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番外編①「どうしてちちうえとブレイラはぼくにダメっていうの?」5
「ブレイラッ!」
バタンッ!!
勢いよく扉を開けると目の前にはブレイラが立っていた。
立ち去っていなかったブレイラにハウストはほっとする。
だが安心するのはまだ早い。ブレイラは拗ねた顔をしていたのだ。
「……私、お邪魔だったんですね」
「誤解だ、そうじゃない! ブレイラに言ったわけじゃないんだ!」
必死に弁解するハウスト。
ブレイラは拗ねた顔で視線を横に流し、恨みがましげな声をつくって訴える。
「…………びっくりしたんです。あなた、恐い声で邪魔だなんて言うから」
「びっくりさせて悪かった。さっきのは俺が悪い。お前を邪魔だなんて思ったことはない」
俺が悪かったと繰り返すハウスト。
ブレイラは横に流していた視線を正面のハウストへ。
今度はハウストを見つめたまま訴える。
「……あなたに追い出されたみたいで、私、ショックで……」
「そうだな、俺は酷いことをした。許して欲しい」
「私、しつこかったんですね……。あなたに嫌われてしまいますか?」
「お前にならしつこくされたい。俺にとって喜びだ」
ハウストは真剣な面差しでブレイラを見つめた。
間近にハウストの視線を感じたブレイラの頬が徐々に赤くなる。でもまだ拗ねた顔を作って、ハウストへゆっくり手を伸ばす。
ブレイラの指がハウストの屈強な胸板に『の』の字を描き、頬を赤らめて甘えを帯びた視線と口調で訴える。
「反省、しました?」
「した。心から反省した」
ハウストがブレイラの手をぎゅっと握りしめた。
…………もはや完全に雰囲気は変わっていた。ただのイチャイチャだ。
生真面目なタイプのブレイラだがハウストをとても愛しているのである。甘い雰囲気になれば思わず流されてしまうこともあるのだ。
もしここにフェリクトールがいれば青筋を浮かべて『魔王が情けないとは思わないのか!』と激怒していただろう。だが現在精霊界に出張中なので誰にも止められない。
「それじゃあ、責任とってくれます?」
「お前の責任を取れるなんて光栄だ」
ハウストが握りしめていたブレイラの手を持ち上げて唇を寄せた。
このままいい雰囲気になる二人だったが、コレットが横からこそこそと指摘する。
「…………ブレイラ様、ゼロス様とクロード様が」
「っ、そうでした! 私たちこんなことしてる場合じゃないんですよ!」
ブレイラはハッとして声をあげた。
ブレイラはハウストを愛しているが三兄弟もとっても愛しているのである。うっかり忘れていたが今はこんなことをしている場合ではない!
「ハウスト、大変なんです! ゼロスとクロードが城の外へ出てしまいました!」
「なんだと?」
「おそらく、歓楽区の酒場に行ってしまったんじゃないかと……」
「やっぱりそうか」
ハウストは天井を仰いだ。
嫌な予感はしていたのだ。
「ハウストは分かっていたんですか?」
「ゼロスが酒場の話しをしていた。我慢していたが限界が近そうだったからな」
「あの子、ハウストのところでも酒場の話しをしていたんですね」
「しつこかったぞ」
「ああ、想像できます……」
二人の予想通りゼロスは勝手に酒場に行ってしまった。いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていたのだ。
ハウストとブレイラは親として息子たちの性格は把握しているつもりである。
特に次男のゼロスは甘えん坊のやんちゃさん。寂しがりなところがあるので、自分だけ行ったことがないのが嫌だったのだろう。
「ちょっとワガママなところがありますからね」
困ったものです……とブレイラは頬に手を当ててため息をついた。
ハウストの方は「ちょっと?」と首を傾げていたが、もちろんブレイラの耳には届いていない。
甘えん坊のワガママはブレイラにとって可愛いものなのだ。
だが、すべてのワガママを許すような教育はしていない。
「このまま放っておくわけにはいきません。今から迎えに行こうと思うんですが」
「もちろん俺も行こう」
ハウストが当然のように答えた。
それはブレイラにとって嬉しいものだったが、同時に申し訳なさも覚えてしまう。
「ありがとうございます。でもいいんですか? あなたはお仕事中なのに……」
「大丈夫だ、急ぎの仕事は終わっている。あとは明日に回しても問題ない」
「そうなんですね、安心しました。あなたも来てくれて嬉しいです。店主様のお店は初めてではありませんが歓楽区はやっぱり緊張しますから」
「お前を一人で行かせるわけないだろ」
「ありがとうございます。…………まるでデートみたいですね」
「ああ、デートだな」
「ふふふ」
予定外の外出に思わず浮かれる二人。
もしここにフェリクトールがいれば激怒して説教が始まっていただろうが、幸か不幸かここに彼はいない。それは誰も止める者はいないということ。
こうしてハウストとブレイラはゼロスとクロードを追いかけて街へ繰り出すことになったのだった。
「わああっ、まちだ~~!」
「ばぶぶ~っ」
ゼロスはクロードをおんぶして街に繰り出していた。
いつもは城を出ると裏山で遊んでいるゼロスだが、今日は初めて王都の街を訪れたのだ。
「すごーい! ひとがいっぱい!」
「あうあ~!」
ゼロスとクロードは感激していた。
大きな都や街は初めてではないが、いつも城から眺めているだけだったり、馬車で通り過ぎるだけだったり、視察するブレイラに付いてきているだけだったり……。自由に王都の街を散策したことはなかったのだ。
「あ、そうだ。まりょくちっちゃくしとかないと」
ゼロスは魔力を制御して一般の魔族に紛れられるようにした。
ゼロスは自分が冥王であることも規格外の力を持っていることも自覚している。
『大きな力は上手に使いましょう』
ブレイラにそう言われているのだ。
街には魔族でも小さな魔力の一般人がたくさんいるので、ブレイラに接する時のように優しく優しく力加減だ。
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