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第八章・力無き者たちの祈り2
「海流に乗ったからでしょうか。私たちの共通点はそれだけです」
「あれは本当に海流だったのか、俺はそれも疑問だ」
「では、あれは海流ではなかったというんですか? 海の中でしたよ?」
聞き返すと、イスラは険しい顔で昨夜のことを話します。
「ブレイラ、昨夜の炎の巨人はブレイラが海に落ちると姿を消したんだ。転落前になにか異変はなかったか?」
「異変ですか……、昨夜は必死だったのでよく覚えていませんが。……あ、そういえば空でなにかにぶつかったんです。私が乗っていた鷹が空で壁のようなものに衝突して、その衝撃で私たちは海に落下したんです」
「壁?」
「はい、見えない壁のようでした」
「そうか……」
イスラは考え込むように黙ってしまう。
でも少ししてイスラが私とレオノーラを見つめます。
「まるでブレイラとレオノーラをこの島に呼んでいるみたいだな」
「え、それは……」
ない、とは言い切れないことに気付きました。
私とレオノーラの共通点、それは魔力無しの人間ということ。そしてゲオルクもまた私たちと同じなのです。
それは否定したくてもできない可能性の一つでした。
神妙な面持ちになってしまう私とレオノーラに、イスラが「悪かった」と苦笑します。
「あまり深く考えるな、例えばの話しだ。とりあえず今はハウストたちと合流しよう。ハウストとゼロスとクロードも必ずこの島に上陸しているはずだ」
「そうですね、三人と合流すればなにか分かるかもしれません。レオノーラ様、よかったら私たちと一緒に行きませんか?」
「私もですか?」
「お一人のご様子ですし、この島ではなにがあるか分かりません。レオノーラ様も初代のイスラを探しているんですよね。私たちと一緒に探しましょう」
「しかし……」
レオノーラが申し訳なさそうな顔になります。
彼はとても控えめなのです。きっと迷惑になるとでも思っているのでしょう。
そんなレオノーラをイスラも説得してくれます。
「そうしろ。そこそこ剣が使えるみたいだが、異形の怪物が出てきたら面倒だ。それにいいのか? あんたの知らないところで初代勇者と遭遇したら、俺は今度こそ決着をつけるぞ」
「それは、困ります……」
「そうだろ。それなら決まりだな」
「決まりですね」
良かった。この島ではなにがあるのか分からないのでレオノーラを一人にすることはできません。
こうして私たちはハウストたちを探すために島に入ったのでした。
◆◆◆◆◆◆
「ちちうえ、ブレイラたちどっちだとおもう?」
「さあな」
「ええっ、ちちうえなのにわかんないの!?」
ゼロスがびっくりした顔で言った。
ついでにハウストが抱っこしているクロードまで「ばぶっ!?」としゃぶっていたハンカチをポロッと口から落とした。
そんな素直すぎる反応の息子たちにイラッとなる。
「……俺だって分からないことくらいある」
「ちちうえなのに?」
「父上でも、だ」
そう、父上でも分からないことくらいあるものだ。
島内を歩きだして一時間。
実際、この島は歩いてみて気付いたが島全体に妙な術をかけられているようだった。それは魔力などではなく、なにも感じない力。そう、ゲオルクが使っていた祈り石の力だ。
ここは草木が鬱蒼と生い茂る森である。しかし。
「あ、みずうみだ! ちちうえ、みずうみあった!」
「ああ、そうだな」
草木が開けた先に湖が見えた。
ゼロスは無邪気に駆け寄り、抱っこしているクロードも嬉しそうに「あぶぶっ」と手を振っている。
三人は湖畔で少し休憩することにした。
だがハウストは気付いている。この湖に来たのは四回目だということに。
四回とも湖の形が違っているのでゼロスは気付いていないが、湖から感じる不可解な違和感がハウストにそれを気付かせた。
はしゃいでいるゼロスとクロードに呆れてしまうが、でもそれは仕方ないことである。
ハウストでさえ違和感でしか気付けないのだから、ゼロスが気付かないのは無理がない。
「ちちうえ、みてみて! おさかなさんいる!」
ここ! ここ! とゼロスが湖面を指差している。
面倒だな……とハウストは思ったが、抱っこしているクロードまでハウストの腕をパシパシ叩く。早く行けということだ。
ハウストは小さくため息をつくと、湖畔でしゃがんでいるゼロスの後ろに立つ。身を乗り出すクロードにも湖を見せてやった。
「あぶっ、あー!」
「クロード、ここだよ! ほら、かわいいのおよいでるでしょ?」
「あいっ」
二人は湖の魚を見ながら、洞窟で留守番をしている友達の小魚を思い出す。
「どうくつのおさかなさん、おるすばんじょうずにしてるかなあ」
「あうー……」
「さびしがってないかなあ」
「あうー……」
ゼロスとクロードの眉尻が下がって心配そうな顔になった。
そんな二人はいじらしくもあるが、ハウストは洞窟を出発する時のことを思い出してげんなりする。
ゼロスは洞窟の小魚も一緒に連れていく気だったのだ。
『ちちうえ~、おさかなさん、どうやっていっしょにつれてく? かんがえてほしいんだけど』
『どうして連れてくことが決定してるんだ。連れてくわけないだろ』
『どうしてダメっていうの!』
『どうして連れていけると思ったんだ』
どうしてどうしてとやり取りがあり、ブレイラが説得してなんとかゼロスも引き下がったのである。
「あっ、こっちにもいる。おさかなさ~ん!」
「あぶ~っ」
ゼロスとクロードが湖面に向かって呼びかけている。
ハウストはなにげなくそこを見てギョッとした。デカい!
魚にしては巨大な黒い影。しかも猛烈な勢いで近づいて来ている。
ハウストは戦闘態勢をとったが。――――ザバアアアア!!
「わあっ、おじさんだ!!」
「ばぶぶっ!?」
ゼロスとクロードは驚いて引っくり返りそうになった。
突如湖面からヌッと現われた人物、それは初代幻想王オルクヘルムだったのだ。
オルクヘルムはハウストとゼロスとクロードを見るとニヤリと笑う。
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