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第十一章・星の神話11

「えっ、ええっ? ちちうえ?」  ゼロスが困惑したように聞いた。  しかしハウストはそれには答えず、イスラに向かってきっぱりと言い放つ。 「万が一の時、俺が時間稼ぎをしている間にお前はゼロスを連れてブレイラのところへ行け! そして可能ならブレイラを連れて元の時代へ帰れ!」 「舐めるな! 俺は最後まで戦える!」 「駄目だ! ブレイラを一人にするつもりか!」 「っ……」  イスラがぎりっと奥歯を噛み締めた。  行き場のない怒りを堪えるイスラと困惑するゼロス。そんな二人の息子にハウストは目を細める。  ハウストは息子たちと戦場に立つ時、同格の王としてともに戦っている。  でも同時に、いつだってイスラとゼロスとクロードをブレイラの元へ帰すこと、ブレイラの両腕に抱かせることを忘れたりしない。  自分らしくない判断をしているのは分かっている。四界の王である魔王として許されないことだ。  だが、こんな時くらいいいだろう。  今ここで祈り石を破壊しなければすべてが終わる。この時代も、未来も、なによりブレイラと三人の息子も、すべてだ。  ハウストは初代王たちを振り返る。 「聞いていた通りだ。万が一の時、悪いがイスラとゼロスは手を引かせる」 「ガキどもだけでいいのかよ」  オルクヘルムが面白そうに言った。  十万年後の王たちの関係性が愉快なのだろう。初代王たちの間では考えられないことだ。 「構わん、俺は残る。ここでどんな手を使っても祈り石を破壊する。それが出来なければ意味がない。それには初代王どもだけでは心許ないからな」  ハウストはそう言うと、降下する光球の下へと回り込んで魔力を高める。  下から上へ一気に魔力を解放し、降下を食い止めるのだ。  そんなハウストにオルクヘルムがニヤリと笑う。 「言うじゃねぇか。生意気な子孫どもだ」  オルクヘルムも光球の下に回って魔力を高めた。  イスラとゼロスもハウストの隣に回って魔力を高める。 「ハウスト、勝手なこと言うな! 万が一の時は来ない!! 必ずここで祈り石を破壊する!!」 「ぼくも!!」  二人の魔力が一気に膨れ上がった。  ハウストが魔法陣を出現させ、それにイスラとゼロスとオルクヘルムの魔力も重なっていく。  四人の膨大な魔力によって作られた封殺魔法陣。祈り石の強大な力を封殺して破壊する為のものだ。  しかしまだ足りない。まだ光球の降下を止められない。  その様子にデルバートが初代イスラを見た。 「俺達も行くぞ。俺にはこの世界で守りたいものがある。お前にもあるだろ」  デルバートはそう言うと頭上を見上げた。  遥か上空で鷹が旋回している。そこにいるのはレオノーラだ。  デルバートは遠くに見える影に目を細め、また初代イスラに視線を戻した。そして。 「レオノーラから聞いた。…………感謝する」 「なんのことだ」  初代イスラが素っ気なく返した。  その返事にデルバートが「……分からないのか」とムッと顔を顰める。  もしここに初代イスラを少しでも知る者がいれば意地を張っているだけと分かるのだが、デルバートは本気で初代イスラが分かっていないのだと思った。 「ほら、レオノーラが俺のところに来たのはお前が」 「ッ、いちいち言うなっ!」  初代イスラが声をあげて遮った。  改めて説明されると恥ずかしいのだ。初代イスラはそういう年頃である。 「お前が分からないと言ったからだろ。変な奴だな……」  突然怒りだした初代イスラにデルバートは首を傾げた。  だが初代イスラが分かっているなら話しは早い。 「お前が俺の元にレオノーラを寄越すとは思わなかった。改めて感謝する」 「……邪魔だっただけだ」 「それでもだ。それでも感謝する。だからここでお前に誓おう、必ずレオノーラを幸せにする」 「…………。……勝手にしろ」 「ああ。そこで人間と休戦協定を結びたい」 「はあ!?」  突然のことに初代イスラがデルバートを凝視した。  だがデルバートは当然のように言葉を続ける。 「さっきレオノーラを幸せにすると言っただろう。それにはお前も必要だ」 「ふざけるなっ。なにをさっきから馬鹿げたことをっ……!」  初代イスラは声を荒げた。  内心の動揺を隠し切れないそれにデルバートも頷く。逆の立場なら自分だって動揺している。  でも理解してもらわなくては困る。でなければデルバートは本当の意味でレオノーラを手に入れられないのだから。 「仕方ないだろう、レオノーラが望んでいることだ。たしかにレオノーラが愛しているのは俺だが、レオノーラがすべてを捧げているのはお前だ」 「っ……」  初代イスラは息を飲み、複雑な顔で黙り込む。  だがそれは僅かな時間で、頭上のレオノーラを見上げた。 「…………レオノーラ、ふざけた真似をっ……」  初代イスラが吐き捨てた。  でもそれは照れ隠しにも見えて、それに気付いてデルバートは口元だけで笑う。  初代イスラは無愛想な顔でデルバートを見据えた。 「デルバート、話しはここまでだ。とりあえず今は祈り石を破壊する」 「同感だ」  初代イスラとデルバートも魔力を高め、ハウスト達の封殺魔法陣に魔力を重ねる。  初代イスラにとって先ほどの話しは馬鹿げた夢物語だ。はっきりいってあり得ない。  でもその馬鹿げた夢物語の結末を知るためにも、今、祈り石を破壊しなければならなかった。 ◆◆◆◆◆◆  私は抱っこ紐でクロードを抱っこし、レオノーラと一緒に上空にいました。  私たちを乗せた巨大な鷹が翼を広げて海上を旋回します。  荒れた大海原にぽっかり空洞が空いている。その奥底にハウストたちはいました。祈り石を破壊する為に追ったのです。  レオノーラが不安そうに穴を見下ろしました。 「皆さんは大丈夫でしょうか……」 「大丈夫です。あそこで戦っているのは私とレオノーラ様の時代の特別な王たちなんですから」  私はレオノーラを励まして一緒に穴を見下ろします。  時おり、空洞の奥底から爆発を伴なった光が見えています。凄まじい轟音が聞こえて、奥底では強大な力が発動していることが分かりました。 「今、祈り石はどこまで降りたのでしょうか……」  戦闘はまだ続いているようでした。  海溝の底に到達して穴が空けば、星の核から膨大なエネルギーが溢れだします。そうすれば急激な地殻変動が起こって星は破壊されてしまうでしょう。  その時、ピカッ、ドオオオオオオオオオン!! 「わあっ!」 「ブレイラ様!」  海全体に強烈な稲光が走り、大気を震撼させるほどの轟音が響きました。  衝撃波に吹き飛ばされそうになるも鷹が大きな翼を広げて凌いでくれます。 「守ってくれてありがとうございます」  衝撃波が過ぎ去って、私は鷹の背を撫でてあげました。  でも先ほどの力に不安が大きくなる。  ハウスト、あなたはとても、とても大きな力を使っているのですね。  でも姿が見えないままで、私のところに帰ってきてくれません。それは祈り石の破壊がとても困難だということ。  考えたくない想像に血の気が引いていく。

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