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第九章・歴代最強の勇者26

「間に合ったようだな」 「ぎりぎりだ。俺はもっと早く来ると思っていた」 「……これでも急いだんだが」 「遅い」  イスラがきっぱり言い返しました。  どうやらイスラはハウストの到着を予想していたようです。同じ島にいてハウストが来ないはずがないと。  でもイスラはもっと早く来ると思っていたようで。 「ハウスト、鈍ったんじゃないのか? 魔王だろ」 「その魔王相手にいい度胸だ。だいたい親に対してその口の利き方はなんだ」  ハウストの目が据わってしまいました。  せっかく駆け付けたのに文句を言われて面白くなさそうです。でも。 「親だと思ってるからもっと早く来ると思ったんだろ。文句でもあるのか?」 「減らず口を。…………だが文句はない」  どうやら文句はなくなったようです。  イスラもフッと口元だけで笑う。でもぐらりっと体が傾きました。魔力も体力も尽きて、すでに限界を超えていたのです。  そんなイスラをハウストが支えてくれる。  イスラの腕をハウストが自分の肩にかけさせ、私のところに連れてきてくれました。 「イスラ!」  私は堪らずに駆け寄りました。 「ブレイラ、イスラを頼む」 「はい」  私はハウストからイスラを受け取り、今度は私の肩を貸します。ハウストよりも頼りないですがせいいっぱい支えます。 「イスラ、大丈夫ですか? たくさん無理をさせてしまいましたね」 「大丈夫だ。ブレイラが無事で良かった」 「あなたのおかげです。守ってくれてありがとうございます」  私の元に戻ってきたイスラにほっと安堵しました。  そんな私たちのところに、ゼロスが瓦礫を切りながら嬉しそうに駆けてきます。 「ちちうえだっ、ちちうえだ~~!!」  ゼロスはぶつかるような勢いでハウストの足にぎゅ~っとしがみ付きました。  その勢いのまま「ちちうえ、ちちうえ」と足をよじ登りだしてしまう。ハウストは少し面倒くさそうな顔になりましたが、ゼロスはとっても嬉しそう。分かりますよ、父上が来てくれて安心したのですね。 「ちちうえ、なにしてたの! はやくこなくちゃダメでしょ!」 「なんなんだお前まで……」 「だって、はやくきてほしかったの! ぼく、まってたの!」 「それは悪かった。だが、お前も頑張ったんだろ?」  ハウストが聞くとゼロスの顔がパァッと輝きます。  父上に認められてもっと嬉しくなったようですね。 「そうなの! ぼく、いっぱいがんばった! ぼくはステキなめいおうさまだし、ブレイラだいすきだし、クロードのあにうえだし。だからあにうえといっぱいがんばったの!」 「ああ、よく耐えた。よく守ってくれた」 「えへへ、ちちうえ~!」  ゼロスがハウストの肩にぎゅっと抱きつきました。  そんなゼロスの小さな背中をハウストもポンポンと優しく叩きます。  興奮したゼロスの瞳はキラキラしていますが、それは抱っこ紐のクロードも同じでしたね。クロードもハウストの姿に瞳をキラキラさせています。 「あぶっ、あーあー!」 「ふふふ、クロードも父上がきてくれて嬉しいんですね」 「あいっ」 「ハウスト、クロードも泣かずにがんばったんです。イスラやゼロスの言うことをよく聞いてお利口でした。褒めてあげてください」  そう言って抱っこしているクロードをハウストに見せてあげます。  するとクロードが興奮したように短い手足をバタバタさせる。  そんな様子にハウストは小さく苦笑して、ぽんっとクロードの頭に手を置きました。 「ああ、お前も頑張ったな。えらかったぞ」 「あいっ! あーあー、ばぶぶっ」  クロードも褒められて嬉しそう。  いい子いい子とクロードの頭を撫でてあげると、私もハウストに向き直りました。 「ハウスト、来てくれてありがとうございます」 「お前が無事で良かった」 「イスラとゼロスが私とクロードを守ってくれました。それに、あなたが来てくれると信じていましたから」 「ああ」  ハウストは穏やかな面差しで頷きました。  そして私の頬を指で撫でて、大きな手が頭の後ろへ。そのままハウストの肩に顔を伏せさせられます。私もハウストの肩に頬を寄せ、伝わる温もりに静かに目を閉じました。  でもすぐに離れます。  もっと触れあっていたいけれど、大丈夫。ハウストの存在を感じることができました。  私は顔をあげてハウストを見つめます。 「どうかご無事で。ここで待っています」 「ああ、待ってろ。心配するな」  ハウストはそう言うと私の周囲に防壁魔法を発動させました。  防壁魔法が私たちをすっぽり包む。イスラもゼロスも魔力が尽きているのでハウストの守護が必要でした。  ハウストの肩からゼロスがぴょんっと飛び降ります。 「ちちうえ、がんばれ~!」 「ばぶ~! あーあー!」  ゼロスとクロードがハウストを見送ります。  私が支えているイスラは疲弊していても相変わらず油断を解きませんが、それでも少しだけ目元が柔らかくなっている。なんだかんだ言いながらハウストを信頼しているのです。  そして防壁魔法の外にいたのは、初代魔王デルバート、初代精霊王リースベット、初代幻想王オルクヘルム、他にもジェノキスがいました。彼らもハウストとともにここへ駆けつけてくれたのですね。  しかも今、リースベットとオルクヘルムの強力な呪縛魔法によって巨人の足の動きを止めてくれています。  でもその横でデルバートが初代イスラを少し困ったように見ていました。

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