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第九章・歴代最強の勇者12

「まっててね、ぼくがやっつけてくるから!」  ゼロスは剣を出現させると、通路の奥に向かって勢いよく駆けだしました。  あっという間に見えなくなった小さな後ろ姿。しかもなにか発見したのか勇ましい声が聞こえましたが。 「なんかいた!! ぼくがやっつけて、ああああああ~~!!!!」 「ゼ、ゼロス!?」  勇ましかったゼロスの雄叫びが途中から悲鳴に変わりました。  ハッとして私とレオノーラも駆けだします。  ゼロスに何かあったんじゃないかと全身の血の気が引いていく。  通路を駆け抜け、視界が一気に広がりました。通路の先には広い空間があったのです。  そしてそこにいたのは。 「誰が誰をやっつけるんだ」 「うわあああんっ、たすけて~! あにうえがいじわるする~~!」 「イスラ!?」  そう、そこにいたのはイスラでした。  イスラに首根っこを掴まれて掲げられたゼロス。小さいので足がぷら~んと宙に浮いています。  どうやら怪物に攻撃を仕掛けたつもりが相手はイスラだったようですね。見事に捕獲されています。  でも、私にとっては嬉しいハプニングでした。  イスラはゼロスを掲げたまま私を振り返ります。 「ブレイラ、無事で良かった。探してたんだ」 「心配かけました。追いかけてきてくれたんですね、迷惑をかけてしまってごめんなさい」 「気にするな、俺がちゃんと見つける。だからブレイラは無事でいてくれるだけで充分だ。それにこいつも一緒だったから、とりあえず大丈夫だろうとは思っていた」  イスラはそう言うと掲げていたゼロスを私の前に突き出します。  ゼロスは宙ぶらりのままジタバタしますがイスラの腕は微動もしません。 「ああああっ、あにうえごめんなさい~! わるいやつはぼくがやっつけなきゃとおもったの~!!」 「ちゃんと相手を確かめてから攻撃しろ。分かったか?」 「わかった。グスンッ」  ようやくゼロスが解放されました。  私の足にぎゅっとしがみ付いてきたゼロスに苦笑してしまう。 「兄上がいてびっくりしたんですね」 「びっくりした……。グスッ」 「ふふふ、でも兄上に会えて良かったですね」 「うん、よかった」  私はゼロスの頭をいい子いい子となでなでするとイスラに向き直ります。 「ゼロスにもたくさん助けてもらいました」 「いないよりはマシだったな」 「ふふふ、またそんな意地悪を言って」  ハウストとイスラがなんだかんだ言いながらゼロスを一人前の戦力として見ているのは気付いていますよ。  ゼロスが私の後ろからイスラをチラチラ見ていると、イスラはため息をつきながらも認めます。 「……よく頑張ったな。えらかったぞ」 「やった~! あにうえが、えらかったぞって! ゼロスがいちばんつよいぞって!」 「そこまで言ってないだろ」  イスラが呆れた顔で小突くと、「えへへ。いいの!」とゼロスが照れ臭そうに笑いました。兄上に褒められて嬉しそうです。  抱っこしているクロードもイスラを見て手足をジタバタさせて「にー、あぶぶっ。あー」とおしゃべりです。一番上の兄上がいてくれて嬉しいのですね。  私は三兄弟の様子に目を細めましたが、イスラと一緒にいた初代イスラを見つめました。 「あなたもここに来るなんて驚きました」 「貴様には関係ない」  初代イスラが素っ気なく答えました。  この場所は大地の巨人によって転移させられた場所です。ということは、イスラや初代イスラは故意的に追ってこなければ来られなかった場所です。イスラは私を追ってきてくれたと分かりますが、初代イスラがここにくる理由が見当たらないのですから。 「でも、ここは理由もなく来る場所ではありませんよね?」  そう言って周囲を見回しました。  そこには巨大な怪鳥の死骸が幾つも倒れています。  この怪鳥の群れはイスラと初代イスラが倒したのですね。そしてこの場所……、広い空間を見回して困惑してしまう。  そこには荘厳な地下神殿が広がっていたのです。奥には見慣れぬ紋章を掲げた祭壇がありました。 「古い祭壇ですね……、ここは神殿でしょうか……」 「おっきいね~」 「あぶー……」  ゼロスとクロードも神殿の高い天井を見上げてきょろきょろ。あまりに広い空間にぽかんとしています。  でも初代イスラは厳しい面差しでレオノーラを見据えました。 「レオノーラ、お前はあの紋章に見覚えがあるんじゃないのか?」 「っ……。…………」  問われたレオノーラが黙り込んでしまう。  唇を引き結び、視線を落とすレオノーラ。  そんなレオノーラに初代イスラが問い続けます。 「この神殿の紋章は、魔力無しの連中が信仰していた教会の紋章と同じものだ。そうだったな?」 「…………はい」  レオノーラが静かに頷き、ゆっくりと顔をあげました。  認めたレオノーラに初代イスラが少し意外そうな顔になります。 「認めるのか?」 「はい、私が幼い頃に通っていた教会の紋章と同じものです。そこには魔力無しの人間たちが集っていました。ゲオルクもその一人と考えられます」  レオノーラはそう言うと初代イスラをまっすぐに見つめます。  そして誓うように言葉を紡ぐ。 「……私は、私はイスラ様に隠しごとをしないと決めました。偽ることもいたしません」 「…………」  今度は初代イスラの方が黙り込みました。少し驚いて見えるのは気のせいではありません。  だって、それを見ていた私も驚いたのです。なぜなら、レオノーラがまっすぐに自分の意志を伝える姿を見たのは初めてだったのです。ましてや相手は初代イスラ。今までのレオノーラは初代イスラに対して気後れし、従順な姿しか見たことがなかったのですから。  それなのに今、レオノーラはまっすぐに初代イスラを見つめ返しています。まるで恐れを吹っ切ったように。 「レオノーラ様……」  思わず声を掛けると、レオノーラが私に優しく笑いかけます。 「ブレイラ様のおかげです。もう恐れないことにしました。幸せになることを、欲しいものを素直に欲しいと手を伸ばすことを、恐れないことにしました」 「そうですか」  私も頷いて笑いかけました。  レオノーラが恋をしているのはデルバート。そして生きる理由になるほど大切なのは初代イスラなのですね。  私は知っています。それは似て異なる愛情で、どちらもとても大切なものだと。

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