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第十一章・星の神話20

「イスラ様、デルバート様、オルクヘルム様、リースベット様、私が祈り石となって星の杭となったなら、どうか強力な結界で封じてください。私という杭が朽ちて砕けてしまわないように」 「俺にお前を封じろと言うのかっ」  デルバートが激昂した。  しかしレオノーラは淡々と続ける。 「噴きだした星のエネルギーは私一つの祈り石だけで塞ぎきれるものではありません。私一人なら千年ももたないでしょう」  いくら祈り石が奇跡の石とはいえ、しょせんこの世界で作られた人工物でしかない。  星そのものである星のエネルギーを永遠に抑えきるのは不可能だった。でも願わくば、繋がってほしい時代がある。 「それでは困るのです。だって、たった千年ではブレイラ様たちの時代に届きません。私の力が尽きるまで、どうか杭を結界で封じてください」  願わくば、ブレイラたちのいる十万年後の世界まで。  叶うなら、ブレイラたちが寿命を迎えて世を去るまで。  そこまで考えてレオノーラは小さく笑む。ブレイラはきっと後世の平穏を祈るのだろう、ならばその後世までずっと。いっそのこと星のエネルギーが尽きて、星が自然な寿命を迎えるその時まで。  静かな面差しのままのレオノーラに、リースベットが複雑な顔で問う。 「……それが願いか?」 「はい、心からの」 「そうか……。ならば、我らもそれに応えよう」 「感謝いたします」  レオノーラは深々と頭を下げた。  そんなレオノーラにリースベットは首を横に振る。 「…………許せ、我らの力が足りぬばかりに」 「どうか嘆かないでください。悔いないでください。十万年後の未来では王は民の保護者なのだと聞きました。だから夢を見ることができます。私の夢は王たちにとって勝手な夢かもしれません。しかしそれは深海で星の杭となった私を慰めるでしょう」  レオノーラはそう言って微笑む。  ピシッピシピシッ……!  防壁魔法陣の亀裂が広がりだす。  もうすぐ限界が訪れる。その中でレオノーラの手中にあった祈り石の欠片が輝きだした。  輝きに応えるようにレオノーラの体が光を纏いだす。  融合が始まったのだ。  光のなかでレオノーラは四人の王を見つめる。 「皆さまのご武運を祈ります。四人の王に祝福と御加護を」  レオノーラは最後に四人の王のために祈り、そして祝福と加護を与えた。  これから結界を守っていく四人の王を神格の存在としたのだ。  世界に祝福を。どうかずっと、ずっと繋がっていくように。  祈り石の輝きが増して、レオノーラの足元に光の魔法陣が出現した。  でも、――――パリーーン!!!! とうとう防壁魔法陣が破られた。  ドドドドドドドドドドドッ……!!  海底の亀裂から震動が駆けあがってくる。止められていた膨大なエネルギーが爆発的な勢いで上昇してきたのだ。  亀裂からエネルギーが噴出する刹那。 「さようなら。どうかお元気で」  レオノーラがふっと消える。  亀裂に身を投じたレオノーラ。瞬間、――――パアアアアアアアア!!!!  亀裂から強烈な光が放たれた。  祈り石の神々しい光。そう、レオノーラの光だった。 「レオノーラ!! レオノーラ!!!!」 「レオノーラ……!!」  デルバートと初代イスラが駆けだした。  しかし光に埋もれてレオノーラの姿はもう見えない。見えないのだ……。  間もなくしてエネルギーの上昇が停止し、深海は静寂を取り戻す。  レオノーラと引き替えに星は守られたのである。  でも。 「っ、レオノーラっ……! っう、うあああああああああああ!!!!」  初代イスラは絶叫して膝から崩れ落ちた。  がくりっと深く項垂れて、カタカタと小刻みに震える体を抱きしめる。  心臓が痛い。ぎりぎりと引き千切られているかのように。 「ぐぅッ、レオノーラ……! レオノーラっ……!」  いない。もういないのだ。  レオノーラは海底の更に底へと消えてしまった。  瞳からはとめどなく涙が溢れて地面にポタポタと落ちる。 「……なにが王だ! なにが勇者だ! 弱いからだっ、俺が弱いからっ……!!」 「クソガキ勇者だけのせいじゃねぇよ。……俺たちだってなにも出来なかった」  オルクヘルムが苦々しい顔で言った。  四人の王が揃いながらなにも出来なかった。誰もがその事実に打ちのめされる。  同族の中でもひときわ強く特別な存在だった四人は『王』を名乗った。しかし王と名乗りながらレオノーラを犠牲にしなければ星を守れなかったのだ。 「俺たちがすべきことはまだ残っている」  ふとデルバートが言った。  初代イスラが睨み上げる。 「……本気で封印するつもりか?」 「レオノーラの望みだ」  デルバートが厳しい顔で言い放った。  初代イスラは怒鳴り返そうとして、……奥歯を噛みしめて黙りこむ。  ここで怒りを撒き散らすほど我を失っていない。  レオノーラがなんの為に祈り石になったのか、四人の王になにを望んでいるのか。レオノーラが最後に四人の王に与えたのはそのための祈りと祝福だった。  結界を。この場所に誰も近づけぬように、災いがもたらされぬように。レオノーラを封じ、守るための結界を。  初代イスラはゆっくり立ち上がった。  そして四人の王が対峙する。  デルバートが他の王たちを見て淡々と言う。 「封印の結界……。今日より世界は四つに分かたれる。もう貴様らと会うことはないだろう」 「なるほど、あいつらの言ってた四界ってやつか」  そう言ってオルクヘルムが鼻を鳴らす。  こんな形で身をもって知ることになるとは思わなかった。  今から発動する結界、それは星の杭となった祈り石を封じるためのもの。  王の命を削る強固な結界は世界を四つに分けるだろう。 「長きに渡る四界大戦の終結がこのようなものとはな……」  リースベットが苦笑した。  デルバートは頷くと初代イスラ、オルクヘルム、リースベットを順に見た。そして真剣な面差しで朗々と言い放つ。 「星の杭となった祈り石を封じる!! この場所を忘れぬように!! 千年先、万年先、星の杭が朽ちて砕けてしまわぬように!!」  それは結界の宣誓だった。  四人の足元に魔法陣が出現し、強力な魔力の威風に空に向かって渦ができる。  レオノーラの沈んだ場所を中心にして海に巨大な渦が出現した。祈り石の上に結界という頑強な楔を打たねばならない。  四人の王の魔力が上昇する。  生命を削るほどの膨大な魔力に大気がびりびりと震動し、海域一帯が高い白波で荒れだした。  王たちの顔が険しいものになっていく。魔力と生命力を削るそれに今にも膝を屈しそうだった。  本来なら干からびて即死しているだろう。しかしそうならないのは四人の王が祝福を受けているから。神格の存在たる四人の王は加護されていた。 「なんだかんだで楽しかったぜ」とオルクヘルム。 「ああ、さらばじゃ」とリースベット。 「ではな」とデルバート。 「……じゃあな」と初代イスラ。  四人の王がそう告げた、次の瞬間。  ギイイィィィィィィィィン!!!!  王たちから結界が放たれた。  四つの結界は光よりも早く星を周回する。  結界を引かれた衝撃波が星全体に駆け巡り、海が裂け、山脈が崩落し、谷は埋もれ、川は流れを変え、大地が隆起しながら地形を変える。  それは星全体を揺るがす大激動。  大激動に飲まれて孤島が海に沈みだす。魔力無しの人間が逃げ落ちて怨嗟のまま祈り石を造った孤島である。  孤島が沈む様は、まるでレオノーラが怨嗟ごと深い海の底へいざなっているかのようだった。  こうして、世界を四つに分かつ大激動は七日七晩続いた。  そして八日目の朝。  そこにあったのは結界によって四つに区切られた世界。  魔界、人間界、精霊界、幻想界。これこそが四界である。  各世界は神格の存在である王を冠し、大激動の混乱を乗り越えて徐々に安定していった。  そう、四界大戦は世界が四つに分かれたことで終結を迎え、四界は隔たれた世界でそれぞれの歴史を刻みだしたのだ。 ◆◆◆◆◆◆

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