214 / 262

第十二章・三兄弟のママは神話を魔王様と12

「イスラ、ゼロス、クロード、これはレオノーラ様の欠片、レオノーラ様の祈り石です。初代時代から今も星を守っている石の欠片です。どうか大切にしてください」  私は静かにそう言うとペンダントを一つ手に取りました。  まずイスラへ。ゆっくりとイスラの首にかけてあげます。 「イスラ、どうぞ受け取ってください。あなたが守られますように」 「ありがとう。大切にする」  イスラは首にかけた祈り石を手に取り、誓うように口付けました。  この子は祈り石の意味を分かっているのです。 「イスラ、あなたはもう大人です。たくさん経験をして、たくさん考えて、自分の力で乗り越えていくのでしょう。あなた自身も自分がその力を持っていることを知っています。あなたは何者にも屈しない歴代最強の勇者になる王なのですから」  イスラをまっすぐ見つめて言いました。  初代時代でイスラはまた一つ大きく成長しました。あなたは優しく勇敢で私の誇り。私の愛するイスラです。だから伝えたい。 「でもね、覚えておいてください。私はいつもあなたを思っています。私は何があってもあなたの味方です」 「ああ、光栄だ」  イスラは頷くと私に手を差しだします。  その手に手を乗せると恭しく口付けてくれました。  一つ一つの仕種が様になっていますね。あなたがもう子どもではないのだと思い知らされます。  私は小箱から二つ目のペンダントを取りました。 「ゼロス、こちらへ」 「はいっ!」  ゼロスはお利口な返事をすると、ソファを降りて私の前に来てくれます。  しかも背筋をピンッと伸ばして真剣なお顔。  この子はまだ三歳なのですべてを理解できているわけではないけれど、それでもこれがどういうものか分かっているのです。  私はゆっくりとゼロスの首にかけてあげます。 「ゼロス、どうぞ受け取ってください。あなたが守られますように」 「どうもありがとう! たいせつにします!」  ゼロスは首にかけた祈り石を手に取ったかと思うと……。 「チュッ」  可愛らしい音をたてて口付けてくれました。  これは誓いの口付けですね。  なんて可愛い誓いでしょう。イスラを真似たようです。  いい子いい子と頭を撫でてあげるとゼロスは誇らしげ。 「ぼくのちゅーかっこよかった?」 「かっこよかったですよ」 「これぼくのたからものだから、ぼくもちゅーしたくなったの」  ゼロスはペンダントを大事そうに握りしめました。  でもふと眉が八の字になってしまう。 「どうしました?」 「……おともだちのおさかなさん、どうしてるかなって。げんきかなって」 「洞窟にいた小さなお魚のことですね」 「うん。またあそぼうねっていったのに、もうどこにいるかわかんないの。……ぼく、よんでるのに、まいごになっちゃったのかな……」  そう言ってゼロスは視線を落としました。  あの初代時代の洞窟でゼロスとクロードは小さな魚とお友達になりました。お友達の存在に二人の心は救われたことでしょう。  帰ってきてからもゼロスは何度も召喚しようとしたようです。でもあの小魚と同じ気配を感じられなくて呼べなかったのですね。  でもねゼロス、きっとあなたのお友達は……。 「ゼロス、あのお友達は迷子になったわけではありませんよ」  そう言ってゼロスの小さな肩にそっと手を置きました。  ゼロスがおずおずと私を見つめます。 「そうなの?」 「あなたのお友達は元気です」 「ほんと!?」 「はい、あなたはもう一緒に遊んでいますよ」 「えええっ、そうだったの~!?」  ゼロスのびっくり顔。  大きな瞳をまん丸にしています。 「ふふふ、そうですよ。また会いに行きましょうね」  そう言ってゼロスに笑いかけました。  ゼロスはいまいち意味が分かっていないようですが、いいのです。今はいいのです。こうして私の側で元気でいてくれるだけでいいのです。 「ゼロス」 「なあに?」 「私たちがいない間、あなたはクロードと一緒に多くの困難を乗り越えてくれました。あなたはたくさん傷ついてしまったけれど、私に会うことを諦めないでいてくれました」 「うん、ブレイラにあいたかったの。ちちうえとブレイラとあにうえとクロードと、みんなでおうちにかえりたかったの」 「私もあなたに会いたかったです。会いたくてずっと探していました」  私はしゃがんでゼロスと目線を合わせます。  ゼロスの小さな胸にそっと手の平をあてました。  初代時代でこの小さな胸はどれだけ傷ついたでしょうか。どれだけの寂しさと悲しさを抱えたでしょうか。 「ゼロス、よく聞きなさい。オルクヘルム様やレオノーラ様たちのことを忘れてはいけませんよ。あなたが何を見て、何を考えたのか、今の気持ちを忘れてはいけません。まだ意味が分からないかもしれません。答えも出ないかもしれません。でも今はあなたの胸にとどめておくのです。いいですね?」 「はいっ」 「良いお返事です。強くなりましたね、ゼロス」  私は頷いて優しく笑いかけました。  ゼロスへの贈り物を終えてゆっくり立ち上がり、次は小箱から三つ目のペンダントを取りました。  もちろん次はクロードです。  クロードも自分の順番がきたと察知したようで、イスラの膝に座ったまま両手を伸ばしてきます。 「あうー! あい~っ、あー!」  必死にペンダントに手を伸ばすクロードに苦笑してしまう。  今にも転がり落ちてしまいそうでイスラが捕まえてくれています。 「クロード、分かったからちょっと落ち着け」 「ぶーっ、あーあー!」 「ふふふ、クロードは以前からイスラやゼロスのペンダントに興味を持っていましたからね」  私は膝をついてクロードの目線に合わせます。  優しく笑いかけてクロードの首にペンダントをかけてあげました。 「クロード、どうぞ受け取ってください。あなたが守られますように」 「あいっ!」  パチパチパチ! クロードは拍手してお返事してくれました。  ようやく自分のペンダントができて満足しているようです。  クロードはペンダントを手に取るとじーっと見つめます。  どうするのかと私も見ていると。 「…………。あーん」 「わあっ、いけませんっ。クロード、食べ物じゃないんです!」 「あう?」 「あう? ではありませんよ。ふふふ、仕方ないですね」  赤ちゃんですからね、仕方ないですね。  私は小さく笑ってペンダントの鎖を短くしました。  これならクロードの口には届きません。  クロードの前髪を指で斜めに梳いて、そのまま丸いほっぺをひと撫でします。 「兄上たちとお揃いのペンダントです。よく似合っていますね」 「ばぶっ。あうー、あーあー」  なにやらおしゃべりしてくれます。  まだ赤ちゃんなのでなにをお話ししているか分かりませんが、一生懸命おしゃべりする姿が可愛くていつまでも見ていたくなります。  でも今は一番大切なことだけ伝えます。 「クロード、あなたを愛していますよ」 「あいっ!」  クロードが大きく返事をしてくれました。  赤ちゃんなので分かっているのかいないのか分かりませんが、それでもステキなお返事をありがとうございます。あなたをいつも思っています。  こうして三兄弟へ祈り石のペンダントを送りました。  そして最後はハウストです。  私はゆっくり立ち上がり、小箱から指輪を手に取りました。これは私たちにとって婚礼の指輪です。

ともだちにシェアしよう!