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第七章・円環の呪い7
「ちょっとまって! おみやげどうぞ!」
「……俺のもあるのか」
「ある!」
「ばぶぶっ。あいっ」
ゼロスとクロードがお土産を差しだします。
困惑しながらもデルバートは受け取ってくれました。
帰っていくデルバートをゼロスとクロードが手を振って見送ります。クロードはまだ上手にバイバイできませんが、イスラが手を振らせてくれているようでした。
私は隣で一緒に見送っているハウストに話しかけます。
「デルバート様って少し律儀というか誠実というか、ちょっと生真面目なところありますよね。外見はあなたと重なるところがありますが中身はあまり似ていませんね。どちらかというと正反対なんじゃないですか?」
「そうか? 俺だって誠実だろ。どちらかというと律儀だ。お前だって知ってるだろ」
「そうですけど、そういうことじゃなくてですね」
説明しようとしましたが、ハウストは少し不機嫌な顔で「俺は真面目な方だ」とぶつぶつと。
「……なに対抗意識燃やしてるんですか」
「お前があの男を甘やかすからだろ。まあいい、それよりこれからのことだ」
ハウストが改まって言いました。
イスラも真剣な顔で振り返り、ゼロスも張り切った顔をします。ゼロスはいまいち事態を分かっていませんが、なにか大変なことが起きつつあるということは分かっているのです。
私も緊張感が高まりました。
「ハウスト、ゲオルクが祈り石を製造したという孤島へ行くのですね」
「ああ、あの男は俺たちの祈り石を破壊した。このままただで済ますつもりはない」
「俺も同じ意見だ。このまま一方的に好きにされたままなのは気に入らない。必ず報復する」
イスラも同意しました。
しかも勇者が『報復』なんて物騒な……。二人とも負けず嫌いの自信家なので、一方的に攻撃を受けたという状況が気に入らないようです。
そしてそんな二人を見上げてゼロスも手をあげて割り込みました。
「ハイッ! ハイッ! ぼくもおんなじことかんがえてた!」
「絶対考えてなかっただろ」
イスラが意地悪な口調で言うと、ゼロスがムッとした顔で言い返します。
「ほんとだもん、かんがえてたもん。ちちうえとあにうえと、おんなじことかんがえてた!」
自分も父上と兄上と同じだとゼロスがアピールしました。
そのほのぼのした様子に目を細めましたが、いよいよなのですね。おそらく初代王の四人もゲオルクの孤島へ行くでしょう。祈り石も異形の怪物もそこから始まったなら、そこに行かなければ終わりません。
「ではさっそく準備しましょう。準備が終わったら出発です」
「よし、俺が荷物を纏める。ブレイラ、こっちも片付けていいか?」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
イスラがさっそく動いてくれて、それにゼロスとクロードも続きます。
「ぼくもおてつだいする!」
「あいっ」
クロードは応援の担当さんですね。三人が手伝ってくれて助かります。
こうしてハウストと三人の子どもたちは各自で準備を始めます。私は出掛ける準備をしている三人の子どもたちに目を細めました。
でも少し悩んで、荷物を纏めているハウストの背中に声を掛けます。
「……ハウスト」
「どうした?」
振り返った彼が作業の手を止めてくれました。
私はハウストの隣にしゃがんで、後ろで片付けをしている子どもたちに聞こえないように小声で話します。
「……私、渡せませんでした」
「ああ、あれか」
「はい……。その、渡してよいものかと迷ってしまって……」
それは祈り石のペンダント。
この十万年前に来る前に、ドミニクに新しい祈り石のペンダントを作ってもらったのです。三人の子どもたちにお揃いのペンダントを渡そうと思っていたのに、祈り石はゲオルクによって製造された物だと聞いてしまって……。
どうしても迷ってしまう。今まで祈り石に何度も守られてきたので、悪しき石ではないと信じているけれど。
視線を落とした私にハウストも頷きました。
「迷うのも無理もない。あんな話しを聞いてしまったらな」
「はい……」
複雑でした。今まで御守りのように思っていた祈り石は、魔力無しの人間が製造した恨みの石だったのです。
しかも製造者は異形の怪物を生み出したゲオルク。それを知ってしまって、今までと同じように祈り石のペンダントは贈れませんでした。私の大切なハウストと三人の子どもたちなのですから。
「……すみません、せっかく作ってもらったのに。あなたにも指輪を貰ってほしいと思っているんですが……」
「俺は今すぐでも欲しいが、お前が納得してからでいいぞ」
「指輪、したいんですか? 祈り石なのに……」
「当たり前だ。あれはお前の瞳と同じ色だからな、気に入っている」
「私の瞳と同じ……、それは嬉しいことを」
少しだけ気持ちが軽くなりました。
まだ迷っていますがハウストの言葉は嬉しいのです。
「でももう少しだけ考えさせてください。もし、ハウストや子どもたちに何かあったら」
「うわああああああん! ブレイラ~、あにうえがっ、あにうえが~~!」
「わあっ、ゼロス!」
突然背中に抱きつかれて驚きました。ゼロスです。
今までイスラやクロードと一緒に片付けをしていたのに大泣きしながら訴えてきます。
「ぼく、いっしょうけんめいおかたづけしてたのに、あにうえがじゃまっていうの! うえええええええん!」
「途中から遊びだしといてなにが一生懸命だ」
「クロードもしてた!」
ゼロスが果敢に言い返しましたが……やっぱり途中から遊んでいたのですね。
イスラも呆れた顔になっています。
「クロードはまだ赤ん坊だろ」
「だって、えほん、おもしろかったから~」
「後にしろ。ほら、自分の荷物は自分で片付けるんだろ?」
そう言ってイスラがゼロス愛用の子ども用リュックサックを掲げてみせます。
するとゼロスも「そうだった!」とするべきことを思い出したようでした。
「ゼロス、頑張ってくださいね。片付けと準備が終わったら出発しましょう」
「うん、ぼくできる!」
ゼロスは張り切って出発準備を再開しました。
私もイスラやゼロスと一緒に準備をすることにしましょう。祈り石のペンダントのことは迷っていますが、とりあえずゲオルクの孤島へ行く必要があります。
「では、私もイスラとゼロスと一緒に準備をしてきますね」
「待て、ブレイラ」
「なんでしょうか」
「祈り石のことで迷いが生まれてしまったのは理解するが、ブレイラの祈り石が俺たちを守った事実は変わらない。お前の祈り石がなければ、今の俺たちはここにいない。それだけは忘れるな」
ハウストが真剣な顔で言いました。
はい、忘れたことはありません。忘れられるはずがありません。
でもだからこそ、これほど大きな力を持っている石だからこそ、私は恐れてしまうのです。この大きな力が、四界の王すらも守ったこの奇跡の力が、あなた方に牙を剥く時がくるのではないかと……。
黙り込んだ私にハウストがふっと表情を和らげます。
「ペンダントをどうするかはお前に任せる。今はゲオルクを倒すことを最優先にしよう。あの男を片付ければお前も少しは気が晴れるだろ」
ハウストが冗談めかして言いました。
そんな彼に私も小さく笑って頷きます。
「ふふふ、そうですね。ありがとうございます」
気遣ってくれたハウストに感謝します。
そうですね、今はゲオルクの孤島へ行くことが先決。復讐という野望を阻止しなければなりません。
私は子どもたちと出発準備を進めたのでした。
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