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第十一章・星の神話3

「暗くなってきましたね……」  日没が近づく時間ということもありますが、それだけではありません。  暗く重い雲が孤島の上空に立ち込めているのです。 「ああ。異形の怪物の気配も感じる。……やはり祈り石が発動したと考えてもいいだろう」 「レオノーラ様……」  どうか無事でいてください。  私は祈るような気持ちで願います。  孤島にいた異形の怪物は兵士たちによって粗方討伐されていたはずでした。しかし何らかの力が作用して動きが活発になっているのです。  そもそも異形の怪物は祈り石の製造途中に偶発的に生まれたものだということが分かっています。ということはゲオルクによって祈り石が発動したということ。  確信が強くなるばかりで不安が膨らんでいく。  前方を馬で駆けているデルバートの背中を見ました。その背中からは鬼気迫るような焦りを感じます。  そしてもう一人、初代イスラも前を見据えて馬を走らせていました。他に私たちの両側にはリースベットとジェノキス、オルクヘルムの姿もあります。  デルバートは襲撃された兵士からレオノーラの報告が入った後、急報を放って初代王たちを呼び寄せたのです。祈り石の完成だけは阻止しなければいけません。そしてレオノーラの救出を急がなければ。  ピイイィィィィ!!  上空から極彩色の鳥が翼を広げて降りてきました。どうやらリースベットが使役している鳥のようです。  極彩色の鳥はリースベットと並行して飛ぶ。リースベットが足に括りつけてあった手紙を取りました。  手紙を読んだリースベットの顔が険しいものになっていきます。 「……この島、妙なことになっておるぞ」 「それはどういうことですか?」 「この島周辺の海流が急激に変化しておる」 「海流がっ……。それは、それはこの島自体になにかが起きているということですか?」 「そう考えるのが妥当じゃな。何かが起きるぞ」  リースベットは厳しい口調で言うとジェノキスに目配せして馬を方向転換させます。  二人は私たちとは別方向に向かって馬を走らせだしました。 「ジェノキスとともに別行動を取らせてもらう! あとで合流する!」 「リースベット様、ジェノキス、お気を付けて!!」  遠ざかっていく二人に声を掛けました。  きっと二人にはなにか考えがあるのでしょう。この時代の精霊王様もとても思慮深く聡明な方ですから。 「ハウスト、ゲオルクの目的はやはり祈り石を完成させること……」 「ああ、間に合えばいいが」  海流の急激な変化、これは明らかに祈り石の発動を意味していました。  祈り石を完成させるためにきっとレオノーラが必要なのです。  しかし私たちが孤島の中心地に近付くにつれて怪物の気配が多くなっていく。  一面に黒い魔法陣が出現したかと思うと、そこからオークの大軍が出現しました。 「わあっ、へんなのいっぱいでてきた! ちちうえ、えいってしてもいい!?」 「いいぞ。一匹残らず殲滅しろ」 「できる!」  ゼロスが剣を出現させました。  エンキの背に乗ってイスラとともにオークの大軍に突っ込んでいきます。 「イスラ、ゼロス、気を付けてください! 無茶しないでくださいね!」 「だいじょうぶ~! えいえいっ!」 「大丈夫だっ、すぐに片付ける!」  ゼロスとイスラは魔力を発動させ、剣を振るってオークを倒していきます。  二人の戦闘は圧倒的であっという間にオークを殲滅しました。 「あうー、あー」  パチパチ、クロードが拍手します。  私に抱っこ紐で固定されたクロードが兄上たちを見ていました。 「あなたも怖がってなくて強いですよ?」  いい子いい子と頭を撫でてあげます。  するとクロードは「あいっ」と頷くと、イスラやゼロスを指差してなにやらおしゃべり。どこか誇らしげに鼻をピクピクさせています。 「あぶっ。あー、あいー。ばぶぶっ、あう~」  まるで私にイスラやゼロスが強いことを教えてくれているよう。きっとクロードにとって自慢の兄上たちなのでしょうね。まだ赤ちゃんのクロードですが自分も兄上たちと一緒のように扱ってもらいたがりますから。 「クロード、私から離れてはいけませんよ?」 「あいっ」  これから向かう場所ではなにがあるか分かりません。守ってあげなくては。  クロードの無邪気な様子に目を細めて、この大事な赤ちゃんを両腕にしっかり抱きしめます。  でもそんな私も背後から抱きしめられる。ハウストです。 「お前こそ俺から離れるなよ」 「ハウスト……」 「分かってるな?」  言い聞かせるように言われて苦笑する。  ハウストは子ども達だけでなく私のことも心配してくれています。  私は背後のハウストに小さく笑いかけると、応えるように彼の腕にそっと手を置きました。 ◆◆◆◆◆◆  レオノーラは拾った祈り石を握りしめて必死に逃げていた。  通路に掲げられた松明の明かりを頼りに出口を目指す。  幸いにも年老いたゲオルクから逃げるのは難しいことじゃない。ゲオルクに見つかる前に少しでも遠くへ逃げなければならない。 「っ、ここも違う! いったい出口はどこですか!」  バタンッ! バタンッ!  手当たり次第に扉を開ける。  でもどの部屋もがらんっとした空室。  通路も同じ景色ばかりが続いて自分がどこを走っているのか分からなくなる。まるで迷宮のような造りだった。  だがしばらく走って通路の景色が変わったことに気付く。 「どうして、ここにっ……」  レオノーラは目を疑った。  いつの間にか見覚えのある通路を走っていたのだ。  通路の壁には壁画がある。そこにはいにしえの時代の魔力無しの人間と祈り石が描かれていた。そして壁画の通路の先には石造りの両扉がある。  レオノーラはごくりっと息を飲んだ。間違いない、この両扉の先には……。  レオノーラは緊張に震えながらもゆっくりと扉を開く。 「そんな……」  レオノーラは呆然となった。  視界に飛び込んできたのは見覚えのある広間。そう、昨日ゲオルクと戦った広間だった。  出口を探していたつもりが迷い込んでしまったのだろうかと思ったが、すぐに違うと気付く。きっと誘われてきたといった方が正しい。  ―――――バタンッ。背後で扉が閉じる。  レオノーラは前を睨んだまま悔しげに唇を噛みしめた。  そこに立っていたのはゲオルク。

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