るのは難しいですが、あなたの好きなものをたくさん作ります。あなたがたくさん配っても、あなたの好きなものは決してなくなりません」
「やった~! ブレイラ、ありがと~!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶゼロス。
ゼロスは俄然張り切ってお菓子の袋詰め作業を再開しました。
リボンも上手に結べますね、おしゃれさんなゼロスが選んだおしゃれな水玉リボンです。
見守っていると、抱っこしているクロードもなにやらおしゃべりします。
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