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第九章・歴代最強の勇者5

「炎の巨人の次は水と風か。面白い」  初代イスラはそう言ってニヤリと笑うと、巨大な魔力を放出しました。  魔力の塊が凄まじい勢いで水の塊を弾き飛ばします。  それは一瞬。初代イスラは圧倒的な魔力で水の巨人を消滅させてしまったのです。 「すごい、やるじゃないですか!」  思わずグッと拳を握りました。  生意気なところは残念ですが、その強さだけは感服します。さすが初代勇者です。  しかしその喜びは束の間でした。 「えっ、復活した……?」  消滅させたと思っていた水の巨人がたちどころに復活したのです。  しかもまるで何もなかったかのように元通りの姿。  それだけではありません。今度は風の巨人とともに初代イスラを攻撃し始めたのです。  二体の巨人の連携に初代イスラも防戦一方になってしまう。  風の巨人の攻撃を魔力で封じるも、すぐに水の巨人が襲いかかってくる。  それでも初代イスラは応戦していましたが、その時、無数の水の刃が初代イスラに襲いかかりました。  咄嗟に防壁魔法を発動しようとするも間に合わない。 「イスラ様!!」  レオノーラが悲鳴のような声をあげました。でもその時。  ゴオオオオオオオオオッ!!!!  突如風の盾が迎え撃つ。そう、水の刃を風の盾が相殺したのです。  間一髪で初代イスラは助かったものの、ぎろりと背後を睨みつけます。そこに立っていたのはイスラでした。  イスラは初代イスラを見てニヤリと笑みを浮かべます。 「初代勇者がこれ程度とは恐れ入った」 「余計なことをするな」  初代イスラが低い声で言いました。  それは震えあがるほどの闘気を感じさせるものですがイスラは気にした様子はありません。  イスラは私を見ると安心したように目を細めます 「ブレイラ、無事のようだな。良かった」 「心配をかけました! 来てくれてありがとうございます!」  私は手を振って無事を伝えました。  しかしイスラは炎の巨人と戦っていたのです。嬉しいけれど大丈夫なのでしょうか。 「イスラこそ大丈夫でしたか!?」 「大丈夫だ、デルバートに任せてきた。一人で二体は荷が重いだろうからな」 「なんだと?」  初代イスラがイスラを睨みました。  でも水の巨人が攻撃を仕掛け、初代イスラはそれに応戦します。そして風の巨人はイスラが応戦です。  今までは水の巨人と風の巨人の連携攻撃で劣勢でしたが、イスラがきてくれたことでそれを阻止できるのです。  少し離れた場所ではデルバートが炎の巨人と戦っています。  これで三人対巨人三体になりました。初代イスラも二体を相手に戦っていた時は防戦一方でしたが相手が一体になって攻勢が強くなります。  でも、やはり疑問は拭えません。  それはレオノーラも同様だったようで、戦闘を見つめながら私に聞いてきます。 「ブレイラ様、この巨人はいったい何者なんでしょうか。とてもゲオルクが製造した異形の怪物とは思えません」 「はい、私も同じことを考えていました。しかも、あの巨人は私かレオノーラ様を捕まえようとしていたようです」 「私とブレイラ様を……。それは私たちが魔力無しだということと関係があるのでしょうか」 「分かりません。でも、その可能性は高いでしょうね」  私とレオノーラの共通点といえばそれだけです。  私は三体の巨人を見上げました。  この巨人とゲオルクが製造した異形の怪物は明らかに違いました。たとえばオークは豚とイノシシの掛け合わせだったりクラーケンはイカだったり、元となったなんらかの生物の形跡が分かるのです。  でも、この炎の巨人と水の巨人と風の巨人は違います。生物の生々しさを一切感じない。神々しさすら感じるほどの純粋なる炎と水と風の巨人でした。しかも、その強さも神格の存在である四界の王と渡り合うほどのもの。それはまさに脅威で、異形の怪物とは別の何かだとはっきり分かるものでした。  謎は深まるばかり。しかし今はのんびり考えている暇はありません。 「レオノーラ様、今は逃げましょう」 「はい!」  私たちは駆けだしました。  でもその時、――――ズズズズズズズズズズッ……!!  突然、低い地鳴りと震動とともに平らだった地面が盛り上がりだす。  それは瞬く間に山のように巨大化して人型へと変形していく。  私たちの前に出現したもの、そう、それは大地の巨人でした。 ◆◆◆◆◆◆ 「クロード、ミルクだよ~。はい、どうぞ」 「あいっ」  クロードは哺乳瓶を受け取ると、ゼロスが作ってくれたミルクをごくごく飲んだ。  ゼロスはクロードの顔を覗き込む。 「ぼくがつくったミルクおいしい? ねえ、おいしい?」 「あうー……」  ミルクを飲んでいるクロードの眉間に小さな皺が刻まれる。  ゴクゴク、ちゅっちゅっ、ゴクゴク。元気にミルクを飲んでいるがとてもプンプンだ。  ミルク中だというのにしつこく話しかけられて不機嫌になっているのだ。  そんな二人の様子にハウストは苦笑する。  そう、現在ハウストたちはクロードのミルク休憩中だ。  別行動中のブレイラたちを探しながらの行軍なので、まだミルク休憩するくらいの余裕はある。今後なにがあるか分からない為、余裕がある時にクロードやゼロスなど幼い子どもを休憩させておきたかったのだ。ゼロスもクロードも王という規格外の存在だが、それでも子どもであることに変わりないのだから。  その為、オルクヘルムとジェノキスは周囲の斥候に行き、リースベットとハウストは今後の確認をしている。  そしてゼロスがクロードにミルクを飲ませてくれているのである。 「ゼロス、あんまり邪魔するなよ。また顔にミルク噴かれるぞ?」 「っ!? ぼくのおかお!!」  ゼロスが両手で顔をパッと隠して守った。  今度は顔を隠して指と指の間から覗いて警戒する。  ゼロスには苦い経験があった。クロードが今より小さな赤ん坊の頃、せっかくミルクを飲ませていたのにブッと噴かれて顔面をミルク塗れにされてしまったのだ。父上からも臭いと言われて散々だった。 「ちゅちゅちゅ、うー……けぷっ」  少ししてクロードが大満足のげっぷをした。  哺乳瓶も空になって、どうやらお腹いっぱいになったようだ。 「のみおわった?」 「あい」 「ごちそうさま?」 「あい」  クロードが哺乳瓶を差し出した。  無事にミルクが飲み終わったようだ。ゼロスも安心して哺乳瓶を受け取る。  使い終わった哺乳瓶は水魔法で綺麗に洗った。ブレイラが『赤ちゃんの哺乳瓶は清潔にしないとダメなんです』と言っていたのだ。ゼロスはちゃんと覚えている。 ※ブッてされてゼロスの顔面ミルクまみれは暁の番外編に収録しています。

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