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第九章・歴代最強の勇者27
「おい、お前もあっちで休んでろ」
デルバートが私たちの方を見ました。
初代イスラも体力と魔力を使い果たしているのです。
しかし初代イスラは不快そうに顔を顰めました。どうやらプライドが許さないようですね。
でも初代イスラが文句を言う前に。
「イスラ様!」
レオノーラが駆けだしました。
レオノーラは泣きだしそうな顔をしていて、その顔に初代イスラは唇を引き結びます。ムッとした顔ですが、どちらかというと困惑しているだけのようですね。
「イスラ様、お疲れ様でした。ありがとうございました」
「…………」
初代イスラが黙り込みます。
初代イスラ自身も分かっているのです。これ以上戦う力は残っていないことも、そんな状態で前線に残っても足手纏いになるだけということも。
でもレオノーラに文句を言わず黙り込むなんて、もしかしたら初代イスラも少しは素直になっているのかもしれませんね。
仕方ないですね、遠くから見ている私もお手伝いしましょう。
初代イスラは年頃なので気遣ってあげなくてはいけません。手間がかかりますが仕方ないことです。
「何してるんですか、いい子ですから早くこっちへ来なさい!」
「あにうえじゃないひと、はやくこっちおいでよ~! ちちうえのぼうへきまほう、とってもつよいよ~!」
「ばぶぶっ、あいーあー!」
こちらへ来やすいように呼んであげました。ゼロスとクロードもお手伝いしてくれましたよ、良かったですね。
しかし。
「弱い奴とガキ二人は黙ってろ」
「な、なんてことをっ。その口の利き方を直しなさい、生意気ですよ!」
「コラーッ! そんなこといっちゃダメでしょー!」
「あうーっ、あーあー!」
せっかく呼んであげたのに失礼すぎです。三人で抗議しましたよ。
プンプンする私たち三人を初代イスラがじろりっと睨んできます。
怖いお顔ですが大丈夫、私たちにはイスラがいますからね。
そんな私たちを初代イスラは更に睨んできましたが、でも次に視線が私たちからイスラに移ります。
二人の目が合ってイスラが少し呆れた顔で口を開きます。
「さっさと来い。終わらないだろ」
「…………フンッ」
初代イスラは生意気に鼻を鳴らしましたが、でもようやく折れる気になったようでした。
「……レオノーラ、肩を貸せ」とぶっきら棒な口調ながらも言います。
それにレオノーラは嬉しそうに目を細めて初代イスラに肩を貸しました。
「イスラ様、どうぞこちらへ」
レオノーラに支えられながら初代イスラが私たちのところへ来ました。
私に支えられたイスラと、レオノーラに支えられた初代イスラ。
イスラが少し意地悪な顔で初代イスラをからかいます。
「早く来いよ。お前、めちゃくちゃ邪魔だったぞ?」
「……うるさい。お前こそ魔王の到着を勝算に入れるなんて情けないんじゃないか?」
「なんだと?」
イスラと初代イスラが睨みあいました。
でも二人とも肩を支えられたままなので迫力ありませんね。まるでそう、友達が軽口を交わしてじゃれあっているような。
滅多に見れないイスラの態度が珍しくて、もう少し見ていたい気分。
あ、レオノーラ様。
レオノーラと目が合いました。レオノーラも初代イスラの顔をじっと見ていたのです。どうやら珍しい気持ちになっていたのは私だけではなかったようですね。
こうして防壁魔法の中で私たちはハウスト達の戦いを見守ります。
呪縛魔法を発動しているリースベットとオルクヘルムの顔が険しいものになっていく。
「クソッ、たかが足だけっていうのに、なんて力だっ……!」
「呪縛魔法を解くぞ! 心せよ!!」
巨人の足を縛っていたリースベットとオルクヘルムに限界が近づいていました。
足の動きを止めるだけだというのに、初代王が二人がかりで呪縛魔法を展開していたのです。それはまさに脅威。
しかしここにはまだ魔王が二人います。
呪縛魔法から解放された巨人の足がまた暴れだしましたが、次はデルバートとハウストが連携して攻撃魔法を発動しました。
ドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!
弱った隙を見逃さず、リースベットとジェノキスが巨大魔法陣を展開して巨人の足を閉じ込めます。
オルクヘルムとデルバートとハウストが魔力を発動し、頭上に巨大な大剣を出現させました。そう、巨人の足より巨大な剣です。
ズズズズズズズズズズズズズズッ……!!
巨大な剣がゆっくりと降下を始めました。
三人の王によって作られた巨大な大剣。あまりにも巨大なそれは圧倒的な重量ですべてを押し潰すもの。
この場の空気すら重量で制圧し、轟音をあげて巨人の足に伸し掛かります。
じりじりじりと巨人の足が押し潰されだしました。
「っ……」
防壁魔法越しにも衝撃波が伝わってきます。
私はクロードを抱っこしながらイスラを支えている腕にぎゅっと力を込める。ゼロスも私の足にぎゅっとしがみ付いて踏ん張っていました。
「ゼロス、大丈夫ですか?」
「うぅ、だいじょうぶっ。ぼく、ちからもちさんだからっ……、くっ」
広間は強烈な爆風と光の衝撃波に襲われました。
少しして衝撃波が過ぎ去り、ゆっくり目を開ける。
ああ……、長いため息をつきました。
「ようやく、ようやく終わったのですね……」
視界に映ったのはハウスト達と破壊された広間だけ。巨人の足は押し潰されて跡形もなく消滅したのです。
支えているイスラも巨人の消滅をまっすぐ見据えていました。
「ああ、終わったな。長かった」
「はい」
私もゆっくりと頷きます。
とても長かった……。
消えてしまったゼロスとクロードを追って私たちは十万年後の四界に時空転移しました。無事にゼロスとクロードを見つけることができましたが、こうして多くの困難に見舞われたのです。突如現れた巨人の足の謎は残ったままですが、今はほっと安堵が広がりました。
「ちちうえ~~!!」
ゼロスが興奮して駆けだして、勢いのままハウストに飛びつきました。
「ちちうえっ、ちちうえ~~!!」
「おいこら、飛びつくな」
「だって、だってすごいんだもん! おっきいけんがゴオオオオッて!! ぼくも、おっきくなったらできる?」
「そうだな、もっと強くなればできるんじゃないか?」
「よ~し、がんばるぞ~!」
「ああ、頑張れ」
ハウストがゼロスをしがみ付かせたままこちらへ歩いてきてくれる。
私はイスラを支えながらハウストを出迎えます。
「ハウスト、お疲れ様でした」
「ああ」
ハウストは頷くと私の頬をひと撫でしてくれます。
彼の手の感触とぬくもりにほっと安堵しました。
次にハウストはイスラを見ます。イスラが頷くと、ハウストも頷きました。それだけのやり取りですが二人には充分なものなのでしょう。
そして次はクロード。
クロードは短い手足をバタバタさせます。
「あぶっ、あーあー」
「ああ、お前も頑張っていたな」
「あいっ」
大きく頷いて、とても満足そうですね。
私はハウストと三人の子どもたちのやり取りに目を細めます。
ハウストが無事に帰ってきてくれました。イスラとゼロスとクロードも多くの困難を越えて、無事に私のところに。私にとってこれ以上の喜びはありません。
私はイスラとゼロスとクロードに笑いかけ、またハウストを見つめたのでした。
こうして、私たちは当初の目的であるゲオルク討伐と祈り石の破壊を完遂したのでした。
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