「おい、イスラはどうした！　ここにイスラもいただろ！」 　ハウストは異変を感じてデルバートに声をあげた。 　イスラに異変があったならブレイラの身にも異変があったと考えられるのだ。 　デルバートは炎の巨人と戦いながら、面倒くさそうにしながらも答える。 「水の巨人と風の巨人が出現した！　十万年後の勇者はそちらに向かっているっ。そこにはブレイラとレオノーラもいるはずだ！」 「水と風の巨人だと？　……やはり他にもいたのか」 　嵐の時に炎の巨人以外の気配を感じていたが、やはりそれは存在していたのだ。 　ハウストは抱っこしていたクロードをゼロスに渡す。 「ゼロス、クロードを預かってろ」 「わかった！　クロードおいで！」 「あいっ」 　ゼロスがクロードを受け取った。 　ゼロスはリュックサックから抱っこ紐を取り出して、素早くクロードを背中に固定しておんぶする。クロードもしっかりゼロスの肩に小さな手を置いた。二人とも慣れたものである。 「ちちうえ、ぼくもたたかう？」 「お前は巨人とは戦うな。いいな、戦うなよ？」 　ハウストは念を押した。 　ゼロスは冥王だが謎の巨人に対抗するには未熟だ。 　しかしゼロスが不満そうに唇を尖らせている。巨人と戦ってみたいという気持ちもあるのだろう。剣を握る者として強さへの求心と興味だ。 　それは普段の甘えん坊ゼロスを思うと褒めてやりたいくらいの成長である。だが今は緊急事態なので許すことは出来ない。 「ゼロス、返事はどうした。お前が優先するのはブレイラだ。できるな？」 「っ、できる！　ぼくがブレイラみつける！」 　ゼロスはパッと表情を変えて返事をした。 　今優先すべきはブレイラだ。 　ハウストはそれに頷き、次はクロードを見る。 「クロードはゼロスから離れるな。できるな？」 「あいっ」 　真剣な顔でうなずくクロード。赤ちゃんながら今が緊急事態だと分かっているのだ。 　ハウストも二人の子どもの様子に目を細めると、二人の子どもの壁になるように一歩前に出た。 　炎の巨人はデルバートが戦っている。それにオルクヘルムとジェノキスが合流した。 　ハウストはリースベットとともに風と水の巨人がいる場所に向かう。そこでイスラが戦っているはずだ。 　そんなハウストたちの後ろをゼロスも走る。クロードはしっかりゼロスに掴まっている。 「ちちうえ、あそこみて！」 「あれが水の巨人と風の巨人か」 　ゼロスが指差した先、そこには二体の巨人がいた。 　巨人と対戦しているのはイスラと初代イスラだ。二人が劣勢になっているようには見えないが、かといって決定的な勝機も感じない。四界の王以外の存在が四界の王と渡り合うなど今までなかったことだった。 「俺はイスラのところへ行く。ゼロス、ブレイラを頼んだぞ」 「わかった！」 　ハウストの後ろを走っていたゼロスがブレイラを探しだす。この近辺にいるはずなのだ。 　そしてハウストは風の巨人と戦うイスラの援護に入り、リースベットは水の巨人と戦う初代イスラの援護に入った。 「勇者よ、苦戦しているようじゃな」 「何をしに来た」 　初代イスラがリースベットをじろりと睨んだ。 　そんな相変わらずな初代イスラにリースベットはニヤリと笑う。 「何をしに来たとはつれないことを言う。せっかく援護しにきてやったというのに」 「ならば去れ。邪魔だ」 「ほんとに生意気じゃな。だが、われもこの巨人に興味があってな。できれば生け捕りにしたい」 「生け捕り……」 「そうじゃ、解体して正体を解明する。われの好奇心がうずくのじゃ！！」 　リースベットはそう言うと魔力を高めて巨大な魔法陣を出現させた。 　巨大な風柱を発生させて水の巨人の動きを封じる。 　その隙に初代イスラも存分に攻撃魔法を展開させることができる。図らずとも連携戦のようになって初代イスラは舌打ちした。 「……生け捕りでもなんでも勝手にしろ」 　初代イスラはそう吐き捨てながらも連携を利用して戦いだした。いつもなら受け入れていないことだが、それほどにこの巨人は今までの敵とは違うものだったのだ。 　こうして初代イスラとリースベットが戦う近くでは、イスラとハウストが風の巨人と戦っていた。 　こちらは親子なだけあって、最初からなんの抵抗もなく連携して戦っている。 「イスラ、海では苦労をかけたな」 「問題ない。ブレイラも無事だ」 「そうか、感謝する」 「俺がブレイラを守るのは当然だ」 　イスラは戦いながら答えた。 　何を今更とばかりの口調に苦笑する。とてもイスラらしいことだ。 　だが、それはハウストにとっても同じこと。 「よし、さっさと始末するぞ」 「ああ」 　二人は会話を交わし、魔力を高めて風の巨人と対峙する。 　ハウストとイスラは見事な親子連携で風の巨人を追い込んでいくのだった。 　こうしてそれぞれが戦う中、ゼロスとクロードはブレイラを探していた。 「ブレイラ、どこー！？　ぼくがきたよ～！　ブレイラー！！」 「あーあー！　あう～！」 　ゼロスとクロードは声を出して走る。 　視界に戦闘の様子を入れながらも、周囲をきょろきょろ見回して探した。 　この近くにブレイラとレオノーラがいるはずなのだ。 「おーい、ブレイラ～！　おーい、おーい！」 「おー、おー」 「クロードもおーいっていってるの？」 「あい」 「じょうずじょうず。ちからをあわせてがんばろうね！」 「あい」 　クロードはうなずくと、「おー、おー」とゼロスの背中からブレイラを探す。 　二人は戦闘の余波を食らわないように気を付けながら駆け巡る。 　ゼロスが生い茂る草を掻き分けると。 「あっ、ブレイラだ！！」 「あぶぶっ！」 　ゼロスとクロードの顔がパァッと輝いた。 　視界が開けた先にブレイラとレオノーラがいたのだ。 　離れた距離なのでブレイラたちは気付いていないが、ゼロスはちゃんとブレイラを見つけた。 「おーい！　おーい！　ブレイラ～！」 「おーっ、おーっ」 　ゼロスが手を振りながらブレイラの元へ走る。 　おんぶされているクロードも「おー、おー」と呼びながら短い手足をバタバタさせた。 　このままブレイラに辿りつくはずだったが。 　――――ズズズズズズズズズズッ……！！ 　足元から低い地鳴りと震動がし、地面が山のように盛り上がりだす。 　そしてそれは見上げるような人型へ。そう、大地の巨人である。 　突如目の前に現れた大地の巨人をゼロスは愕然と見上げた。