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番外編①「どうしてちちうえとブレイラはぼくにダメっていうの?」3

「ぼく、おしろのおさんぽはもうたくさんしたの」 「だからってここに来るな」 「あにうえはおでかけだっていうし……」 「おい聞いているのか」 「ぼくも、あにうえといっしょのとこにいきたいなあ」 「一緒のところだと?」 「ブレイラが、あにうえはおともだちのおみせにいったって」 「ああ、酒場のことか」 「うん。ぼくもいきたいなあ」  チラッ。ゼロスがハウストを見た。 「ちちうえもいったことがあるんでしょ? ぼくもいきたいなあ」  チラッ、チラッ。ゼロスがハウストを見た。  ハウストは目を逸らす。ここで目を合わすわけにはいかない。 「ぼく、じょうずにごあいさつできるんだけどなあ」  チラッ、チラッ、チラッ。ゼロスがしつこくハウストを見た。  ハウストも頑なに目を合わさない。目を合わすと面倒くさくなるのだ。 「さかばのてんしゅさん、ぼくにもあいたいんじゃないかなあ」 「てんしゅさんも、ぼくをまってるとおもうんだけどなあ」 「ぼく、さかばでいいこにできるんだけどなあ」 「ちょっとでいいんだけどなあ」 「つれてってくれると、ぼくうれしいんだけどなあ」 「つれてってくれたら、おかたづけがんばれるんだけどなあ」 「おべんきょうもたくさんしちゃうんだけどなあ」  …………。  ………………。  ……………………。 「もうっ、ちちうえきいてるの!?」  とうとうゼロスがキレた。  立ち上がって床をダンダン踏む。怒りの地団駄だ。 「ぼくもつれてってっていってるでしょ!」  騒ぎだしたゼロスにハウストはやれやれとため息をつく。 「バカをいうな」 「おべんきょうがんばってるもん!」 「……そういうことじゃない。ブレイラにも駄目だと言われたんだろ」 「そ、そうだけど~……」  ブレイラの名前を出されると弱い。  勢いが削がれて今度はいじけてしまう。 「……どうしてちちうえとブレイラはぼくにダメっていうの? ぼくつよいのに。めいおうさまなのに」 「まだ子どもだろ。三歳がなにを言っている」 「さんさいはいっちゃダメなの?」 「そういうことだ」  ハウストはきっぱり答えた。  本音を言えばハウストは昼間なら構わないと思っている。イスラが行きつけにしている酒場は昼間はただの食堂だ。だがブレイラが駄目だと言っている。ならば駄目なのだ。許可はできない。 「もういいだろ。そろそろ散歩の続きをしてこい」 「おさんぽのきゅうけいちゅうなのに?」 「休憩は終わりだ。俺は今から会議に行ってくる」 「…………はーい」  ゼロスは渋々ながら返事をした。  今から会議なら仕方ない。  ゼロスはクロードを抱っこしてまたおもちゃ箱に入れてあげた。 「じゃあね、ちちうえ。かいぎがんばってね」 「ばぶぶっ」  ゼロスはクロード入りのおもちゃ箱を押して執務室の扉に向かう。  立ち去るゼロスをハウストは見送ったが。 「ちょっと待てゼロス」 「なあに?」 「分かっていると思うが酒場へ行くなよ? 子どもは立入禁止だ。いいな?」  ハウストはしっかり念を押した。  念を押したのはハウストの先回りした危険回避である。ハウストは父上として自分の子どもの性格が分かっているのだ。 「いいな、分かっているな?」 「わかってるもん!」 「本当だろうな」 「ほんと!」  ゼロスはムッとして言い返すとクロードとともに執務室を出た。  立ち去る幼い二人にハウストは嫌な予感を覚えたが、会議が開かれる広間へ向かったのだった。  お散歩をしていたゼロスとクロードは部屋に帰ってきていた。ゼロスの部屋である。  仕方ないのでここで遊ぶことにしたのだ。 「クロード、ぼくがえほんよんであげるね」 「あいっ」 「うーん、なんにしようかなあ」  ゼロスは本棚から絵本を探す。  クロードは感動系の泣ける絵本が好きなのでそういうのを読んであげたいけれど、ゼロスの部屋には動物の絵本が多いのだ。 「うーん、こっちかな? こっちかな?」  ゼロスはゴソゴソ探していたが、カシャン!  棚に置いていた小箱が落下して中身が飛び出てしまう。  どんぐり、木の実、花びら、綺麗な小石、なにかの蓋、壊れた小さなおもちゃ、他にも細かなガラクタである。 「ああっ、ぼくのたからばこおとしちゃった」  そう、それはゼロスの宝箱。大切なものを入れておく小箱だ。  大人が見ればガラクタだがゼロスにとっては大切な宝物なのだ。  ゼロスは散らばった宝物を片付けていたが、ふと手が止まる。 「あ! これあにうえのおみやげだ!」  ゼロスが見つけたのはイスラからのお土産にラッピングされていた包装紙だった。  しかもそのお土産はゼロスにとって特別なお土産。それというのもイスラの友達の酒場のお土産なのである。  以前、酒場でパーティーがあった。ゼロスもお呼ばれされたと思って楽しみにしていたのに、なんとゼロスはお呼ばれしていなかったのである。パーティーに呼ばれていたのはイスラだけだったのだ。ショックを受けたゼロスは大いに嘆き、その日はクロードを巻き込んでイスラの部屋で勝手にパーティーをしていたのである。  しかしイスラはゼロスのことを忘れていなかった。酒場の店主に頼んでお土産のお菓子を用意してくれたのである。そのお菓子をラッピングしていたのがこの包装紙というわけだ。 「クロードほらみて! あにうえのおともだちが『ゼロスへ』ってくれたおみやげ!」  お土産は家族全員分あったのだがゼロスは店主が自分の為に用意してくれたと思い込んでいる。  感激したゼロスは包装紙を綺麗に折りたたんで宝箱に入れておいたのだ。 「あう? あー」 「ああダメダメ、ぐちゃぐちゃにしちゃダメ! これはぼくのたからものなの!」  ゼロスは慌てて遠ざけた。  ゼロスはまた宝箱に片付けようとしたが。 「…………これで、てんしゅさんのさかばにいけないかな」  気付いてしまった。  この包装紙には店名らしき文字が印字されている。これを使って酒場に行けないだろうか……。 「えーっと、……わ、い、る、ど、はーと。わいるどはーと! てんしゅさんのおみせ、わいるどはーとっていうんだ!」  ゼロスは印字されていた文字を読んだ。 『ワイルドハート』  イスラが行きつけにしている酒場の店名である。ゼロスは三歳だがお城でお勉強を頑張っているので文字が読めるのだ。 「クロード、てんしゅさんのおみせ『わいるどはーと』だって! わいるどってなあに?」 「あう?」 「あかちゃんだもんね、わかんないよね。よくわかんないけどかっこいいおなまえ! だいじょうぶ、ぼくおぼえたからいける!」  ゼロスは意気込んだ。  店名は分かった。ならばきっと辿りつくはず、さっそくお出かけの準備だ。  ハウストに散々念を押されていたが、そんなことは忘れた。行きたいものは行きたいのである。冥王の歩みを止めることは誰にもできないのだ。  肩掛けバッグにおやつとおもちゃと包装紙を詰め込む。そんなゼロスの様子にクロードもハイハイでおんぶ紐を引きずってきた。お出かけを察知したのだ。 「あいっ」 「うん、いっしょにいこ! クロードのおむつとミルクももっていこうね!」 「あいっ。ばぶぶっ!」  自分のお出かけグッズを詰め込んでもらってクロードも満足だ。  こうしてゼロスとクロードは酒場を目指して出発したのだった。

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