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第七章・円環の呪い5

「あぶー、あーあー!」 「クロード、どうしました?」 「クロードもおみやげつくりたいの?」 「あいっ。あぶー、あー」  クロードもゼロスのお土産を指差したりリュックサックを指差したり。どうやら袋詰め作業に興味津々のようで、同じことをしたいと訴えているようでした。 「クロードのは赤ちゃんのお菓子ですから、ちょっとお土産にはできませんね。別の物にしましょう」 「うーん、それならどんぐりは? どんぐりはかわいいから、よろこぶんじゃないかなあ」 「ふふふ、そうですね。ではあとでどんぐりを拾いに行きましょう。洞窟の近くにどんぐりの木がありましたからすぐに見つけられますよ」  ゼロスの提案でどんぐりに決定しました。  お菓子の袋詰め作業が終わると次はどんぐり拾いです。  私たちは洞窟の前でさっそくどんぐりを拾い始めましたが、ふと洞窟からレオノーラが出てきました。 「レオノーラ様、おはようございます。早いお目覚めですね、朝食までまだ少しお時間をいただきたいのですが」 「お構いなく。そろそろ失礼しようかと思い、起きてまいりました」 「え、まだこんなに早い時間なのに帰るんですか?」  少し驚いてしまいました。  まだ早朝の澄んだ空気が気持ちいい時間で、他の初代王様はお休みになっているのに……。  困惑する私にレオノーラが穏やかに微笑みます。 「はい、昨夜はおいしい食事をありがとうございました。夜もゆっくり休むことができました。ブレイラ様や十万年後の方々には感謝しています。お世話になりました」 「レオノーラ様……」  私は少し迷って……、でも改めてレオノーラに聞いてみます。 「……失礼を承知で伺ってもいいでしょうか」 「どうぞ、なんでしょうか」 「こんなに早い時間でも戻りたいと思うのは、初代イスラ様のためですか?」 「はい。イスラ様のお側にいることが私の望みです」  レオノーラが静かに答えました。  そこに一切の迷いもありません。それがレオノーラの本心ということ。  でも、初代イスラのレオノーラに対する態度は辛辣で邪険にしたものです。それでも側にいたいと思うのは、それはレオノーラにとって初代イスラが何ものにも代え難い存在だからでしょう。  ……少しだけ。ほんとうに少しだけ、その気持ちが分かります。  恋愛する相手に邪険にされれば心が千切れてしまうけれど、そうでない相手ならば……。そう、たとえば友愛、親愛、兄弟愛、この場合は親子愛に近いものでしょうか。私にとってのイスラやゼロスやクロードのように。  もちろんレオノーラと初代イスラは主従関係で親子ではないのだけれど。 「……分かりました。どうか気を付けて」  引き止めてもレオノーラの意志は変わらないようでした。  そんな私たちのやり取りを聞いていたゼロスも残念そうな顔になります。 「もうかえっちゃうの? ここで、あさごはんたべないの? あさごはんたべないと、げんきでないよ?」  なんとか引き止めようとするゼロス。  レオノーラは膝をついてゼロスの目線に合わせると、大丈夫ですよと優しく目を細めます。 「帰ってから食べるので大丈夫ですよ」 「ここでたべなよ。おりょうりおいしいよ?」 「お誘いありがとうございます。またの機会にご馳走になります」 「…………」  微笑みながらも頑ななレオノーラに、ゼロスの眉が八の字になりました。  みるからに残念そうなゼロスですが渋々ながらも納得します。 「……わかった、またこんどね。それじゃあ、これどうぞ!」  ゼロスが袋詰めしたお菓子を差しだします。  それは水玉リボンの可愛いプレゼント。そう、ゼロスが用意したお土産でした。  レオノーラは差し出されたそれに困惑したように目を瞬きます。 「……これは?」 「レオノーラにおみやげ! あともうひとつ、どうぞ! あいつにも、どうぞってしといて?」 「……あいつ? もしかして……イスラ様のことですか?」 「そう。あにうえとおんなじなまえだけど、あにうえじゃないひと。きのうかえっちゃったから、どうぞってしといてほしいの。こんどはあそびにきてねっていっといて」  レオノーラはますます困惑してしまったようでした。  どうしていいか分からない様子のレオノーラに声を掛けます。 「レオノーラ様、ご迷惑でなければ受け取ってあげてください。ゼロスは皆さんが来てくれて楽しかったんです。初代イスラ様にも渡してください」 「…………そうですか、ではそうさせていただきます。ありがとうございます」 「どういたしまして!」  困惑しながらも受け取ってくれたレオノーラ。  それを見ていたクロードも「あいっ、あいっ」と握りしめていたどんぐりを渡そうとしています。 「あ、ありがとうございます」 「ばぶっ。あーあー」  レオノーラが受け取るとクロードも満足そうでした。  でもレオノーラは手中のお土産をなんだか不思議そうな顔で見つめています。 「どうしました? 苦手なものでも入っていましたか?」 「すみません、そういうわけじゃないんです。……ただ、不思議な気持ちになりました。不思議な気持ちに……」  そう言ってお土産のお菓子とどんぐりを見つめます。  不思議と言いながら少し切なげな顔をしている。けれど、目元に穏やかな光が差している。レオノーラは気付いているでしょうか。 「レオノーラ様、その気持ちはレオノーラ様を苦しめてしまうものですか?」 「…………いいえ、少し苦しくなっただけで、不思議と穏やかでもあります」 「そうですか。レオノーラ様にとって悪いものでないなら安心しました。どうぞ、道中お気を付けて」 「はい、ありがとうございます。お世話になりました」  レオノーラは深々とお辞儀すると立ち去っていきます。 「バイバ~イ! きをつけてね~! またあそびにきてね~!」 「あぶ~、あー!」 「ふふふ、クロードもバイバイですね」  私は抱っこしているクロードの小さな手を振ってあげました。  元気に手を振るゼロスとクロードに、レオノーラは振り返ると少し困った顔になります。でも困った顔で微笑んで、ぺこりと頭を下げて帰っていきました。  見えなくなるまで見送ると、私たちはまたどんぐり拾いの再開です。 「クロード~、こっちにかわいいどんぐりあったよ~」 「あーうー、あ~っ!」  楽しそうにどんぐりを探しているゼロスとクロード。  幼い二人の姿に心が和みますが、先ほどのレオノーラの様子が胸に引っ掛かっていました。  レオノーラのふとした時に見せる切なげな表情を思い出すと、胸がぎゅっと締め付けられるのです。  きっと、きっと私などには想像もつかない悲しみや苦難を乗り越えて今があるのでしょう。……どうかレオノーラが押し潰されてしまいませんように。  ――――早朝に帰ってしまったレオノーラを思いだしていました。  今頃レオノーラは何をしているでしょうか。初代イスラの元へ無事に帰れたでしょうか。とても腕が立つ剣士だと聞いているので大丈夫だと思いますが、肝心の初代イスラとの関係が複雑すぎるので心配してしまいます。

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