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第九章・歴代最強の勇者9

「お待たせしてすみません」 「いいえ、無事に再会できて良かったです。無事といっても、このような場所になってしまいましたが」 「はい。でも先ほどの場所に他の方々も来ていたようですね」  私たちが島で合流していたように、ハウストもオルクヘルムやリースベットやジェノキスと合流していたのです。  私は改めて自分がいる場所を見回しました。 「ここはいったいどこなんでしょうね……」 「どう考えても大地の巨人の体内とは思えません。きっとどこかに転移されたのでしょう」 「その可能性が高いですね。でもこの巨人はゲオルクと関係ないようなのに、どうして私とレオノーラ様を……」  私たちの前に炎の巨人、水の巨人、風の巨人、大地の巨人が出現しました。  この四体の巨人はゲオルクとは関係なく、私とレオノーラのどちらかを捕獲するのが目的のようでした。  嵐の海に放り出された時、海中で呼吸ができたのは水の巨人の体内にいたからでしょう。空で衝突したのは風の巨人で間違いありませんね。それは、この孤島に私とレオノーラを誘い込むためと考えられます。  でも、その理由だけが分かりません。私とレオノーラの共通点は魔力無しの人間ということだけでした。 「ここがどこか分かりませんが、とりあえず歩きましょうか。出口を探さないと」 「はい、行きましょう。他の方々のことも気になります」  私たちは歩きだすことにしました。  この古い石壁の通路がどこへ繋がっているのか分かりませんが、このまま立ち止まっていてもなにも変わりません。 「ゼロス、クロード、今から出口を探します。一緒に頑張ってくれますか?」 「できるー!」 「あいっ!」 「ふふふ、ありがとうございます」  不安ばかりの状況ですが、ゼロスとクロードの無邪気な様子に緊張が和みます。  幼い二人を巻き込んでしまって申し訳ない気持ちになるけれど、こうして側にいてくれると嬉しいと思ってしまう。 「ではクロードをこちらへ。抱っこしててあげますね」  私はゼロスからクロードを預かると、抱っこ紐で抱っこしました。  ゼロスは今までクロードとリュックサックの二つを背負ってくれていたのです。ゼロスのお出かけ用のリュックサックにはクロードの赤ちゃんグッズも入っていて助かります。 「ゼロス、荷物を持ってくれてありがとうございます。大変じゃないですか?」 「だいじょうぶ! ぼくのリュックサック、かっこいいでしょ?」 「はい、とてもかっこいいです」  ゼロスが背中の子ども用リュックサックを誇らしげに見せてくれました。  この子はお出かけの時に自分用のリュックサックを用意するのが大好きなのです。中身はおやつや絵本やおもちゃ、自分が大好きな物をたくさん詰め込んでいました。今より幼い頃はお漏らしした時用のオムツも入れていましたよ。  でもクロードが弟になってからは、クロードの哺乳瓶やおやつも一緒に入れてくれるようになりました。  クロード用は私が用意していたのですが、どうやらそれを見ていて覚えたようです。 「ゼロスがいてくれると安心です。よろしくお願いします」 「えへへ。ぼくがみんなをまもってあげる! ちからをあわせてがんばろうね!」  ゼロスが笑顔で言いました。  実際ゼロスがいてくれることは本当に心強いことでした。  ゼロスは三歳ですが冥王としての力を覚醒させています。まだまだ甘えん坊でも、規格外の強さと潜在能力は冥王として申し分ないものですから。  さあ、準備を整えて私たちは出発です。  ゼロスも張り切って歩きだそうとしましたが、その前に。 「ブレイラ、おててつなごっか」  ゼロスが小さな手を差しだしてきました。  もちろん断る理由なんてありません。 「はい、繋ぎましょう」  差し出された手をぎゅっと握りました。  私はクロードを紐で抱っこし、ゼロスと手を繋いで歩きます。  でも少し進むと、ゼロスはちらちらとレオノーラを気にし始めました。自分の空いている手とレオノーラを交互に見ます。そして。 「レオノーラも、おててどうぞ」  そう言ってゼロスが手を差しだしました。  差しだされた小さな手にレオノーラはびっくりしたように目を瞬きます。  レオノーラが確認するように私を見てきたので、頷いて笑いかけました。どうぞ、手を繋いであげてください。この子は手を繋ぐのが大好きなんです。  それを察したレオノーラは驚きながらも頷いてくれました。 「はい。ではよろしくお願いします」  レオノーラはそう言うとゼロスと手を繋ぎました。  ゼロスは右手で私、左手でレオノーラと手を繋いでとても満足そうです。 「レオノーラ様とも手を繋いだんですね。良かったですね、ゼロス」 「うん。レオノーラもぼくとおててつなぎたいんじゃないかとおもったの」 「はい、丁度手を繋ぎたいと思っていたんです。ありがとうございます」  レオノーラが答えると、ゼロスの顔がパァッと輝きました。 「ちょうどよかった!?」 「はい、丁度良かったです」 「やっぱり~! レオノーラもうれしくなっちゃったみたい!」  ゼロスがはしゃぎながら歩きます。  両手に繋いで手をぎゅっぎゅっとして嬉しそう。  こんな状況ですが、明るくおしゃべりしながら歩いていると不安も和らぎます。  回廊を歩きながらゼロスはたくさんおしゃべりしてくれる。私がいない間、幻想族の陣営にいたことや歌をうたったことを話してくれました。クロードも「あーうー」とおしゃべりして教えてくれます。  こうして私たちは出口を探して回廊をまっすぐ歩き続けたのでした。

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