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第七章・円環の呪い14

「相手が誰だろうと始末する。ゼロス、ブレイラとクロードから離れるなよ」 「わかった!」  ゼロスの返事にイスラは頷くと、炎の巨人を囲むように千を越えるほどの魔法陣を出現させました。  魔法陣から鋭い剣が現われて、炎の巨人に向かって矢のように飛んでいく。  でもそれだけでは終わりません。イスラは剣に乗って炎の巨人に接近しました。  巨人の高温に剣の鉄が解けていくも、更なる剣を出現させて攻撃を仕掛けます。 「ブレイラ、こっち! あにうえがおっきいのとたたかってるうちに、こっちきて!」 「分かりました! イスラ、どうか気を付けて!」  私がここにいても邪魔になるだけ。蝙蝠に乗ったゼロスが誘導してくれます。  私を乗せた鷹が付いて行きますが、その時、炎の巨人の動きが変わりました。  炎の巨人が反応し、私に向かって炎の腕を伸ばしてきたのです。 「え、ええ!? わあああっ!」  寸前で鷹が避けてくれたけれど、まるで捕まえようとするような動きでした。  サアッと青褪める。炎の手に掴まったら一瞬で骨も残らないのですから。  でも炎の巨人の動きは止まりません。  イスラとゼロスが攪乱してくれるけれど、また腕を振り上げて、一気に振り下ろされる! 「わあああっ!」  ビュウッ!!  強烈な突風に煽られて鷹が飛ばされる。鷹はなんとか飛行を建て直そうとしましたが、次の瞬間、――――ドンッ!!!! 「っ、うわあああああああああああああ!!!!」 「ピイイィィィィィィィィィッ!!」  突如、衝突の衝撃。鷹と私が海に落下していく。  そう、空中で鷹が見えない壁に激突したのです。  ドボーーンッ!!!!  飛沫をあげて夜の大海原に落ちました。  しかも大渦に囚われて、泳げない私は海底に引きずり込まれていく。 「っ、うぅっ、あぷっ、クロ……ド……!」  クロード! クロード!!  せめてクロードだけでも、クロードだけでも助けなければ!  私は溺れながらもクロードを抱きしめ、もがいて海面に顔をだす。でも泳げないのですぐに沈んで、でももがいて顔をだしてなんとか呼吸を繋ぎました。しかしまた波を被って沈みそうになって。 「ブレイラ!!」  イスラの声がしたかと思うと、力強い腕に体を引き上げられました。 「プハッ……! うぅ、イス……ラッ……っ!」 「大丈夫だ、落ち着け! 俺がちゃんと抱いてるから、ゆっくり呼吸しろ!」  イスラの力強い腕が私をクロードごと支えてくれました。  安定して海面に顔を出せるようになってなんとか呼吸を整えます。 「ゴホゴホッ、……イスラ、ありがとうございますっ……! ックロードは!? クロード!!」  私は懐に抱っこ紐で括りつけているクロードを見ます。  クロードは浮力でぷかぷか浮きながら「ぷはっ、ぷはっ」と小さなお口をパクパクして呼吸していました。でも私と目があうと大きな瞳がじわじわ潤んでいく。 「うぅっ、ああああああん! あああああああああん!」 「クロードはこんだけ泣ければ大丈夫だ。心配するな」  大絶叫で泣きだしたクロードにイスラも安堵します。  良かった。まだ覚醒前の赤ちゃんとはいえクロードも神格の存在なのですね。無事な姿に安心しました。 「このまま島まで泳ぐぞ。ブレイラはクロードをしっかり抱いてろ」 「分かりましたっ。お願いします……! うぅっ、プハッ……」 「ああああん! ぷはっ。あああああああん! ぷはっ」 「クロード、上手な呼吸ですよ。頑張りましょうねっ……。プハッ」  私とクロードはイスラに支えられながら島を目指します。  クロードは大きな声で泣いていますが、ぷはっ、ぷはっ、ととても上手な呼吸です。  泳げない私はイスラにしがみ付きながらも、足をバタバタして少しでも前へ進むお手伝いをします。  ここは荒波の渦の中ですが、イスラの力強い泳ぎは激流すらもものともしないものでした。  こうして島を目指しましたが、――――グイッ!! 「えっ? わああああ! うぅっ、ブクブクブク……プハッ!」 「ブレイラ、どうしたんだ!?」  突然もがきだした私にイスラが驚いた顔をしました。  私も訳が分かりません。でも今、体が海底へと引きずられているのです。 「ひ、引きずられていますっ! 体に、なにか巻き付いてっ……! うぷっ、ブクブクブク……。プハッ、……ゴホゴホッ」 「ブレイラ、しっかりしろ!」  イスラが引き上げてくれるけれど、すぐに体が引きずり込まれてしまう。  今、たしかに私の体に何かが巻き付いている。でも何も見えなくて混乱しそう。しかもどれだけ抗っても体に巻き付いたままで、私を凄まじい力で引きずり込もうとしている。 「イスラっ、クロードをっ……! クロードをおねがいしますっ!」  私は急いで抱っこ紐を解いて、それごとクロードをイスラに押し付けました。  でもイスラが意味を察して怒りだしてしまう。 「駄目だ! 諦めるなっ、俺がなんとかするから!」 「せめてクロードをっ、クロードをお願いします! クロードを安全な場所にっ……! うぷッ、ゴホゴホ……ッ!」  この海には得体の知れないなにかがいますっ。  もしクロードまで巻き込んでしまったら、私はっ……! 「イスラ、お願いですッ! はやく、はやく……!」 「あああああああん!! あああああああああああん!!」 「ッ……!」  クロードの大きな泣き声にイスラが奥歯を噛み締めました。  イスラも私がなにかに引きずり込まれていることに気付いているのです。でもここにはまだ赤ん坊のクロードがいて、とても無茶をできる状態ではありません。  今の最善は一つ、イスラがクロードを連れてここを離れること。 「お願いですっ、はやく行ってくださいっ……!」 「くっそおぉぉッ……!!」  私たちに限界が近づいた、その時。 「ブレイラー! まっててねー! ぼくがたすけてあげるからねー!!」  不意に聞こえた声!  私とイスラは振り返って、暗い海で光を見る。 「おーい! おーい! ブレイラー!! ぼくがきたから、もうだいじょうぶだよー!!」  そう、ゼロスです! こちらに向かって猛烈な勢いで泳いでいます!!  バシャバシャバシャバシャバシャバシャ!!!!  小さな体からあがる大きな水飛沫。渦巻の激流など無視する力強い泳力で、真っすぐに私たちがいる方へ泳いできます。 「……あいつ、なにが『おーい』だっ」  そう言いながらもイスラの口元がニヤリと笑っていました。  イスラはゼロスに向かって声を張り上げます。 「えらいぞゼロスっ、最高だ! 今お前の頭を思いっきり撫でて褒めてやりたい気分だ!!」 「え、なになに!? どうゆうこと!?」 「受け取れ!!!!」  イスラがクロードを片手で鷲掴むと、泳いでいるゼロスに向かって勢いよく投げました。  真っすぐ飛んでいく赤ちゃんをゼロスが慌てて受けとめます。

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