222 / 262

番外編①「どうしてちちうえとブレイラはぼくにダメっていうの?」6

「よしっ、てんしゅさんのおみせさがそ! あにうえもそこにいるはず!」  ゼロスの予定では王都のどこかにあるワイルドハートへ行き、そこにいるはずの兄上をびっくりさせるのだ。  突然ゼロスとクロードが現われたら兄上はびっくりするはずである。 「たのしみだなあ~。ね、クロード?」 「あいっ!」  おんぶのクロードも短い手足をバタバタさせて返事をした。  クロードも街に出てきて興奮しているのだ。  ゼロスは大通りを行き交う人々を見回し、誰かに店の場所を訪ねることにした。分からないことがあったら自分で調べたり聞いたりしましょうねとブレイラに教えられているのだ。ゼロスはブレイラの教えを忘れないいい子である。 「こんにちは!」 「あら可愛いっ。こんにちは」  ゼロスが話しかけたのは買い物中のお姉さんだった。 「ねえねえ、おしえてほしいことがあるんだけど」 「なにかしら?」 「わいるどはーとってしってる? おみせなんだけど」 「うーん、聞いたことないわね。どんなおみせ?」 「さかばなの」 「えっ、酒場? 酒場へ行きたいの?」  お姉さんは驚いてゼロスとクロードを見た。  どう見ても二人は幼児と赤ちゃんで、本来なら酒場に立ち入れるような年齢ではない。  お姉さんは注意深くなる。場合によっては保護して街の警備所へ連れていかなければならない。 「どうして酒場に行きたいの? なにか事情でもあるのかな?」 「あのね、あにうえがいるの」 「お兄さんを探してるのね」 「うん。あにうえ、さかばであそんでる」 「え、お兄さんは遊び人なの? こんな小さな弟がいるのにっ」 「あそんでる。いっぱいあそんでる。ぼくたちはいつもおるすばんしてる」 「えっ、かわいそうっ……!」 「ほんとうはきょうもおるすばんだったの。でも、あにうえとおなじとこいきたくて。……あ、クロードおなかすいたの? ちょっとまって」  ゼロスはおしゃべりを中断すると、肩に斜めにかけている鞄から菓子パンを出した。  急いで詰め込んできたのでぺちゃんこになっているがブレイラ手製の赤ちゃん用お菓子である。城を出る前に半分食べたので残り少ないがクロードお気に入りの菓子パンだった。 「クロード、どうぞ。クロードこれすきでしょ?」 「あいっ。むにゃむにゃ」  クロードはぺちゃんこの菓子パンを受け取ってむにゃむにゃ食べ始めた。  だがそんな幼い兄弟の光景にお姉さんの心は締め付けられる。なぜなら。 「ッ、あんなぺちゃんこの薄そうなお菓子を赤ちゃんにっ……。もっと、もっとおいしいものを食べさせてあげたい……!」  そう、それは切ない光景に見えていた。  ブレイラ手製の赤ちゃん用お菓子の見た目はすっきりしたシンプルなものであるが、逆をいえば全体的に薄くて貧相に見えるのである。しかも今はぺちゃんこだ。  それを三歳の幼児がおんぶした赤ちゃんに食べさせている。  しかも。 「ミルクはあにうえのとこにいってからね」 「あいっ。むにゃむにゃ」 「うっ、赤ちゃんがミルクを、ミルクを我慢してるっていうの? こんなお腹を空かせた可愛い赤ちゃんが、ミルクを我慢してお兄さんを探してっ……。幼い兄弟二人でさまよってっ……。なんて健気なっ……。うぅっ」  お姉さんは涙ぐんだ。  幼い二人の畳みかけるような切ないやり取りに、今やお姉さんの胸は張り裂けそうである。 「そこの市場のおじさんに聞いてきてあげるから待っててね。もしかしたら知っているかもしれないし」 「うん! おねがいします!」  きちんとお願いできるゼロスにお姉さんは「なんていい子なのっ」と感動しながら市場に向かった。  お姉さんは市場で露天商のおじさんに説明している。するとおじさんはゼロスとクロードを遠目で見ながら涙ぐみ、紙になにやら書いてお姉さんに渡した。間もなくしてお姉さんが戻ってくる。 「お待たせ。あのおじさんが分かりやすい地図を書いてくれたから、これで店に行けるわよ」 「ほんと!? やった~! どうもありがとう!」 「一緒に行ってあげたいけどもう帰らなくちゃいけないの。ごめんね?」 「ううん、だいじょうぶ! ぼく、ちゃんとできるから!」 「賢いのね、これおじさんから頑張っている君たちにプレゼントだって」 「わああっ、リンゴだ~!」  ゼロスとクロードはお姉さんからリンゴを受け取った。クロードのリンゴは赤ちゃんでも食べられるように小さく切ってくれてある。  ゼロスはおじさんに向かって大きく手を振る。 「おじさん、どうもありがと~!」 「がんばれよっ、強く生きるんだぞ!」  おじさんが涙ぐんで手を振ってくれた。  よく分からないけれどとても応援されているようだ。  こうしてゼロスとクロードは親切なおじさんとお姉さんに見送られて歩きだしたのだった。 「えーと、ここをまっすぐあるいて、こっちのおっきなみちをとおって……」  ゼロスは地図を見ながら歩いていた。  ゼロスはまだ三歳だがお城でお勉強を頑張っているので簡単な地図なら読めるのだ。  リンゴもくれて分かりやすい地図も書いてくれて親切なおじさんだった。リンゴもとってもおいしかった。気分はとってもいい感じ。 「あぶあー、あー」  おんぶしているクロードも指を差してなにやらおしゃべり。  クロードなりに地図を読んで道を考えているようだ。 「クロードはこっちだとおもうの?」 「あいっ」 「えー、でもちずはこっちってかいてあるのに?」 「あう~っ」  下唇を噛みしめるクロード。  落ち込むクロードをゼロスは励ましてあげる。 「げんきだして。クロードがおっきくなったら、ちずのよみかたおしえてあげるね。ぼく、おべんきょうしてるからわかるの」 「あいっ」  二人はおしゃべりしながら賑やかな大通りを歩く。  石造りの美しい街並みと、そこを笑顔で行き交う馬車や人々。ずっと眺めていても飽きないくらいだ。  楽しくなったゼロスはきょろきょろしながら歩いていたが、ふと気付く。 「あれなんだろう。ひとがいっぱいいる」  通りに人だかりができていた。  人だかりからは怒声や歓声が上がっていてとても盛り上がっているようだ。

ともだちにシェアしよう!