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第十一章・星の神話5

「そ、そんな恐ろしいことが、……あり得ませんっ!」 「それは君が心配することではないよ。君こそが祈り石となって我ら同胞の悲願を叶えるのだから」  ゲオルクはそう言うとレオノーラにゆっくりと近付きだす。 「さあ、その石を返しなさい。祈り石となる君に手荒な真似はしたくない」 「誰があなたなんかにっ。この石は渡しませんっ、完成させません!」  レオノーラは祈り石を持って逃げだした。  しかしここは要塞の頂上である。  すぐに隅へと追いやられて足元は断崖絶壁。地上は遥か下で、落ちれば無事では済まない高さだった。  追い込まれたレオノーラはゲオルクを睨み据える。  せめて剣があれば。せめてっ……。  レオノーラはなんとか逃げだそうとゲオルクの隙を窺う。 「逃げても無駄だ。ここに逃げ場所はない」 「っ、あなたの思い通りにはさせません!」  レオノーラは勢いよく駆けだしてゲオルクに体当たりする。  しかしそれを読んでいたようにゲオルクは咄嗟に避けて、そして、――――ガクンッ! レオノーラが膝をついた。 「ぐっ……、ぅぅ」  全身が重い。まるで重力が伸し掛かったかのような重さ。  見るとレオノーラの手中の祈り石が発光していた。  ゲオルクの祈りに反応して発動したのだ。  レオノーラの手中にあるのにゲオルクの祈りに反応している。それはゲオルクの復讐心が尋常ではないという証明だった。 「残念だったね、思い通りにならなくて」  ゲオルクがレオノーラに近付いていく。  レオノーラは膝を屈しながらもゲオルクを睨み上げた。 「っ、……こないで、くださいっ……。うぅ……っ!」  レオノーラの顔がますます険しいものになっていく。  全身に伸し掛かる重みが増して、呼吸すらもままならなくなる。  そんな姿を嘲笑うようにゲオルクがレオノーラの前に立った。  レオノーラを見下ろす顔が愉悦に歪む。 「さあ祈り石を完成させよう。これはいにしえより続いてきた悲願、我々同胞の復讐が今こそ叶うのだ。祈り石となれることを光栄に思うがいい」  ゲオルクがレオノーラから祈り石を奪い返した。  レオノーラは取り返そうとしたが、重力が伸し掛かって腕をあげることも出来ない。 「石を、返しなさいっ……」 「返す? 馬鹿なことを。君は今から祈り石そのものになる」  ゲオルクがそう言うと祈り石が強い光を放つ。  レオノーラの足元に魔法陣が出現し、ゲオルクの祈り石と呼応するように輝きを増した。  この光の光景にゲオルクが興奮して感極まる。 「おおおっ、すばらしいっ……! やはりそうだ! 祈り石が反応している! 祈り石を完成させるには我々魔力無しが器とならねばならなかったのだっ……!! とうとうこの時がきたっ、とうとう我が手に祈り石が……!!!!」 「っ、うぅ……!」  レオノーラは唇を噛みしめる。  この場から離れなければならないのに体が動かない。  このまま、このまま体を明け渡して祈り石の器になるのかと絶望した、その時。 「レオノーラっ、レオノーラ……!!」  不意に聞こえた声。  その声にレオノーラは目を見開く。  それはデルバートの声。  ハッとして振り返ると、デルバートが乗った馬が凄まじい勢いで要塞を駆けあがってくる。  デルバートだけではない。そこには魔狼に乗ったハウスト、ブレイラ、イスラ、ゼロス、クロード。そして初代イスラや幻想王オルクヘルムの姿もあったのだ。 「レオノーラ、これを使え!!」  デルバートが剣を出現させてレオノーラに向かって投げた。  風に乗って一矢のように飛んでくる剣。  その一矢は一縷の光。  レオノーラは力を振り絞って体を動かし、向かってくる剣を受け取った。そして。 「ゲオルク、これで終わりです!!」  グサッ……!!!! 「っ、き、貴様っ……!」  ゲオルクが衝撃に目を見開いた。  そう、レオノーラが剣でゲオルクの胸を貫いたのだ。  ゲオルクががくりっと崩れ落ちる。祈りが中断されたことでレオノーラを包んでいた光が消え、伸し掛かっていた重力も失せていった。  自由に動く体にレオノーラは安堵の息をつくと、剣で貫かれて瀕死のゲオルクを見つめたのだった。 ◆◆◆◆◆◆ 「ブレイラ、もうすぐだ。この森を抜けたら要塞がある」 「はいっ」  ハウストの言葉に私は緊張を高め、懐のクロードを抱きしめます。  そして並走しているイスラとゼロスに向かって声を掛ける。 「イスラ、ゼロス、気を付けてくださいね! 無茶をしないこと!」 「はーい! じょうずにえいってする~!」 「ブレイラも気を付けろ! 俺かハウストから離れるなよ!」  ゼロスとイスラが答えてくれました。  でもゼロスはムッとしてイスラに言います。 「あにうえ、ぼくも。ぼくからはなれないでね、ってブレイラにいってよ」 「お前にはまだ早い」 「えー、はやくないのに~」  ゼロスが面白くなさそうに唇を尖らせました。  二人の様子に緊張が少しだけ解れます。二人は大丈夫そうですね。  私は少し離れた場所を走っているオルクヘルムを見て、次にデルバートと初代イスラを見ました。特にデルバートと初代イスラは無言のまま前を見据えて、その姿に切ない気持ちがこみあげる。鬼気迫る様子にかける言葉はありませんでした。  私たちは森を駆け、そしてとうとう森を抜けます。  一気に視界が開けて天高くそびえる要塞が飛び込んできました。  要塞を見上げて、その頂上が光っていることに気付きます。  あの光は魔法陣っ、そしてそこにいるのはっ……。 「レオノーラ様です! あそこにレオノーラ様がいます! もう一人ゲオルクも、あそこです!!」  要塞の頂上にはレオノーラとゲオルクがいました。  やはりゲオルクは甦っていたのです。  レオノーラは対峙したゲオルクに追い込まれているようでした。 「このまま駆け上がるぞ!!」  ハウストが声をあげました。  私たちを乗せたクウヤとエンキ、デルバートや初代イスラやオルクヘルムを乗せた馬が勢いよく要塞の壁を駆けあがっていきます。  ドドドドドドドドドドドドドッ!!!!  土煙が立ち昇る。  デルバートの魔力を受けた馬は更なる脚力を発揮し、凄まじい勢いで駆けのぼっていきます。 「レオノーラっ、レオノーラ……!!」  デルバートが呼びかけました。  今にも倒れそうだったレオノーラがハッとして顔をあげる。 「レオノーラ、これを使え!!」  デルバートは剣を出現させるとレオノーラに向かって投げました。  レオノーラは振り向きざまに剣を受けとめ、その勢いのままゲオルクの胸を貫く。 「ゲオルク、これで終わりです!!」  グサッ……!!!! 「っ、き、貴様っ……!」  ゲオルクが衝撃に目を見開き、その場に崩れ落ちました。  私たちも要塞の頂上に辿りつきます。 「レオノーラ様!」  私はクウヤから飛び降りてレオノーラのもとへ駆け寄りました。  レオノーラを支えて無事をたしかめます。良かった、大きな怪我はしていませんね。

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