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第八章・力無き者たちの祈り8
島に上陸してから一日が経過しました。
幸いにも島は草木が生い茂る緑豊かな場所なので食材に困ることはありません。
甘い果物が欲しいなと思うと、不思議と見つけることができるのです。湧き水があればいいのにと思ったら、すぐに湧き水を見つけることもできました。とても助かりますがやっぱり不思議な島です。
「ブレイラ、こっちのはさっぱりしてて食べやすいぞ、朝食に丁度いい」
イスラが収穫した果物を持ってきてくれました。
不思議な島の果物を無防備に食べるのは心配でしたが、旅慣れたイスラの判断なので安心です。
「イスラ、ありがとうございます。レオノーラ様もどうぞ」
「ありがとうございます。イスラ様、私まですみません」
「気にするな。一緒に行くって決めただろ?」
「そうですが、こうして食事ばかりか夜の見張りまで……。イスラ様とブレイラ様にはなんとお礼を言えばいいか」
レオノーラが申し訳なさそうに言いました。
昨夜は森で休みましたが、就寝中の見張り当番は三人で交代制です。
私とクウヤとエンキ、イスラ、レオノーラで交替して休みました。この交代制は当然のことと思いましたが、レオノーラは自分だけがする役目だと思っているようです。
力が支配する時代で魔力無しとして生きてきたレオノーラにとって、それは当たり前の感覚なのでしょう。
少し物悲しい気持ちになったけれど、今は少しでも明るい話題をします。
「このフルーツおいしいですね。この時代のフルーツは私たちの時代にないものもありますが、どれもおいしくて驚きます」
「そうなんですね。この時代の私にとっては珍しいものではありませんが、ブレイラ様に喜んでいただけて良かったです。きっと逆のこともあるかもしれませんね」
「はい、私の時代にしかないフルーツをレオノーラ様にも食べていただきたいです」
そう言って笑いかけると、レオノーラも口元を綻ばせてくれました。
控えめな様子は相変わらずですが、微笑すると雰囲気がふわりと柔らかくなる。その顔、とても好きですよ。
そんな私たちの様子にイスラも優しく笑んでいます。
「俺は水を汲んでくる。二人はここで待っててくれ」
「それくらいなら私が行きますよ?」
私だって水汲みくらいできます。
立候補しましたがイスラが苦笑して首を横に振りました。
「いや、今日はたくさん歩くことになると思うから、二人は休める時に休んでろ。すぐに戻る」
イスラはそう言うと森に歩いていきました。
それを見送りますが、レオノーラは少し申し訳なさそうな顔になっていました。
「イスラ様には甘えてばかりです……」
「はい、イスラはとても優しくて、私も甘えてばかりなんです。親なのに恥ずかしいですね」
「そんなことはありませんよ」
「ほんとうですか?」
「ふふふ」
「ふふふ」
お互い顔を見合わせて、なんとなく誤魔化すような笑みを浮かべあってしまう。
だって私たち誤魔化しきれないほどイスラにお世話になっています。私なんてイスラがいなければ死んでました。
イスラは幼い頃からしっかりした子どもでしたが、成長するにつれて凛々しさや頼り甲斐も増していきました。ほんとうに親の欲目を抜きにしても非の打ちどころがなくて……。はっきりいって私の自慢です。
もっと自慢していたいけれど、今はそんなことをしている場合ではありませんね。
「初代イスラも早く見つかるといいですね。昨夜の嵐は大変でしたが、初代イスラはしぶとそうですのできっと元気にしています」
「はい、イスラ様はとても強い方ですから」
「ふふふ、このフルーツのように願えばすぐに見つかるといいんですけど」
そう言って食べていた果物を見せると、レオノーラも「まるで魔法ですね」とおかしそうに小さく笑ってくれました。
魔力無しの私たちが魔法の話しなんて、なんだかくすぐったい気持ちになりますね。
でもね、こうしてレオノーラとなにげない話しをするのが楽しいです。特に初代イスラの話題になるとレオノーラの顔は優しくなります。
初代イスラとレオノーラは複雑な関係ですが、それでもレオノーラがとても大切に思っていることが伝わるのですよ。
今もとても優しい顔をしている。きっと初代イスラのことを思い出しているのでしょう。
その横顔に私は目を細めましたが。
「レオノーラ!」
不意に声がしました。
ハッとして振り向くと、そこには初代イスラが立っていました。
初代イスラは大股でレオノーラに向かってきます。そして、ガシリッとレオノーラを強く抱きしめました。
「今までどこにいたんだ! 心配したんだぞ!」
「えっ、あ、イ、イスラさま……?」
驚愕に目を見開くレオノーラ。
私もなにがなんだか分かりません。
突然初代イスラが現われたと思ったら、レオノーラを力強く抱きしめたのです。それは信じ難い光景でした。
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