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第九章・歴代最強の勇者21

「祖先の叡智を悔いるとは恥知らずどもが。同胞と思い、今まで無碍に思うことはなかったが残念なことだ」 「……私は、やはり分かりませんっ」  レオノーラがゲオルクを見据えて言い返しました。 「祈り石という叡智は、それほどに大切なものでしたか。世界のあらゆる種族が危険視し、滅ぼさねばと思うほどの。それは本当に多くが命を懸けて伝えなければならないものでしたか。……それがなければ私の村も、他の魔力無しの人間も殺されることはありませんでした」 「なにを愚かなことを。奴らが先に我らを迫害したのだ。いわば祈り石を生み出す切っ掛けを作ったのは奴らの方だ。違うか?」 「それは……」  レオノーラは唇を噛みしめました。  この時代、レオノーラは魔力無しの人間ということで侮られて生きてきたのです。この時代より更に昔は今以上の迫害があったといいます。その悲しみと怒りを知るからこそ、レオノーラはなにも言えなくなったのです。  そんなレオノーラにゲオルクは口元だけで笑うと、初代イスラとイスラを見据えました。 「同胞よ、先祖の叡智を黙って見ているがいい。そこにいる勇者どもを凌駕する奇跡の力を」  ゲオルクの殺意がイスラと初代イスラに向けられます。  しかし二人はそれに怯むことはなく、それどころか初代イスラは冷笑しました。 「長い御託がようやく終わったか」  初代イスラは剣を出現させ、その切っ先をゲオルクに向けて挑発します。 「貴様がどんな理由でどんな力を手に入れようと関係ない。ただ排除するのみだ」 「ゼロス、防壁魔法でブレイラとクロードとレオノーラを守れ」 「わかった!」  イスラがゼロスに指示しました。  イスラも剣を構えて戦う気です。でも今、ゲオルクの手中にある祈り石からは異様な力を感じてしまう。 「イスラ!」  心配になってイスラの背中に呼びかけました。  するとイスラは大丈夫だとばかりに剣を掲げます。その姿に私は指先を握りしめ、そっと頷き返しました。きっと今、あなたは好戦的な顔でゲオルクを見据えているのでしょうね。 「ブレイラ、あにうえはつよいからだいじょうぶ! ブレイラたちはここにいてね!」  そう言ってゼロスが防壁魔法を発動してくれました。  兄上の言いつけを守って私とクロードとレオノーラを守ってくれるのです。 「ゼロス、ありがとうございます。よろしくお願いします」 「ぼくがみんなをまもってあげる! ぼくつよいから、できるの!」 「はい」 「あぶっ。あー」 「クロード、大丈夫ですよ。イスラとゼロスがいますからね」 「あいっ」  クロードは頷くと私の胸元にぺたりとしがみ付きました。抱っこ紐で固定していますが、念には念をとばかりにしがみついてくれます。  私はクロードの小さな体を抱きしめて、ゲオルクと対峙するイスラと初代イスラを見つめました。  二人は共闘するのかと思いましたが。 「おい、邪魔をするな。俺一人で充分だ」と初代イスラ。 「お前こそ下がってろ。足手纏いだ」とイスラ。  こんな時だというのに言い合いを始めてしまいました……。どうやら共闘するつもりはなかったようです。  でもゲオルクにとって二人が勇者であることに変わりありません。 「それほど死に急ぐか。力に驕る者どもよ」  ゲオルクが祈り石を掲げました。  瞬間、光弾が流星のようにイスラと初代イスラに襲いかかります。  ドドドドドドドドドッ!! 「っ、イスラ……」  私は祈るような気持ちで戦闘を見つめました。  凄まじい爆風と衝撃波は広間の空気すら歪ませるもので、私やレオノーラはゼロスの防壁に守られていなければ跡形もなく消し飛んでいたでしょう。  しかしイスラと初代イスラが怯むことはありません。それどころか爆風の砂埃に紛れて一気に接近します。 「死ね!」  初代イスラがゲオルクの背後から切りかかる。  ゲオルクは咄嗟に防壁を発動して初代イスラを剣ごと弾き返しましたが、その隙に今度はイスラが横から剣を閃かせます。 「こっちだ!」 「っ、この勇者どもがっ……!」  ゲオルクが防壁範囲を広めてイスラの攻撃を退けました。  しかし間髪入れずに初代イスラの連続雷撃魔法が炸裂して防壁を破壊する。完璧な連携です。 「おおっ、すごい~! あにうえ、がんばれー! あにうえじゃないひとも、がんばれー!」 「にー! にー! あうー、ばぶぶっ!」  ゼロスとクロードが興奮した様子で応援します。  それは初めての連携とは思えぬ見事な連携攻撃でした。  時代は違ってもさすが勇者同士とでもいうべきでしょうか。二人は話しあったわけではないのに、いざ戦闘が始まると互いの動きが分かっていたかのような動きをするのです。 「すごいですねっ……」  感心しているとレオノーラが教えてくれます。 「お二人は戦ったことがありますから、互いの剣技や動きを把握しているのだと思います。勇者様方ほどの御力の持ち主なら一度でも剣を交わえば可能なことです」 「そうなんですね。やはり勇者というのは人間の中でも特別な存在なんですね」  四界の王とは存在が規格外なのです。  次元の違う戦闘を私たちは見ていることしか出来ません。  こうして戦闘は勇者が優勢で進み、このまま圧勝するかと思いました。  でもふいに気付いてしまう。ゲオルクの祈り石が先ほどより輝きを増していることを。そう、攻撃を受けながら徐々に光を増していました。  えもいえぬ嫌な予感を覚えてしまう。 「二人とも離れてください!!」  咄嗟にイスラと初代イスラに向かって叫びました。  でもその刹那、ゲオルクの祈り石から閃光が走る。  それは視界を塗り潰すほどの強烈な光、そして破壊的衝撃波。 「うわあっ! ブレイラ、ぼくのうしろにきて!」 「は、はいっ。レオノーラ様こちらへ!」  私は急いでレオノーラの手を引いてゼロスの背中に下がりました。  破壊的衝撃波にゼロスの体がじりじりと押されだし、私とレオノーラが後ろから小さな背中を支えました。 「うぐぐっ。とんでく~……っ」 「ゼロス、ゼロスっ、大丈夫ですか!?」 「ゼロス様っ……」 「っ、……だ、だいじょうぶっ。ぼく、つよいからっ……! くっ、えええええええい!!」  ゼロスが更なる魔力を振り絞り、防壁を強化して衝撃波を跳ね返しました。  でもゼロスの膝がガクリッと崩れる。魔力を出しすぎたのです。

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