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第九章・歴代最強の勇者4

「ま、待ちなさい! レオノーラ様を離しなさい!!」 「ブレイラ様、逃げてください!!」 「駄目です! 逃げるなら一緒です!」  私は水の巨人を追いかけました。  絶対に連れていかせません。 「待ちなさい! 待ちなさいと言ってるでしょう!」  私は水の巨人の前に回り込んで通せんぼします。  しかし水の巨人は私など軽々と跨いでいく。 「ブレイラ様、いけませんっ! 危ないですから逃げてください!」 「バカ言わないでください! だいたい私ひとりで逃げ切れるわけないじゃないですかっ。レオノーラ様に一緒にいてもらわなければ困ります!」 「ブレイラ様……」 「黙って待ってなさい!」  レオノーラは分かっているのでしょうか。自慢ではありませんが私は剣を握って戦ったことはありません。体力や運動神経は山育ちなので人並み以上はあると自負しますが、それでも戦闘を生業にする方々には遠く及びません。  そんな私が一人で逃げられるわけないのです。だからレオノーラも一緒でなくてはダメなのです。 「ブレイラ様……」 「あなたも一緒です!」  私はそう言うと、思いっきり助走をつけて走ります。  そう、水の巨人に向かって体当たりしてやるのです! 「えいっ!!!!」  勢いよく体当たりしました。  私の体当たりは水の巨人の足に直撃しましたが。  バシャンッ!! ゴボゴボッ……、……んん? 「息が……できる?」  驚愕しました。  だって今、水の巨人の体内という水中にいるのに呼吸が出来ているのです。 「これはいったい……」  不思議なことに混乱しました。  でも呆然としている間に水の巨人が歩き、私は水中から抜け出します。そう、私は水の塊を通り抜けただけということです。 「ブレイラ様、ご無事ですか!?」 「は、はいっ、私は大丈夫です!」  レオノーラが捕まったままの状態で心配してくれてました。  私は水の巨人を追いかけながら話します。 「レオノーラ様、この巨人の中で呼吸ができます! 溺れませんでした!」 「ほ、本当ですか!? 試してみます!」  レオノーラはそう言うと、さっそく脱出しようと動きだします。  今までは外に向かって動いていましたが今度は内側に向かって。すると、ドボンッ!!  レオノーラは勢いよく巨人の体内に潜りました。水中で呼吸さえできれば泳げない私たちでも溺れないのです。 「レオノーラ様、頑張ってください! もう少し、もう少しですよ!!」  水中でもがきながら脱出を目指すレオノーラ。スイスイ進んでいるとは言い難いですが泳げない私たちにとっては上出来なくらいです。  そして。 「プハアッ!!」  レオノーラが見事に脱出を成功させました。  私とレオノーラは手を取りあって喜びます。でもすぐに、――――ブワリッ!! 「う、うわあああ!!」  背後に風の動きを感じたかと思うと、今度は私の体を掴まれました。  そう、風の巨人が私を手で掴んだのです。 「いきなり失礼ですよ! 離しなさい!!」  身をよじりますが、風圧の手に握られて身動きができません。  風の巨人は私を捕まえたままどこかへ向かって歩きだす。  今度はレオノーラが風の巨人の足元で私を取り戻そうと頑張ってくれます。 「ブレイラ様、大丈夫ですか!? 今すぐお助けします!」 「だ、大丈夫です! レオノーラ様も気を付けてください!!」  私はレオノーラに大きな声で答えました。  レオノーラは剣で風の巨人を切りつけていますが、風の塊に対して空を切るばかり。  そしてそんなレオノーラの攻撃に対して風の巨人も水の巨人も特に反撃する様子はありませんでした。  ただ、私を捕まえたままどこかに向かって歩いているのです。  ここにきて疑問を覚えます。  この巨人たちは、私とレオノーラに危害を加えるつもりはないのではないかと。  ふと、遠くで轟音がして目を向けると炎の巨人が戦っています。対戦相手はデルバートとイスラ。炎の巨人がイスラたちを捕まえようとする様子はなく、激しい戦闘になっているのが見えました。  デルバートとイスラが劣勢になっている様子はありませんが、四界の王である二人と巨人は渡り合っています。それは巨人が人智を超えた力を持っているということでした。  でもだからこそ疑問が深まっていく。 「やはり、私とレオノーラ様だけ……」  巨人は誰でもいいというわけではなく、私かレオノーラのどちらかをどこかへ連れていきたいのではないでしょうか。  そんな疑問を覚えていた時、ふいに上空で何かがキラリと光る。  次の瞬間、ズバアアアッ!!!!  風圧をも切り裂く凄まじい衝撃が走り、私の体が投げ出されました。 「わあああっ!」 「ブレイラ様! わあっ!」 「うぅ、すみませんっ。ありがとうございます……」  レオノーラが咄嗟に受けとめてくれました。  でも互いに非力な人間同士なので、二人して地面にしたたかに尻もちをついて引っ繰り返ってしまう。  でもね、これが普通。今までこういう時はかっこよく受けとめられてきましたが、普通の人間に出来るわけがないのです。私の周りにはあまりに規格外が多いのでうっかりしますが、これが普通なのです。 「ブレイラ様、大丈夫ですか?」 「いたたっ……。はい、大丈夫です。おかげで助かりました。でもいったいなにが」 「イスラ様です。イスラ様が助けてくださいました」 「え、イスラが!?」  私は振り返りました。でもそこにいたのは私のイスラではなく、初代イスラ。  初代イスラが剣を構えて二体の巨人と対峙していたのです。 「イスラ様、無事に島に上陸していたんですね! ご無事でなによりでした!」  レオノーラが初代イスラに嬉しそうに声を掛けました。  ずっと探していたのです。見つかって良かったですね。  しかし初代イスラはレオノーラを冷ややかに振り返ります。 「なにを遊んでいる。足手纏いだ」 「す、すみません……」  レオノーラが縮こまってしまいました。  そんな二人のやり取りに私の方がムッとしてしまう。  だってレオノーラはずっと初代イスラを心配していたのです。 「そんな言い方はないでしょう! レオノーラ様はずっとあなたを探していたんですよ!」  声を荒げた私に初代イスラがうるさそうな顔をする。  なんですかその顔は、失礼すぎます。  しかし初代イスラが気にする様子はなく、それどころか。 「お前はもっと足手纏いだ」 「くっ、生意気な……!」  痛いところを突かれました。  まったくその通りだからです。 「ブレイラ様、ありがとうございます。私は大丈夫ですから」 「レオノーラ様……」 「それよりここを離れましょう。ここにいては邪魔になるだけです」  そう言うとレオノーラは私を連れて逃げようとしてくれます。  でもその動きに水の巨人が反応する。そう、巨人たちの狙いはレオノーラか私。  理由は分かりませんが、私たちのどちらかを捕らえようとしているのです。  でも今はここに初代イスラがきてくれました。とても生意気な勇者ですが強さだけは保証されています。

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