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番外編①「どうしてちちうえとブレイラはぼくにダメっていうの?」7

「いってみよっか」 「あいっ」  ゼロスとクロードも人だかりに足を向けた。  しかし大人たちが人垣になってよく見えない。仕方ないので道脇に置いてあった樽を運んでくると上に登った。 「なにしてるんだろ。あ、みえた!」  人だかりの中心にはテーブルがあった。  テーブルでは二人の男が対峙している。どうやらカードゲームをしているようだ。  でもゼロスは首を傾げてしまう。  ゲームをして遊んでいるのに一人は泣きそうな悔しそうな顔でプルプル震えている。もう一人は嘲笑するようなニヤニヤ顔で男を見ている。男の後ろには仲間らしき男たちもニヤニヤしながら見守っていた。どうしてだろうか、ゲームなのにゼロスはとっても嫌な気持ちになったのである。 「へんなの~」  ゼロスも兄上と遊んで負けそうになると悔しいけれど、でも嫌な気持ちにはならない。負けそうになっても楽しくてもっと兄上と遊びたくなるのだ。  それなのに負けそうになっている男は「もうやめてくれ。助けてくれっ……」と震える声で繰り返していたのだから。  観衆も気の毒そうに負けている男を見ている。 「可哀想に、完全にカモにされちまった」 「ああ、酷いもんだぜ。全財産巻き上げる気だ。最近結婚したばっかりだってのに、可哀想に」 「オレ、あいつらの噂を聞いたことある。流れの賭博師グループだ。まさか王都に来てたなんてな……」 「ほんとか? それヤバいだろ」 「ああ、このグループはプロの賭博師集団だ。各地の賭博場で金を巻き上げてるって聞いたぜ」 「うわっ、そんな奴らのカモになっちまったなんて悲惨だな」  観衆が噂話をしている。  だが無情にもゲームは続いて賭博師が被害者の男を追い詰めていく。 「次は俺の番だ。好きなカードを引かせてもらうぜ」  そう言って賭博師が裏向きに伏せた五枚のカードから一枚選ぶ。カードの答えは大正解。 「ハハッ、悪いな。また俺の勝ちだ」 「っ~、どうして勝てねぇんだっ……!」  またしても賭博師が勝利した、が。 「ああ~っ! ダメっ、ズルした! そっちのひと、ちがうカードといれかえてた!!」  ゼロスが声をあげた。  観衆が驚いてゼロスに注目する。  ゼロスは樽から飛び降りるとプンプンしながら真ん中のテーブルに向かった。 「おじさんダメでしょ! どうしてそんなことするの! ゲームでズルいことしたら、たのしいのなくなっちゃうのに!」 「あぶぶっ、ばぶーっ!」  クロードも一緒になってプンプンしている。赤ちゃんなのでよく分かっていないがクロードは怒りん坊なのである。  こうして思わぬ子どもと赤ちゃんが登場して賭博師の男たちが動揺した。  そう、ゼロスの言うとおり賭博師たちはいかさまをしていた。常人の目には見えないほどの素早さで隠していたカードと入れ替えていたのである。  しかしゼロスは冥王、常人ではない。規格外の動体視力で賭博師たちの動きは丸見えだったのだ。  そうと知らない賭博師たちは内心焦り、人だかりの観衆がざわつきだして舌打ちする。いかさまがバレては王都で稼げない。それどころか逮捕されてしまう。 「おい、ガキがでたらめ言ってんじゃねぇよ! 今なら許してやるからさっさとどっか行け!」 「でたらめじゃないもん! ぼくみてた! あのおじさんがカードえらぶときに、ここからカードだしてたもん!」  そう言ってゼロスは賭博師の服の袖を指差す。  そんなゼロスに賭博師たちはさらに動揺した。自分たちはいかさまのプロである。自他ともに認める神業は決して常人には見えないはずだ。それなのに……。 「そんなとこにカードかくしてるなんてダメでしょ! あとうしろのおじさんも、どうしてあたらしいカードをそのおじさんにわたしてたの?」  ゼロスは賭博師グループの男たちを順に指差していく。  観衆に紛れて仲間が潜み、連係プレイでいかさまをしていたのだ。  こうして仲間たちが次々に暴かれていき、観衆が賭博師たちに不審の目を向ける。 「……え、それじゃあ今までズルしてたってこと?」 「プロの賭博師グループじゃなくて、いかさまグループだったっていうのかよ」 「今まで勝てたのもズルしてたから……?」  観衆がざわざわと騒ぎだして賭博師たちが焦りだす。 「ガ、ガキがふざけたこと言ってんじゃねぇぞ! もう容赦しねぇっ、とっ捕まえてやる!!」 「ガキどもの親に突き出して責任とってもらおうぜ!」 「ああ、商売を邪魔してくれたんだ! 親に責任取ってもらわねぇとな!」  賭博師たちが怒号をあげてゼロスを取り囲んだ。  いきり立つ賭博師たちに観衆に緊張が走る。幼児と赤ちゃんを放っておけるわけがない。 「だ、誰か助けを呼んで来い! 急げ!」 「キャーーッ、誰かー!」  観衆の一人が助けを呼びに行く。  だが間に合わない、怒り心頭の賭博師たちはゼロスを掴まえようと襲いかかった。  しかし。 「クソガキ! 観念しろ!」 「かんねんってなあに? えいっ」 「うわああああ!」  ガラガラガシャーーン!!  賭博師が積みあがっていた木箱に突っ込んだ。  寸前でゼロスが避けて、そのままえいっと押されたのだ。 「だいじょうぶ? もっとやさしくする?」  ゼロスが心配そうに聞いた。  手加減したつもりだったが思っていたより勢いよく飛んでいってしまったのだ。  やっぱり力加減は難しい。もうちょっと頑張らないと、父上や兄上のように上手に制御できていない。  ゼロスは自分の手を見つめて悩んでしまう。 「うーん、どれくらいかなあ」 「あう~……。あいあ、ばぶぶっ」  クロードも一緒に考えているが答えは出ないようだ。  そんな幼児と赤ちゃんの様子に賭博師たちはますます逆上する。 「もう許さねぇ!! ガキが調子にのってんじゃねぇぞ!!」 「捕まえろ! ガキだからって手加減はなしだ!」 「そいつの親にたっぷり責任とってもらうぞ!」 「ええっ、おじさんたちおこっちゃったの? なんで? ぼくがえいってしたから? でもおじさんたちがわるいから、おじさんたちがごめんなさいってしてね」  ゼロスはプンプンしながら言うと、ひょいっと横に避けた。 「ッ、逃げるんじゃねぇ!」 「クソッ、絶対捕まえてやる!」 「できるの? おじさんたち、おそいのに?」  首を傾げたゼロスに賭博師たちは顔を真っ赤にする。  今や大激怒の賭博師たちはゼロスを掴まえようとするが、ゼロスはひょいひょいっと身軽に避けた。  ゼロスを囲んでいる賭博師たちは十二人。  普通の三歳児なら恐ろしさに泣きだすところだが、冥王のゼロスにとってはなんら恐れるものではない。  しかし。 「……どうしようかなあ。このおじさんたち、ぼくがえいってするととんでっちゃうしなあ」  問題はこれだった。  どれだけ手加減してもゼロスの方が圧倒的に強い。少しでも力加減を間違えれば賭博師たちは無事では済まないだろう。  ゼロスは攻撃を避けながらうんうん悩む。 「うーん、うーん。…………そうだっ、にげちゃお!」  閃いた。逃げてしまえばいいのだ。  かけっこは得意なのであっという間に逃げれるはずである。 「よ~し、えいっ!」  ぴょんっ!  ゼロスはしゃがんだかと思うとおもいっきり飛びあがった。  見事な跳躍でひらりと屋根の上に着地する。  そんなゼロスを見上げて観衆も賭博師たちもあんぐりと口を開けた。 「じゃあね、おじさんたちもうズルしちゃダメだからね~!」  怒号を上げる賭博師たちとざわつく観衆。  そんな騒ぎを背にしてゼロスは屋根の上を駆けだす。  今ゼロスは酒場を目指しているのである。こんなところで遊んでいる暇はないのだ。  ゼロスは地図を確認するとまた酒場に向かって進むのだった。

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