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第九章・歴代最強の勇者8
「お、おっきいっ……」
「あ、あう~……」
畏怖すら覚える存在感にゼロスとクロードは圧倒されてしまう。
でも不意に大地の巨人に動きがあった。
岩と土でできた巨人の顔が変形し、口がパカリッと大きく開く。
大きく開いた口はブレイラとレオノーラを飲み込もうとする。
「ブレイラをたべちゃダメ~~!!」
気付いたゼロスは咄嗟に駆けだした。
父上からは巨人と戦うなと言われているけれど、ブレイラが食べられるのは絶対嫌だ。
ゼロスは剣を抜いて大地の巨人に突進していく。絶対にブレイラを取り戻すのだ。
「コラーッ! ダメでしょー!!」
「ゼロス!? クロードまでっ!!」
ブレイラが走ってくるゼロスに気付いて驚いた。
しかも背中にはクロードまでいるのだ。
「ゼ、ゼロス、来てはいけません!」
ブレイラが慌てて制止するがゼロスは止まらない。
剣を振りかぶって大地の巨人に切りかかろうとしたが。
パカリッ。
巨人の口が更に大きく広がって。
「っ!? ああああ~っ、ぼくもたべられちゃう~~!!」
「あ、あぶ~っ!?」
巨人の口内に自分から飛び込んでしまった。
ブレイラが慌ててゼロスの元へ駆け寄る。
「ゼロス! クロード!」
「ブレイラ~~!!」
ゼロスもブレイラにぎゅうっと抱きついた。
ブレイラに会えた嬉しさと巨人に食べられた動揺でなにがなんだか分からない。
しかし大地の巨人はブレイラとレオノーラとゼロスとクロードを飲み込むと、――――ズズズズズズズズズズズッ……!! また大地に戻っていく。
「ブレイラ! ゼロス! クロード!」
ハウストは焦りながらも名を呼んだ。
大地の巨人の出現は突然だった。
突然出現したと思ったらブレイラとレオノーラを飲み込もうとした。しかも、パカリッと開いた口にゼロスとクロードが自分から突進していったのだ。
ズズズズズズズッ。
大地の巨人はまた大地へ戻ろうとする。
阻止しようとハウストは魔力を発動しようとしたが風の巨人に阻まれる。
「クソッ、邪魔だ!!」
「ハウスト、俺が行く!!」
ハウストの横をイスラが風よりも素早く駆け抜けた。
ハウストが風の巨人と対峙する隙にイスラが大地の巨人へ向かっていく。
そして大地の巨人が姿を消す間際、イスラもそこに飛び込んでいった。
こうしてハウストは地上に残り、ブレイラとゼロスとクロード、その三人を追ってイスラも大地へと飲み込まれてしまったのだった。
◆◆◆◆◆◆
私たちは大地の巨人に飲み込まれたわけですが。
「真っ暗ですね……」
視界が真っ暗です。
真っ暗すぎて私の足にぎゅっと抱きついているゼロスの姿すら見えていません。
そんな私の呟きに、一緒にいたレオノーラも頷いた気配。
「はい、なにも見えませんね……」
レオノーラの声がすぐ側で聞こえます。姿は見えないけれど近くにいるのですね。
「まってて、ぼくがあかるくしてあげる」
ゼロスがそう言うと光魔法を発動してくれます。
空間に淡い光が灯って視界を明るくしてくれる。私たちが立っていたのは全面が石壁の通路でした。
「ここが体内ということでいいんでしょうか。そうは見えないんですが……」
「はい。体内というより別の場所に来てしまったような……」
レオノーラが不思議そうに答えてくれます。
私たちを飲み込んだ大地の巨人は見上げるような大きさでしたが、ここは先が見えないほど長い通路の途中なのです。どう考えても体内ではありません。
とても不思議ですが、今はそれよりも。
「ゼロス、クロード」
二人の名を呼ぶと、私の足に抱きついているゼロスがパッと見上げてきます。
大きな瞳で私を見上げるゼロス。その背中にはおんぶされたクロード。
私を見上げる二人の幼い瞳に胸がいっぱいになっていく。
私はゆっくりと二人の前に膝をつき、幼い二人と目線を合わせます。
「二人ともよく無事でいてくれました。ずっと心配していたんです。会いたかったですよ」
「うぅっ、ブレイラ~~!」
「あぶ~~っ!」
ゼロスがぎゅっと抱きついてきました。
クロードも紐の隙間から這い出てきて私にぎゅっと抱きついてきます。
私は両腕にゼロスとクロードを抱きしめて、心からの安堵のため息をつきました。
「ぼくもブレイラにあいたかったのっ。あいたかったの~! うえええええん!」
「あぶ~っ、うぅっ、ああああああああん!! ああああああああああん!!」
「私も会いたかったですっ。ずっとゼロスとクロードに会いたかったですっ……!」
私は両腕に抱きしめたゼロスとクロードの顔を覗き込みました。
ああ可愛いですね。ずっと見つめていたい可愛いお顔です。
「ゼロス、クロードを守ってくれてありがとうございました。あの時、ゼロスが助けに来てくれてどれだけ心強かったことか。あなたのお陰です」
「うわああああんっ! ブレイラとあにうえがクロードおねがいっていったし、クロードおとうとだし、あかちゃんだし、まもってあげなきゃっておもってっ……。グスッ」
「はい、あなたはよく守ってくれました。ありがとうございます」
泣きじゃくるゼロスの頭をいい子いい子と撫でてあげます。
指で涙を拭ってあげて、二人に優しく話しかける。今は二人の声が聞きたいのです。
「怖くありませんでしたか?」
「うぅっ、ひっく、……こわかったけど、だいじょうぶ。ぼくはステキなめいおうさまだから……。うぅ」
「あぶぅ、あーあー、あうー。グスッ」
「そうだったんですね。さすがステキな冥王さまとステキな次の魔王さまです。寂しくありませんでしたか?」
「さびしかったけど、だいじょうぶ。グスンッ、ちちうえもいたから」
「あーうー、ばぶぶっ」
「そうですか。やっぱりハウストもいてくれたんですね」
あれからすぐにハウストがゼロスとクロードを保護してくれたのでしょう。
幼い二人には悲しい思いをさせましたが、ハウストが一緒にいてくれて良かったです。
「父上とゼロスとクロードの三人でいたんですね」
「うん、そうなの。でもあとから、おじさんとリースベットとジェノキスもきた」
「そうだったんですね。皆で一緒にいたんですね。教えてくれてありがとうございます」
私はまたゼロスの頭をいい子いい子と撫でると、立ち上がってレオノーラを振り返りました。
レオノーラは優しく私たちを見守ってくれていて、なんだか少し照れ臭いですね。
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