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第九章・歴代最強の勇者25

「ブレイラ、俺から離れるなよ?」 「はいっ」  クロードをしっかり抱っこしてイスラの背後に下がります。  側ではゼロスも剣を構えて警戒していました。  初代イスラとレオノーラも剣を構えて神経を集中します。  広間が緊張で張り詰める中、ふいに、ドーーーーーン!!!! 「上だ、避けろ!!!!」  咄嗟にイスラが声をあげ、私の腰を抱いて転がりました。  皆も反射的に避けて難を逃れます。  天井が崩落する光景に、最初は天井が爆発したのかと思いました。  でも違う。だって、だってっ。 「あ、あれは足!?」  巨大な足が天井を突き破ってきたのです。  それは炎の足。  炎の巨人の足だったのです。  でもすぐに異変に気付きました。 「どういうことだっ。こいつ、足だけだぞっ……」  イスラも驚愕しました。  そう、足だけ。  今まで遭遇した炎の巨人には全身があったのに、なぜか足の脛から上がないのです。  しかし巨人の巨大な足は意志を持っているかのように激しく地面を踏み、その度に広間の天井が崩落して瓦礫が降り注ぐ。  ドシーン!! ドシーン!! ドシーン!! ドシーン!! ドシーン!!  ガラガラガラ、ガシャーーン!! ガラガラガラッ!! 「わああああ~! たいへんたいへん!」  ゼロスが頭を両手で守りながら逃げ回ります。  ちょろちょろ逃げる姿はまるで遊んでいるようにも見えますが、さすが冥王ですね、巨人の足も瓦礫の雨もちゃんと回避しています。  初代イスラとレオノーラの方は身軽に瓦礫を避けていました。  そして私はイスラの側でクロードを抱っこして小さくなっていました。イスラが頭上に降り注ぐ瓦礫を剣で素早く切ってくれているのです。 「イスラ、ありがとうございます」 「ブレイラを守るのは当然だ。でも、いつまでもこうしていられない。あの足をなんとかしないと」 「そうですね。……でも、あなた」  私はイスラを見つめます。  イスラは祈り石を破壊する為に膨大な魔力を使いました。それなのに得体の知れない巨人の足と戦うなんて……。  そんな私の心配を察してイスラが苦笑します。 「心配するな、俺は魔力だけの勇者じゃない。剣術も体術もすべてが歴代最強だ。俺はブレイラの王様だろ?」  イスラは強気に言ってニヤリと笑う。  勇者の紫の瞳は強い光を宿したままで、決して絶望的な状況に悲観していなかったのです。 「はい、私の王様」 「ああ、必ず無事にここから連れだす。ゼロス、来い!!」 「なあに~!?」  逃げ回っていたゼロスがすぐに駆けつけてくれました。  そんなゼロスにイスラが指示します。 「ゼロス、お前はここで瓦礫を一つ残らず叩ききれ。なにがあってもブレイラ達を守るんだ」 「あにうえは?」 「俺は巨人の足を始末する」 「ええっ!?」  ゼロスはびっくりすると、暴れる巨人の足とイスラを交互に見ます。 「ほ、ほんきなの? だってあにうえ……」  ゼロスが困った口調で言いました。  ゼロスもイスラが魔力を使い切っていることに気付いているのです。 「そうだ! ぼくもおてつだいする? おともだちをよんだら、ぼくもあにうえとたたかえるとおもうんだけどっ」  ゼロスの思わぬ提案にイスラはムムッと眉間に皺を刻みます。  ゼロスは召喚魔法でイスラと一緒に戦うというのです。  その提案にイスラは、……ツンツン。ゼロスのおでこを軽くツンツンします。 「ああああっ、やめて~。ツンツンしないで~」  ゼロスは両手でおでこを守りますが、イスラは呆れた顔でツンツン。 「なにが手伝いだ。呼び出せるものなら呼びだしてみろ、お前ももう魔力残ってないはずだぞ」 「そんなことない! おともだち、おいでってできるもん! つよいおともだち、どうぞっ!」  ゼロスが召喚魔法陣を発動し、ポンッ。  現われたのは……ダンゴムシが一匹。 「ちっちゃ! ぼくの、ちっちゃなおともだち!」  しかもせっかく召喚されたというのに、ダンゴムシは暴れている巨人の足にびっくりして自主的に帰ってしまいました……。 「ああっ、いかないで~! ダンゴムシさん~~!」  帰ってしまったおともだちにゼロスは「ああ……」と嘆いています。  やっぱり魔力が底をついていたようですね。ダンゴムシがせいいっぱいだったようで、そのダンゴムシも帰ってしまいました……。  肩を落としてしまうゼロスでしたが、イスラが苦笑して声をかけます。 「ゼロス、自分の弱さを恥じろ。だがお前のその気持ちは好ましいもので、四界の王として必要なものだ」 「あにうえ……」 「でもな、無謀では意味がない。無謀の先にあるのは哀れな犠牲だけだ。今は自分のできることだけに集中しろ。わかったな?」 「…………わかった」  納得したゼロスにイスラは頷きました。 「よし。次はクウヤとエンキ、でてこい」 「ワンッ!」 「ワンッ!」  私の足元からクウヤとエンキが飛びだしてきました。  二頭が私を守るような位置に立ちます。 「エンキはゼロスの援護をしながらブレイラを守れ。クウヤは俺と来い」 「ワンッ!」 「ワンッ!」  エンキがゼロスの側へ、そしてクウヤはイスラの側へ。  でもその光景に私の緊張が高まりました。  あのイスラがゼロスだけでなくクウヤやエンキの戦力も必要としたのですから。  でも心配は無用なのですね。  だってイスラの紫の瞳は強い光を宿したままなのです。  イスラは最後に初代イスラを見ました。 「どうする、疲れてるなら休んでてもいいぞ」 「誰に向かってものを言っている」  初代イスラが低い声で答えました。  初代イスラはとても怖い顔をしています。  でもそんな顔をしながらも初代イスラも闘気を纏ってイスラの隣に並び立つ。二人で巨人の足に対峙するのです。 「行くぞ」 「ああ」  イスラと初代イスラが剣を構えて巨人の足に接近しました。  その二人の動きに合わせてクウヤも素早く攻撃を仕掛けます。  すると巨人の足はさらに暴れだして、天井の瓦礫が雨のように降り注ぐ。  でも私とクロードとレオノーラの上には落ちてきません。 「えいえいえいえいえいえいえいえいえいっ! はんぶんこー!!」  ゼロスが巨大な瓦礫を剣で両断しました。  そのまますかさず飛び蹴りで別の瓦礫を蹴飛ばし、拳で粉砕する。とても見事な連撃です。  そしてエンキも瓦礫に体当たりして弾き飛ばしたり、後ろ脚で蹴り飛ばしたり、ゼロスと一緒に瓦礫の雨を食い止めてくれていました。  この光景を前にしてレオノーラが感嘆に息を飲む。 「すごいです。ほんとうにっ……」  そう呟いたレオノーラの瞳には涙が滲んでいました。  今レオノーラはどんな気持ちでいるのでしょうか。  でもレオノーラの視線が初代イスラを追いかけているのに気付いて、私は目を細めました。  こうしてイスラと初代イスラは巨人の足と戦っていましたが、ふいに気付いてしまう。徐々に劣勢になっているのです。  これは当然といえば当然でした。イスラと初代イスラはひどく疲弊していて、しかも魔力が残っていません。二人は巨人の足とは剣技だけで戦っているのですから。  私は祈るような気持ちでイスラを見つめていましたが、その時。  ドシンドシンドシンドシンドシンドシンドシンッ!!  暴れていた足の動きが変わりました。突然蹴りつけるように縦横無尽に動きだしたのです。 「イスラ、逃げてください!!」  はっとして声をあげました。  振りあがった足がイスラの頭上に!  イスラは咄嗟に逃げようとするも、素早く動いた足が蹴り飛ばそうとする。 「イスラ!!!!」  悲鳴のように名を叫んだ、次の瞬間。  ドドドドドドドドッ!!!!  突然、強力な連続攻撃魔法が炸裂しました。  激しい爆発に砂塵が舞い上がり、爆風によってしだいに払われていく。視界が開けて、イスラの前に立っていた男の姿に胸がいっぱいになりました。だって、だって。 「っ、ハウスト!!」  そう、ハウストでした。  ハウストが寸前でイスラを守ってくれたのです。

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