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第八章・力無き者たちの祈り11

「待たせたみたいだな」 「戻ってきてくれると信じていました」  イスラが戻ってきてくれたのでもう一人ではありません。一人でデルバートとレオノーラの面倒を見るなんて大変すぎます。 「ところで、どうしてあの男がいるんだ?」 「実はさっき初代イスラの偽物が現われたんです。その時にデルバート様が偽者を退治してくれました。この島はどうやら望んだものが現われるようですよ?」 「なるほど。俺達はゲオルクの術中にいるというわけか」 「そういうことになります。それでデルバート様も一緒に行動しようということになったんですが、いいですか?」 「ブレイラがいいなら俺に異存はない」 「ありがとうございます」  私とイスラはデルバートとレオノーラのところに行きました。  イスラは意外そうにデルバートを見ます。 「あんたがいたから驚いたぞ」 「騒がしい声がしたからな」 「そうか。ブレイラを守ってくれて感謝する」  イスラは当然のこととして礼を言いました。  人間の王という立場でありながら、感謝すべき時はなんの抵抗もなく感謝ができる子なのです。イスラはとても素敵な勇者なのですよ。  でもデルバートはなんとも奇妙な顔をしています。 「……初めて会った時から思っていたが、ほんとうに勇者なのか?」 「失礼ですね、どういう意味です。イスラへの侮辱は私が許しませんよ」  ズイッとイスラの前に出ました。  いくら初代魔王デルバートでもダメです。  そんな私にデルバートは「それは悪かった」と折れてくれます。 「勇者といえばもっとひねくれた生意気なガキしか知らないんだ」 「……たしかに。まあ、それなら仕方ないですね」  納得しました。  この時代の初代イスラとイスラではぜんぜん違いますからね。 「とりあえず移動するぞ。こっちだ」  デルバートが歩きだしました。  魔族の陣営に案内してくれるようですね。  イスラがそれに続いて、私とレオノーラも二人の後ろを歩きだします。 「レオノーラ様、これでひとまず落ち着けますね。初代イスラもはやく見つかるといいですね」 「はい。ブレイラ様もはやくハウスト様や子ども達に会えるといいですね。子ども達のことが心配でしょう」 「はい。ゼロスとクロードはまだ小さいのできっと寂しがっています。早く見つけてあげたいです。今はハウストが守ってくれているでしょうが、……やっぱりはやく会いたいですね」  幼いゼロスとクロードを思うと胸が締め付けられます。  ハウストが一緒なので大丈夫だということは分かっていますが……。 「ブレイラ様、きっとすぐに見つかります。一緒に探しましょう」 「はい」  私も力強く頷きました。  こうして励まし合う私たちの前をイスラとデルバートが歩いています。  二人が特に会話を交わしている様子はありませんが。 「おい、気付いているな?」  デルバートが厳しい顔でイスラに話しかけました。  その言葉にイスラも頷きます。 「分かっている。舐めるな」 「十万年後の勇者がどんなものか見せてもらうぞ」 「いいのか、あんたの出番がなくなるぞ?」 「生意気だな。そういうところはこの時代の勇者と同じだ」  二人が軽口を交わしています。  私はここを不思議な島だとしか感じていませんが、きっとイスラやデルバートはなにかに気付いているのでしょうね。  こうして私たちは魔族の陣営に向かったのでした。  魔族の陣営は森の中にありました。  私たちは陣営のなかの目立たない位置にある天幕を案内されます。  魔王デルバートのおかげで客人扱いしてもらえることになりましたが、それでも魔族の中に人間がいると妙に見られてしまうのです。客人なので表立って邪険にされることはありませんが、それでも人間に不審を覚えている魔族の兵士もいるようでした。  天幕に入るとほっと息をつきます。魔族の陣営に入ってから緊張感が漂っていましたから。 「……イスラ様、ブレイラ様、なんだか申し訳ありません」 「どうしました?」  私とイスラは思わずレオノーラを見つめてしまう。  突然謝られましたが意味が分かりません。 「十万年後からきたイスラ様とブレイラ様に居心地の悪い思いをさせているんじゃないかと……。きっと十万年後の時代では今のような思いをされることはないと思いますので……」  どうやらレオノーラは人間の私たちに向けられた魔族の視線を気にしてくれていたようです。  心配そうなレオノーラにそっと笑いかけました。 「たしかに不快ですが、大丈夫ですよ。十万年後でもこういうのがなかったわけではありませんから」 「え、ブレイラ様は十万年後の魔界の王妃様なんですよね? それは魔界で暮らしているということですよね? たくさんの魔族に囲まれて……」 「はい、魔界で暮らしています。魔界で親しくしている方々も魔族が多いですよ。でも今のような視線は十万年後でも覚えがあるものです」 「王妃様なのに、ですか?」  レオノーラが意外そうな顔になりました。  そんなレオノーラに優しく笑んで頷きます。 「以前お話しした通り、私も最初から上手くいっていたわけじゃないんです。ハウストと私は魔族と人間ですし身分も違いましたから、結婚してもすんなり魔界に受け入れられたわけではありません。結婚した当初は王妃といっても飾りのようなもので、私自身なにをすればいいか、王妃というものがどういうものか、それすら分かっていなかったんです。ただハウストと一緒になりたいという一心でしたから」  ハウストが好きで、ハウストと一緒にいたくてなりふり構っていられませんでした。初恋だったのでどうすればいいか分からなくて、とにかく必死だったのを覚えています。 「でも、一人ではなかったので大丈夫でした。ハウストも力になってくれましたし、いつもイスラが側にいてくれました。今もイスラの存在は私を支えてくれます」  ね、イスラ? とイスラに笑いかける。  するとイスラが優しく目を細めて頷いてくれました。  ついさっきもデルバートとレオノーラの微妙な沈黙から私を救ってくれたばかり。イスラは頼りになるのですよ。 「俺ばかりがブレイラを助けてきたわけじゃないぞ。ブレイラがいるから俺は間違えない。俺が今の俺なのはブレイラがいてくれたからだ。卵だった時からずっと側で、俺を離さないでいたからだ」 「では一緒ですね。私も同じ気持ちですよ、イスラ」 「ああ」  イスラと顔を見合わせて笑いあう。  イスラは私の誇りです。当代勇者イスラはとてもステキな勇者なんですよと自慢して歩きたいくらい。  そんな私たちのやり取りにレオノーラが目を細めました。 「……ブレイラ様とイスラ様は助け合って生きてきたのですね」 「親子になると決めた時からずっと一緒でした。最初はイスラと二人きりでしたが、次にハウストと一緒になって、ゼロスとクロードも私たちのところに来てくれました。私に私が独りではないと最初に教えてくれたのはイスラです」 「そうですか。素敵ですね」  レオノーラは素敵だと言いながら、僅かに視線を落としてしまう。  きっとレオノーラにもそういう方がいるのでしょう。いったい誰を思い出したのでしょうね。  ふと、天幕の外から魔族の兵士が声を掛けてきます。

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