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第九章・歴代最強の勇者19

「ブレイラ様、この壁画に描かれているのは……」 「はい、おそらく……魔力無しの人間ですよね。この初代時代よりはるか昔の」  神殿の古い遺跡に壁画が残っていた場合、そこに描かれているのは当時の文化や歴史である場合が多いです。  そして今、私たちの目の前にある壁画に描かれていたのは、この初代時代のレオノーラやゲオルクよりさらに昔の魔力無しの人間たちのようでした。  私たちは壁画に描かれている内容をゆっくり紐解いていきます。  初代王の時代よりさらに古い時代、魔力無しの人間は大陸で迫害を受けていたようでした。迫害から逃れて海を渡り、この孤島へ辿り着いたようです。孤島でひっそり隠れ住みながらも独自の文化や宗教を発展させていった。でも……。 「これはっ……」  壁画を見ながら歩いていた足が止まりました。  イスラと初代イスラとレオノーラも息を飲みます。  そこに描かれていたのはゲオルクやレオノーラが信仰していた紋章でした。  それはこの孤島の魔力無しの人間が信仰していたということ。信仰の発祥はこの孤島だったのです。  そして、壁画に描かれていたのは――――祈り石。  魔力無しの人間たちは祈り石を囲んで祈りを捧げていました。そう、何十年も、何百年も、何千年も、何世代にも渡って祈りを繋いできたのです。  でも、その祈りは途中で途切れました。  孤島の住民は祈りを捧げながら平穏に暮らしていましたが、突如、四体の巨人が出現したのです。それは炎、水、風、大地の巨人。私たちが遭遇した巨人のようでした。  魔力無しの人間は祈り石を使って四体の巨人を封じたものの多くの人間が殺され、生き延びた人間は逃げるように孤島を離れていきました。  孤島から逃げて大陸に渡った人間が、孤島で発展した独自の宗教を大陸の魔力無しの人間に密かに伝えたのです。それがゲオルクやレオノーラの祖先にあたるのでしょう。 「……この孤島は魔力無しの人間にとって重要な島だったんですね」  魔力無しの人間たちを思うと切ない気持ちになりました。  今は無人島ですが、はるか昔は大勢の魔力無しの人間がここに暮らしていたのです。この壁画は営みの証でした。  私とイスラとレオノーラと初代イスラは複雑な気持ちで壁画を見つめていましたが。 「おえかき、へんなの~」 「あい」  ゼロスとクロードには難しかったようです。  二人はじーっと壁画を眺めていましたが、三歳と赤ちゃんの感想はこれでした。  仕方ないですね、まだ三歳と赤ちゃんですから。 「ゼロス、クロード、お利口にしていてくれてありがとうございます。つまらないですよね、大丈夫そうですか?」 「だいじょうぶ。みんなみてるから、ぼくもみたほうがいいかとおもって」 「ふふふ。ありがとうございます」  訳が分からないながらもゼロスは壁画をじーっと眺めていました。クロードは途中からハンカチ遊びをしていました。  思えばゼロスは魔界の城の式典でも我慢できるようになってきていました。以前は駄々をこねていたのに、成長しているのですね。  私たちはこうして壁画の通路を歩き続けます。そして壁画の終わりには石造りの両扉がありました。 「行くぞ」  緊張が高まる中、初代イスラが両扉を開けました。  扉の向こうは円形の広間になっていました。  全体が石造りの広間はがらんとして静まり返っています。  イスラが光魔法で広間を照らしてくれました。  広間には祭壇すらありません。でも、照らされた石壁に驚いてしまう。 「あれは巨人……?」  石壁に四体の巨人が描かれていたのです。  そう、炎と水と風と大地の巨人です。  しかし壁画というにはあまりにも描写がリアルで、まるで本当にそこに埋め込まれているかのようでした。 「……これって本当に絵ですよね?」 「ああ、なんの力も感じないが……」  イスラも不審を覚えたようです。  不気味な異様さを感じていたその時。 「――――そこにいる巨人は我らの祖先によって封じられたもの。それに感心を持つとは、やはり我らの祈りは時代を超える」 「ゲオルク!?」  ハッとして振り向くと、扉を背にしてゲオルクが立っていました。  突然の出現に私たちは警戒を強めました。  ここにはイスラや初代イスラもいるのに、誰一人ゲオルクがいたことに気付けなかったのです。  ゲオルクは私とレオノーラを見ると嬉しそうに目を細めます。 「ようこそ、我が同胞たちよ。いずれここに連れてこなければと思っていたが、まさか巨人によって連れてこられるとは嬉しい誤算だ」 「同胞なんて言い方しないでくださいっ」  私は警戒しながらも言い返しました。  イスラが私を隠すように前に立ってくれます。  するとゼロスも「ぼくも!」と真似るように私の前に立ってくれました。  本人はかっこよく剣を構えましたが、慌てて手を引いて私の隣に戻します。 「ゼロス、あなたはこっちです」 「なんでっ。ぼくもつよいのに~」 「今は私の側にいてください」 「ええ~」  ゼロスは不満そうな顔になりますが、「側で守ってください」とお願いすると機嫌を直してくれました。  ゼロスの強さは分かっていますがゲオルクは得体の知れない男なのです。  イスラが剣を出現させ、その切っ先をゲオルクに向けました。

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