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第九章・歴代最強の勇者3

「どう見ても浮かれてるな」 「ですよね。気持ちは分かりますが、今はどういう時か分かってるんでしょうか。こっちは真面目にゲオルクを倒そうと頑張っているのに」 「ブレイラもハウストがいる時は結構浮かれ……」  イスラがなにか言いかけたので、んん? と見つめ返します。  それ以上は言わせませんよ。  そんな私の目線にイスラは降参とばかりに両手をあげてくれました。 「なんでもない。大事な行軍中に浮かれすぎは良くないよな、ブレイラの言う通りだ。うんうん」 「ふふふ、ですよね」  私は小さく笑うとイスラと歩きます。  前を歩いているデルバートとレオノーラのイチャイチャは気になりますが、まあいいでしょう。イスラに免じて許してあげます。 「それにしても空気が乾いてますね。草木も枯れて、島全体に生気を感じません」 「世界に王が不在になった時に少し似ているな」 「そうですね。この島の場合は祈り石の影響でしょうが、よく似ています……」  四界の王と世界の関係はとても密接で、繋がっているといっても過言ではありません。  それというのも四界の王が玉座に座らねば世界が安定しないからです。  たとえば冥王ゼロスは魔界の城で暮らしていますが、定期的に冥界の玉座に座りに行きます。そうしなければ冥界が不安定になってしまうからです。それは魔王と精霊王も同じでした。  ただし玉座無き王の勇者だけは、その存在だけで人間界を安定させています。しかも勇者不在の時代があるので、現在でも謎が多いといえば謎が多い存在でした。  そう、四界の王を語ることは世界を語ることと同じ。だからこそ神格の存在とされ、敬われながらも畏怖されているのです。  でもね、一つ気になることがありました。  この時代の初代王たちも強大な力を持っていますが、私たちの時代にあるような玉座がないのです。  その規格外の強さからデルバートは魔王、初代イスラは勇者、リースベットは精霊王、オルクヘルムは幻想王と呼ばれ、各種族の王となっています。でも彼らに玉座はないのです。  未来から転移した私はいずれ各世界に玉座が出現することは知っていますが、それはいつなのでしょうか……。  私はイスラにも聞いてみようとしましたが、イスラは厳しい顔で空を見上げていました。 「イスラ、どうしました?」 「ブレイラ、下がってろ」 「え……」  下がるように促されて緊張が走りました。  なにかを感知したようです。  それはイスラだけではなくデルバートも同様でした。 「イスラ、いったいなにが……」 「嫌な風を感じる。この気配、あの時に似てるんだ」 「あの時?」  そう聞きながら、ふと空中に小さな光の塊が見えました。  その塊は見覚えのあるもので……。 「ま、まさかっ……」 「ああ、炎の巨人だ」  イスラがそう言ったのと、光の塊が巨大化して炎の巨人になったのは同時。  巨大化の衝撃波からイスラが防壁魔法で守ってくれます。 「ブレイラ、大丈夫か!?」 「くっ、大丈夫です……!」 「レオノーラ、ブレイラを頼む! 二人はここを離れてろ!」  イスラがそう言うとレオノーラが私のところへ来てくれました。  デルバートも臨戦態勢に入っています。イスラと炎の巨人を迎え撃つつもりなのです。 「ブレイラ様、行きましょう。私たちがここにいてはいけません」 「はい」  私はレオノーラと一緒にこの場を離れます。  どこへ行けば安全かなんて分かりません。でも今は一刻も早くここから遠ざからねば。 「昨夜は出現しなかったのに……」 「やはり、あの巨人はゲオルクとは関係ないのでしょうか」  昨夜の襲撃はゲオルクが製造した異形の怪物だけでした。  今度は巨人だけですし、なにより怪物とは違って巨人は神出鬼没のようです。  そう、異形の怪物は島に潜んでいるという感じですが、炎の巨人はなんらかの意志を持って出現しているようでした。 「ブレイラ様、こちらへ! ん? あれは……」 「レオノーラ様?」  ふいにレオノーラが立ち止まりました。  なにやら一点を見つめています。 「レオノーラ様、どうしました?」  私も同じところを見て、息を飲みました。  そこに緑色の光の塊が浮いていたのです。  とても、とても嫌な予感……。だってそれは炎の巨人が出現する時の光の塊に似ているのです。 「に、逃げましょうっ!」  私はレオノーラの手を引いて光の塊とは別方向に逃げだしましたが、――――ドンッ!! 「わあっ!」  見えない壁にぶつかりました。  尻もちをついた私をレオノーラ様が「大丈夫ですか?」支えてくれます。  でも私は目の前の空間を凝視する。そこにあるのは見えない壁。  私、これ知ってます。同じことがあったんです。私が海に転落する時も見えない壁にぶつかったのですから。 「レオノーラ様、そこに何かあります。壁ですっ、見えない壁が……!」 「え? そんなっ……」  私が指差すと、レオノーラがゆっくりと触れてみる。  するとレオノーラが驚愕に目を見開きました。 「こ、これは風です。風が塊のようになって壁のようにっ……」 「それじゃあ、私がぶつかったのは壁ではなく風圧っ」  そう、風圧。  次の瞬間、光る緑の塊が強く発光しました。  周辺の木々が激しくざわめき、風の塊が人型に巨大化していく。  風なのではっきりと見えませんが、凄まじい風圧で空間が歪んで見えるのです。  間違いありません、それは風の巨人。 「炎の巨人だけではなかったのですねっ……」  あの嵐の夜、炎の巨人ばかりが目立っていましたが他にも数体の気配を感じていました。どうやらその一つは風の巨人だったようです。 「ブレイラ様、逃げましょう!」 「はい!」  私とレオノーラは走りだしました。  でも歪んだ空間が動く。歪んだ部分は風の巨人の体ということ。  気付いたレオノーラが瞬時に私の腕を掴んで避けてくれます。 「レオノーラ様、すみませんっ!」 「お怪我がなくて良かったですっ。ブレイラ様、私から離れないでください!」 「はいっ、ありがとうございます!」  背後から風の巨人が追いかけてきます。  何度も風圧の塊が襲ってきますが、そのたびにレオノーラが俊敏な動きで避けていました。  でもふいに、――――パシャン!  レオノーラが水たまりを踏みました。  それは一見普通の水たまりに見えましたが、次の瞬間。 「えっ? わああああああああああ!!!!」  レオノーラが悲鳴をあげました。  水たまりだと思っていたものが、突如人型に巨大化したのです。それは水の巨人。  炎の巨人に続き、風の巨人、水の巨人が出現しました。  しかもレオノーラを手で掴んだまま水の巨人はどこかへ歩いていこうとする。

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