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第八章・力無き者たちの祈り3

「この俺を魚と間違えるとは……。こんな男前な魚がいてたまるか」  そう言ってオルクヘルムがザブザブと湖畔に歩いてきた。  しかも堂々とした裸体で、筋骨隆々の肉体に自信満々だ。  そんな姿にハウストは呆れたように目を据わらせる。 「……こんな所でなにをしている」 「水浴びだ、見て分かるだろ。森の行軍も飽きてな、暇つぶしだ」 「なるほど。そういうことか」 「そういうことだ」  オルクヘルムが湖畔に上がる。  全裸のままだがもちろんオルクヘルムは気にしない。ハウストも気にしない。ゼロスとクロードはなんだかポカンと見つめてしまう。子どもなのでぶらぶらしている部分があると目が追いかけてしまうのだ。  そんな幼い二人の反応など構わず、オルクヘルムは周囲を見回した。 「ブレイラとクソガキはどうした。一緒じゃないのか?」 「クソガキ?」 「そっちの勇者だ。俺たちのところの勇者よりマシそうだが、クソガキはクソガキだ」 「……まあいい。ブレイラとイスラなら昨夜の嵐ではぐれた。今探しているところだ」 「あのでけぇ嵐か、昨夜はお互い散々だったな。俺の兵も船も大損害だ。残った船を修理させているが、おかげで直るまでは強制滞在だ。まあ、ゲオルク討伐もいい暇つぶしみたいなもんだな」  大損害だと言いながらも、ガハハッと明るく笑うオルクヘルム。  笑うたびに震動でぶらぶら揺れるので、ゼロスとクロードはさらに釘付けだ。ここにブレイラがいれば即座に二人の目を塞ぎ、オルクヘルムが辟易するほどの文句を言っていたことだろう。  しかしここにブレイラはいないので、ゼロスとクロードは存分にぶらぶらを見学し、オルクヘルムとハウストの会話は続いてしまう。 「少し行った先に陣を張ってある。休んでくか? 子連れは大変だろ。幻想族の陣営に招待してやるよ」 「えっ、ごしょうたい!?」  ゼロスがぴくりと反応した。  ぶらぶらする局部に釘付けになっていたが、ご招待という言葉に一気に引き戻されたのだ。ゼロスはご招待したりご招待されたりするのが好きなのである。 「おじさん、ぼくたちをごしょうたいしたいの!?」 「ああ、うまいものもあるぜ。腹いっぱい食ってけよ」 「ちちうえ、ぼくたちをごしょうたいしたいみたい! どうする!?」 「……行きたいんだろ」 「やった~! ごしょうたい~!」 「あいっ。あーあー!」  はしゃぐゼロスとクロードにハウストは呆れたようなため息をつく。  だが、ハウストも最初からこの招待は受けるつもりだった。その必要があるからだ。そしてそれはオルクヘルムも同じである。 「よし来い! お前らにご馳走になった礼をたっぷりしてやるよ!」 「たっぷりたっぷり!」 「あいっ! あいっ!」 「ああ、世話になる」  こうしてハウストとゼロスとクロードは、幻想族の陣営に行くことになったのだった。  オルクヘルムが着替えてからハウスト達は幻想族の陣営へとやってきたわけだが。  もじもじもじもじもじもじもじもじ。  いつも騒がしいゼロスが猛烈にもじもじし、その隣にちょこんと座っているクロードも「あう~……」と丸いほっぺを赤くしている。  それというのも。 「キャ~ッ、かわいい~!」 「あ~ん、こんな可愛い子ども見たことない~!」 「この赤ちゃんのお顔を見て? ちょっとツリ目なところもいいわ~!」  陣営に入った途端、幻想族の美女たちがゼロスとクロードを取り囲んだのである。このような孤島で幼い子どもに出会えたことに母性本能が刺激されたようだ。  ゼロスとクロードは十名を超える美女たちに囲まれてとても可愛がられていた。 「ぼくたち、お名前はなんていうの?」 「……ゼ、ゼロスですっ。こっちはおとうとのクロード」  ゼロスは恥ずかしそうにもじもじしながら答えた。  もちろんクロードの紹介も忘れない。クロードはまだ赤ちゃんなので、兄上のゼロスが紹介してあげるのだ。 「ゼロスくんとクロードくんっていうのね~! かわいい~!!」 「キャ~ッ、お名前もちゃんと言えるなんてえらい~!!」 「それじゃあ、いくつなの? わかるかな?」 「えっとね、……みっつ。クロードはあかちゃん」 「あうー、あー」  そう言ってゼロスが照れながら小さな指を三本立てる。 「キャ~~~~!!!!」  ゼロスのなにげない仕種と赤ちゃんのなにげないおしゃべり。たったそれだけの仕種で美女たちは更なる歓声をあげた。子どもとは得である。 「キャ~~ッ、かわいいいい~!!」 「や~んッ、なでなでしたい~!!」 「これ食べる? このフルーツとっても甘くておいしいの!!」 「赤ちゃんプニプニ~~!!」  キャーキャーと甲高い歓声が陣営の一角であがっている。  他の幻想族の兵士たちは誰も近づけずに遠巻きに眺めるばかりだ。  そしてハウストとオルクヘルムも少し離れた場所から美女に囲まれた子どもと赤ちゃんを見ている。 「悪いな、俺のとこのが」 「いや、おとなしくなって丁度いい」  ハウストはニヤリと笑った。  いつも騒がしいゼロスとクロードだが、今は美女に囲まれて照れ臭そうに縮こまっている。人懐こいゼロスだが美女集団に圧倒されてしおらしくなっているのだ。  そんな愉快な姿を遠目に見ながら、ハウストとオルクヘルムは本題に入る。 「昨夜の嵐、どう思う」 「どう考えても仕掛けられていたものだろ」  ハウストは淡々と答えた。  そう、昨夜の嵐は故意的に起きたものだとハウストは勘付いている。

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