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第八章・力無き者たちの祈り4
「考えられる嵐の発動条件、それは島への接近だ」
「お前もそう思うか。他の王の軍隊も島に到着してるなら、あいつらも巻き込まれてるだろうな」
オルクヘルムも同意していた。
突然の嵐も異形の怪物の襲撃もゲオルクによって仕掛けられていたものと見ていいだろう。
だが、昨夜の海に出現したのはそれだけじゃなかった。
「あの炎の巨人もゲオルクだと思うか? そもそも俺はあんなの初めて見たぜ。十万年後にはいんのか?」
「いや、俺たちの時代にもいない。史書の記録にもなかった」
「それじゃあ、あれはゲオルクが作った異形の怪物とは別物な可能性もあるな」
「ああ、否定はできない。もう一つ悪い知らせだが、……もしかしたら、あそこにいたのは炎の巨人だけじゃなかったかもしれない」
「なに? あんなのが他にもいたってのか?」
「可能性の話しだ。姿は見えなかったが、あの場所には他にも何かがいたようだ」
昨夜、上空でブレイラが乗っていた巨大な鷹がなにかに衝突したようだった。
しかも海に転落したブレイラをイスラが救出できず、一緒に海中へと姿を消したのである。常時ならそれはあり得ないことだ。
しかしそのあり得ないことが起こった理由は一つ、海中で非常事態が起こっていたからだろう。その為、イスラはクロードをゼロスに託してブレイラとともに海中に姿を消した。それは炎の巨人と並ぶなにかが空と海中にもいたということである。
そしてもう一つ、それらはブレイラが海に姿を消したのと同時に姿を消したということ。考えたくないが、炎の巨人に目的があったとするならそれはブレイラを連れ去ることなのではないだろうか。それは予想の域を出ないが確信に近いと思えた。
不可解なことばかりだ。
オルクヘルムはスッキリしねぇなとばかりに大きなため息をついた。
「それにしても力無しってのは面倒だな。純然な祈りの力とやらは、魔力を感じなくて厄介だ」
「それは同感だ」
同意したハウストにオルクヘルムが「おっ」と顔を輝かせる。
「それは嬉しいねぇ。おい、それなら共闘しようぜ。分かってるだろ? 悪い話しじゃないはずだ」
「…………」
ハウストは眉間に皺を刻む。
そんなハウストにオルクヘルムがニヤリと笑った。
「十万年後の魔王、いやハウストと呼ぼう。今夜はこの陣営で休んでけよ」
「なにが休めだ。巻き込みたいだけだろ」
「そう言うなよ。それにほら、すっかり馴染んでるのがいるぞ?」
オルクヘルムがそう言って指した先にはゼロスとクロード。
二人の姿にハウストは呆れてしまう。
「あいつら……」
美女集団に囲まれたゼロスとクロードは完全にデレデレしていた。
あ~んしてもらったり、なでなでしてもらったり、完全に気が緩んでデレデレしている。
少ししてゼロスがクロードを抱っこし、ハウストのところに戻ってきた。
「ちちうえ、ただいま~」
「なにがただいまだ」
ハウストは呆れた顔をしているがゼロスが構うことはない。
それどころか「ふう、こまったなあ……」とぜんぜん困っていない顔で困っている。
しかも、チラッチラッとハウストを見ていた。それはまるで聞いてほしいと言わんばかりの視線だ。
とても面倒くさそうなのでハウストは気付かない振りをしようとしたが。
「どうしたのって、きかないの?」
「…………」
ゼロスは自己主張の強い甘えん坊であった。
どうやらハウストを見逃すつもりはないようである。
「どうしてこまってるか、ききたい?」
「…………」
「ねえねえ、ききたい? ききたい?」
聞きたくないに決まっている。
無視してしまいたいがゼロスは構ってほしがりである。
こういう時、ブレイラはゼロスが満足するまで相手をしていた。しかし今はブレイラがいないのでハウストが請け負うべきことだ。ハウストは観念して聞いてみる。
「……どうして困ってるんだ?」
「ちちうえ、ききたいの? しかたないなあ……」
「…………」
イラッとしたがハウストは我慢した。
相手はまだ三歳の子どもで、自分とブレイラの大切な第二子なのだ。そう何度も自分に言い聞かせて我慢した。
「あのおねいさんたち、ぼくのことがすきみたいなんだよね。ぼくとけっこんしたいっておもってるんじゃないかなあ……」
「そうか」
「でもぼく、ブレイラとけっこんだから、みんなとけっこんできないでしょ? だから、こまったなって……。ふう……」
ふう……、ため息をつくゼロス。
三歳児が遠い目をして悩んでいる。しかも。
「はふぅ~……」
その隣から聞こえてきたもう一つのため息。クロードだ。
ゼロスの隣にちょこんと座り、赤ちゃん特有の丸いほっぺを赤らめて「はふぅ~……」とため息だ。もちろん遠い目をしている。クロードも困った顔で悩んでいるようだ。
「ちちうえ、どうおもう?」
「……結婚でもなんでもしてろ」
「ぼくがけっこんしたら、ブレイラがないちゃうでしょ。もう、ちちうえは~」
ブレイラがかなしんじゃう、とばかりにプンプンしだした。
その隣ではクロードも「あうー……」とうなっている。幼い二人は真剣な悩みだったようだ。
「……悪かった。とりあえず明日の出発までゆっくり悩め」
「えっ、きょうはここでおとまりするの?」
「そうだ。今夜はここで休む」
「わあ~っ、おとまりのごしょうたい~!」
ゼロスの顔がパッと輝いた。
クロードも意味を察してパチパチしている。
そんな二人の姿にハウストは苦笑した。
「……まあ、ゆっくり休めるかどうかは知らんがな」
ハウストは呟いたが、もちろんゼロスとクロードの耳には届いていなかった。
こうしてハウストとゼロスとクロードは、幻想族の陣営で一夜を過ごすことになるのだった。
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