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第八章・力無き者たちの祈り18
「でも、ブレイラ様はそんなハウスト様もお気に入りのご様子ですね」
「ああ分かってしまいますか。ふふふ、彼がそうするのは私だけだと思うと気分が良いのですよ」
これは優越。だってあの魔王ハウストが私だけを愛しているのです。これ以上の優越はないですよね。
優越感たっぷりの私にレオノーラは少し驚いたように目を丸めました。でも次には楽しそうに目を細めます。
「それは少し分かります」
「レオノーラ様も?」
「はい、デルバート様が捕虜の人間を特別に匿ったのは私だけのようです。今までそういうことをする方ではなかったようなので、彼の側近の方々はとても驚いたとか。……これはデルバート様が私を深く想っているということ。私だけを」
そう語ったレオノーラは私と同じ優越の笑みを浮かべていました。
独占欲が満たされて、とても良い気分になってきましたね。
共犯者のような気分になって、なんだかおかしさに笑ってしまう。
だって今、私とレオノーラは恋の話しをしています。
天幕の外では嵐のような激しい戦闘が行なわれているというのに、ここで二人、私たちはなにげない恋の話しをしてクスクス笑っているのです。
この非現実な空間に、戦闘と背中合わせの恋の話しに、このいびつさに、なんて名前を付ければよいのでしょうね。
でも今、レオノーラの瞳がキラキラと輝いています。それはときめきの輝き。
デルバートとのことを楽しそうに語る姿に、私はこの初代時代でひと時の安らぎのようなものを覚えたのでした。
翌日の朝。
天幕で眠っていた私が目を覚ますと、レオノーラも丁度起床したところでした。
昨夜は二人して恋の話しに盛り上がり、そのまま眠ったのです。天幕の外は戦闘中だったというのに不謹慎だったかもしれませんね。
でも後悔していません。だってほら、
「おはようございます、レオノーラ様」
「……おはようございます」
答えてくれたレオノーラは少し照れ臭そうな顔をしています。
雰囲気も以前より柔らかくなっている。昨夜のことを覚えていて、少し恥ずかしくなってしまっているのでしょう。
「昨夜はありがとうございました。たくさんお話しできて楽しかったです」
「私も、……私も楽しかったです。あんなにたくさんお話ししたり笑ったりして、ほんとうに、ほんとうに楽しかったです」
そう言ってレオノーラが微笑を浮かべました。
レオノーラの雰囲気が変わった気がするのはきっと気のせいではありませんね。
「またたくさんお話ししましょう。楽しいことはたくさんあってもいいんです」
「はい、よろしくお願いします」
「ふふふ、私こそお願いします。レオノーラ様とのおしゃべりは楽しいので」
私はそう言って笑いかけると、次にイスラの寝床を見ました。寝具は出て行った時のままの状態になっています。
「……イスラは戻ってこなかったようですね」
「はい、でも戦闘は終わっているようです」
「ちょっと外へ出てみましょうか。外の様子が気になります」
「そうですね。ではブレイラ様、私から離れないようにしてください」
「ありがとうございます」
私たちは天幕から出ました。
そしてそこに広がっていた景色に目を見開きます。
だってそこはまるで荒れ果てた荒野。昨日まで広がっていた緑豊かな森など一切ありませんでした。
「これはいったいっ……」
様変わりした景色に驚きが隠し切れません。
でもここにいる魔族の兵士達は見るからに戦闘を終えたばかりの様子で、昨夜はここで激しい戦闘が繰り広げられていたのだと窺えます。
「あ、イスラ! イスラがいました!」
私はイスラを見つけて駆けだしました。
レオノーラも一緒に来てくれます。
「ブレイラ、おはよう。レオノーラも」
私たちに気付いたイスラがいつもと変わらぬ挨拶をしてくれます。
落ち着いている様子なので安心しますが、これはどういう状況なのか教えてほしいです。でもその前に。
「おはようございます。昨夜はお疲れ様でした。イスラ、大丈夫でしたか? 怪我はしていませんか?」
そう言ってイスラの全身を確認します。
イスラの肩や腕に触れて、その温もりにほっと安堵する。大丈夫だと分かっていますが、こればかりは仕方ありませんよね。
それを分かっているイスラも苦笑して頷きます。
「ああ、大丈夫だ。ブレイラこそ昨夜はちゃんと眠れたか?」
「はい、おかげ様で」
「それならいい」
「ところでイスラ、これはいったいどういうことですか? なにがあったんです? 天幕を出たらこんなことになってしまっていて……」
「昨夜の戦闘でゲオルクの術を解除した。これがこの島の本当の姿だ」
「そうだったんですね。この景色には驚きましたが、解除したということは戦闘に勝ったんですね」
「まあな。でも」
でもイスラがそこで言葉を切ると、ちらりと目線を動かします。
その先にいたのはデルバート。
しかも眉間に皺を刻んでとても怖い顔をしています。なんだか苛立っているようでした。
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