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第十章・幾星霜の煌めきの中で1

「わあああっ、おにくいっぱい! ぼく、おなかいっぱいすいてたの!!」 「あぶ~っ!」  ゼロスとクロードが歓声をあげました。  たくさんのお肉料理を前にした二人はとても嬉しそうで、見ているだけで幸せな気持ちになります。  でも放っておくとつまみ食いをされてしまいそうですね。 「ゼロス、クロード、もう少し待っててください。このご馳走はみんなで頂きましょうね」 「はーい! ぼく、おててあらってくる! クロードもおいで!」 「あいっ」  駆けだしたゼロスにクロードもハイハイでついていきます。  私はそれを見送って、孤島の川辺にある開けた場所に料理を運びました。他にも人間や魔族や幻想族や精霊族の兵士が手伝ってくれるので助かります。おかげで大量の料理作りも配膳もあっという間に終わりましたよ。  そう、今夜はこの孤島にいる者たちでお祝いと慰労の宴会をすることになったのです。  初代時代は四界大戦の真っただ中ですが、この孤島にいる四人の初代王たちも兵士たちも同じ目的で行動したのです。兵士たちの中には打ち解け合っている者もいて、私たちは最後の夜を盛大な宴会で閉めることにしました。  今夜だけの特別な宴会。  明日この孤島を出れば一時停戦していた四界大戦はまた再開されます。だから今夜は特別な夜。  せっかく停戦したのだから、いっそ再開などしなければいいのに。でもそれは簡単な問題ではないのですよね。ましてや私はこの時代の人間ではないので立ち入ることもできません。  私は手を洗っているゼロスとクロードを見守りながら空を見上げました。  今、孤島の上空は晴れ渡り、雲一つない美しい夕暮れが広がっています。そう、ゲオルクを討伐して祈り石を破壊したことで上空を覆っていた暗雲が晴れたのです。  夕暮れの空には月と星が輝いて、まるで宝石を散りばめたよう。  空の美しさは私たちの時代もこの初代時代も同じものですね。  四界大戦はまだ続きますが、でも今はひと時の安息に口元を綻ばせました。  陽が沈み、孤島の森に設営した野営地にたくさんの明かりが灯りました。そして。 「乾杯ッ!!!!」  オオオオオオオオオオオッ!!  響いた乾杯の号令。夜空に轟く兵士たちの大歓声。  大勢の兵士たちが勝利の喜びに沸き立ってジョッキやグラスを掲げました。  もちろん四人の初代王も私たちも一緒です。  といっても、大歓声に応えて豪快な大号令をあげたのはオルクヘルム。それを面白そうに囃し立てるのはリースベットとジェノキス。デルバートとハウストとイスラは派手に喜ぶ姿は見せませんが、それでも嬉しそうにグラスを掲げています。  そして初代イスラは表情を変えずにグラスを少し掲げただけでした。でも彼の場合は宴会に姿を見せただけで上出来ですね。レオノーラも隣で静かに微笑んでいます。  そんな大人たちに交じってゼロスとクロードも楽しそう。  ゼロスは乾杯が楽しかったのか「かんぱ~い! かんぱ~い!」とジュース入りのグラスではしゃいでいます。  クロードもミルク入りの哺乳瓶を持ち上げて「おー、おー」と声をあげている。赤ちゃんながら大人たちの真似をして楽しんでいます。 「みんなでいっしょにたのしいね~!」  ゼロスがニコニコしながら肉料理をもぐもぐ頬張っています。  野営地には明るく賑やかな笑い声が響いて、とても和やかな雰囲気に満ちていました。ここにいるだけで楽しい気持ちになっているようです。  もぐもぐしながらジュースをゴクゴク飲んで「ぷは~っ」と息を吐く。これは大人たちの真似ですね。  ゼロスは隣に座っているクロードに肉の丸焼きを渡してくれます。それは赤ちゃんでも食べられるように柔らかく料理した肉でした。 「クロードもこれたべる? これなら、あかちゃんもたべられるんじゃないかなあ」 「あいっ。あーん、……あむあむ。ちゅちゅっ、ちゅちゅっ」 「どう? おいしい?」 「あいっ。ちゅちゅちゅ」 「やっぱり! ぼく、クロードもたべられるとおもったの。おいしいね~」 「あいっ。あむあむ、ちゅちゅ」 「ぼくもいっぱいたべちゃお!」  ゼロスはそう言うとまた肉に齧り付いてジュースをごくごく飲みましたが。 「……あ、ジュースなくなっちゃった」  たくさんジュースを飲んだのでグラスが空になってしまったようです。  ゼロスが残念そうに空になったグラスを覗き込みました。  眉が八の字になってしょんぼりです。  私はそんなゼロスの様子に小さく笑いました。 「ゼロス、ジュースおかわりしますか?」 「いいの!? おかわりなのに!?」  ゼロスがびっくり顔になります。  魔界の城ではジュースは一日一杯までと決めていました。まだ三歳なのでたくさん飲んではいけません。  でもね、今日のあなたは限界まで頑張ってくれました。そんなあなたに今夜は特別。 「いいですよ。今夜は特別です。たくさんおかわりはダメですが、もう一杯くらいいいですよ」 「やった~! ブレイラ、ありがとう!!」 「どういたしまして。でもお漏らしはしないように気を付けてくださいね」 「だいじょうぶ! ぼく、あかちゃんじゃないから!」 「ふふふ、そうでしたね」  ゼロスのグラスにジュースのおかわりを入れましたが、次に。 「ブレイラ、俺にも頼む! 酒樽ごと寄越せ!」  オルクヘルムに声を掛けられました。  一緒にリースベットやジェノキスもいます。  三人ともとっても上機嫌に酒を酌み交わしていました。でも三人の周りには大量の空瓶が転がっています。宴会は始まったばかりなのにほろ酔いです。

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