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第十一章・星の神話7
「祈り石ってのは面倒だな。魔石とは違うヤバさだ」
オルクヘルムは闘気を高めて言いました。
ハウスト、イスラ、ゼロス、デルバート、初代イスラも同様に闘気を高めていく。
デルバートが大剣を構え、ゲオルクの手中で輝く祈り石を見据えます。
「祈りが根源なら、その力は無限ということか。幾百幾千年にも及ぶ祈りが根源とは……。だがそれならば、祈り石の完成を阻止するまで!!」
デルバートが一気に距離を詰めました。
大剣からの強烈な一閃が祈り石を狙う。
ガキイイィィィンッ!!
寸前で風の盾に弾かれてしまう。でもそれは承知していたこと。すかさずオルクヘルムと初代イスラの激烈な連続攻撃が繰り出されました。
「おおっ、すごい~! ぼくもえいってしよ!」
興奮したゼロスが剣を握って飛びだそうとしました。でも、ハウストがひょいっと捕まえます。
「どこへ行く、お前はここで防壁だ」
「ええっ、ぼく、ぼうへきのたんとうさん!? ちちうえとあにうえは!?」
ゼロスがそう言うと、イスラがニヤリと笑います。
「俺は戦うに決まってるだろ。お前にはまだ早い」
じゃあな、とイスラはからかうと祈り石の破壊に加わりました。
イスラが加わったことで戦闘が激しさを増していく。
その光景にゼロスは地団駄を踏みます。
「はやくない~! ぼくもちょうどいいの! ちょうどいい!!」
駄々っ子のように訴えるゼロス。
抱っこしているクロードがそんな二番目の兄上を見ながら「あうー、あー」と指差ししてます。私に兄上が駄々っ子してると教えてくれているようです。
私はいい子いい子とクロードを撫でてあげました。今はもう少し見守っていましょうね。
ゼロスはとても強くなっているので、自分の力を試したいという気持ちがあるのでしょう。それは強くなる為に必要なことなのでいつものハウストなら許可するのですが……。
「今回は駄目だ。お前にはまだ早い」
「わあああんっ、ちちうえもはやいっていった!! ぼくちょうどいいのに、ちちうえとあにうえがひどいこという~~!!」
ああいけません、泣きだしてしまいました。
そんなゼロスにハウストは面倒くさそうな顔になります。
でも仕方ないとため息をつくと、ゼロスの目線に合わせるように膝をつきました。
「ゼロス」
「うぅ、なあに? ぼくも、えいってさせてくれるの? グスンッ」
「戦いたいならまず泣きやめ」
「……うぅ、グスッ」
ゼロスは鼻水を啜りながらポケットから自分のハンカチを取り出します。そして濡れたほっぺをふきふきしてチーンと鼻をかむ。
ゼロスは私の言いつけを守ってお出かけの時はハンカチを忘れないのです。
しかも自分で涙を拭いて上手に鼻もチーンとできる。あなた、やっぱり大きくなった。成長したのですね。
ゼロスが泣きやむとハウストは頷き、真剣な顔で話しだす。
「ゼロス、お前はイスラが力を解放して戦っていた時に防壁魔法でブレイラたちを守っていたそうだな」
「そうなの。あにうえのほんきはすごいから、ぼくがブレイラたちをまもってあげなきゃって」
「えらかったぞ」
「まあね。ぼくつよいし。グスッ」
また泣きそうになるけどゼロスはハンカチで目元を軽くポンポンします。涙が零れないようにするなんてえらいですよ。
「ああ、あれはお前しか出来なかった。イスラが安心して本気を出せたのはゼロスが強くなったからだ。ゼロスの防壁は強い。それはここにいる誰もが認めることだ」
「えっ、そうなの!?」
ゼロスはびっくりした顔になって、戦闘中のイスラたちとハウストを交互に見ます。
戦闘は激しさを増して緊張感が高まっているのですが、ゼロスは自分が頼られている予感にみるみる瞳が輝きだす。
「それって、ぼくがつよいから?」
「そうだ、お前になら任せられる。お前なら出来る。ゼロスの防壁があるから思う存分戦えるんだ」
「そっかあ! ぼくがつよいから!」
「ゼロス、ここで防壁魔法を頼む。お前の防壁魔法でブレイラとレオノーラとクロードを守れ。いいな?」
「いいよ! ぼくつよいから、できるの!」
自信満々に答えるゼロス。
良かった、ゼロスが納得してくれました。
私は張り切るゼロスに目を細め、ハウストを見つめます。
「ハウスト、ありがとうございます。納得してくれて良かったです」
「ああ、納得させた。こいつはここに置いておく」
ハウストはちらりとゼロスを見下ろして苦笑する。
ゼロスは「ぼくがまもってあげるね!」と誇らしげにクロードに話していました。
それは無邪気な姿ですが、……まだ幼いゼロスをゲオルクには近づけさせられないということですね。未完成とはいえ祈り石の力は四界の王が警戒するほど強大です。ハウストやイスラがいても何が起きるか分からないのでしょう。
「ハウスト、無事でいてください。イスラをよろしくお願いします」
「ああ、分かっている」
イスラの強さはここにいる初代王たちに並ぶものです。私などが心配するのはおこがましいことですが、それでも私にとっては子どもです。どんな時も心配してしまう。そしてそれはハウストも同じだと知っています。
「ゲオルクの目的は祈り石を完成させることだ。お前とレオノーラを狙ってくるだろうが指一本触れさせん。……と、ゼロスの防壁から出るなよ?」
「ふふふ、はい」
私は小さく笑って頷きました。
ゼロスがじーっとハウストを見上げていたのです。期待したキラキラした瞳で。
ゼロスは満足したのか、「それ!!」と防壁魔法を発動します。幼い子どもながら作るのは冥王の防壁。無尽蔵の魔力で作られる光の盾。
ハウストは私たちが安全圏にいることを見届けると戦闘に混ざりました。
戦っているのは初代王のデルバートと初代イスラとオルクヘルム、そしてハウストとイスラです。この戦いは私の目から見ても優勢だとわかりますが、でもだからこそ恐るべきこと。
これだけの王にも祈り石は対抗できるのですから。
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