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第十章・幾星霜の煌めきの中で6
「デルバート様は島を出たらどうされるんですか?」
「決まってるだろ、停戦していた戦争の再開だ。今までとなにも変わらない」
「そうですが、今までと変わったこともありますよね」
「…………。……何が言いたい」
デルバートの声が少しだけ低くなりました。
ぎろりと睨まれてしまう。とても怖い顔ですが、四界大戦の再開を控えているというなら聞きたいことがあるのです。
「気を悪くさせてしまったら申し訳ありません。ただ、デルバート様は魔族でレオノーラ様は人間です。大戦が再開すればレオノーラ様と……敵対関係になるんですよね?」
「…………。俺もレオノーラも承知していることだ」
「デルバート様……」
二人が結ばれた喜びは束の間のものだということでしょうか。
この島にいる間だけの関係だと……。二人がとても真剣に想いあっているからこそ、それはあまりに切ないことでした。
「…………」
視線が無意識に落ちてしまう。
そんな私にデルバートが少し困ったようにため息をつきました。
「……そんな顔をするな。言っただろ、その顔は結構くるんだ」
「…………私の顔を気にするほどレオノーラ様のことを想っているのですね」
「当然だ。俺が愛するのはレオノーラだけだ」
「それなら、っ…………。……すみません、出過ぎたことを口にするところでした」
言いかけて口を噤みました。
私はこの時代の人間ではないのです。そんな私が何かを語ることなど許されない気がしました。
でもデルバートは呆れたような顔になりました。
「おい、なにか誤解してないか?」
「誤解?」
「なにを心配しているか知らないが、俺はレオノーラと別れるつもりはないぞ。せっかく手に入れたのに、誰が手離すか」
「え、ええっ!? そうなんですか!?」
「当たり前だろ」
デルバートがあっさり答えました。
そして当然のように続けます。
「お前が憂えるように、俺とレオノーラは魔族と人間。この島を出れば敵対関係になるのは間違いない。だが、必ず迎えに行く。どれだけ時間がかかっても勇者を説き伏せる」
「説き伏せるんですか?」
「本当は戦って倒してしまいたいが、それをすると俺がレオノーラに嫌われかねない。それは困る」
聞かされたのは予想もしていなかった答え。
しかし。
「ふふふ、さすがデルバート様です。やはり魔王というのはそうでなくてはいけません」
「なんだそれは」
「改めてハウストのご先祖様だと思って。ふふふ」
私はそう言って笑うと、「ね、ハウスト?」と隣のハウストを見ました。
四界の王というのはとても自分勝手で唯我独尊なのです。私の魔王ハウストは目的のためならあらゆる手段を行使し、欲したものは必ず手に入れる。十万年前の初代魔王も同じなのですね。
「そういうところ嫌いではありません。むしろときめいてしまいますよ」
「それは光栄だな」
「きっと上手くいきます。デルバート様とレオノーラ様なら、きっと」
「ああ、遥か未来から見ているといい」
そう言ってデルバートは強い面差しで目を細めました。
この時代の魔族と人間の恋がどう紡がれていくのか分かりません。
でも願わくば、二人の築く恋愛に幸多からんことを。
私はデルバートとレオノーラの今後を心から祈りましたが。
「ああそれと、十万年後ではお前が初めて魔界の王妃になった人間ということらしいが、ちゃんと訂正しておけよ? 初めて魔界の王妃になった人間はレオノーラだ」
「…………」
…………なんなんでしょうね、この人は。
しかも真剣な顔ですよ。冗談ではなく本気なようです。
私は「ハウスト、ハウスト」と彼の耳元でこそこそ。
「デルバート様って結構面倒くさいですね……」
「そうだろ。俺もそう思ってたんだ」
ハウストも私の耳元でこそこそ。
そんな私たちをデルバートがじろりと睨みます。
ああいけません、怒らせてしまう前に私は退散するとしましょう。
「では、私はあちらにいる初代勇者とレオノーラ様のところに行ってきます。ご挨拶をしておきたいので」
この島を出たらゆっくりお話しできる機会はそう多くありません。今夜のうちにご挨拶をしておきたいのです。
「イスラ、あなたも来なさい」
「え、俺も?」
イスラが眉を上げました。
どうして俺がといわんばかりの反応ですね。
「友人にはご挨拶をするものですよ」
「……あれが俺の友人だっていうのか?」
「違いましたか?」
「…………」
黙り込むイスラ。
命をかけた決闘をした相手ということもあって少し複雑な顔をしています。でも否定はしません。それが答えというものですよ。
「行きましょう、イスラ。では私たちは少し失礼します」
ハウストとデルバートにお辞儀しました。
私は飲み物と料理を持ってイスラと一緒に初代イスラとレオノーラのところへ足を向けました。
人の輪から少し離れた場所。喧噪が遠く聞こえる場所に初代イスラとレオノーラがいます。
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