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番外編①「どうしてちちうえとブレイラはぼくにダメっていうの?」12

「あ、ズルしてたおじさんたちだ!」  プリンを食べていたゼロスが男たちを指差した。  間違いない、あの賭博師の仲間だ。 「なにがズルだ! ガキが調子に乗りやがって、ただじゃおかねぇぞ!!」 「ほんとだもん! ぼくみたもん! おじさんたちズルしてた!」 「てめぇ、もう我慢できねぇ!!」  ガンッ!!  男が店の椅子を蹴飛ばした。 「コラーッ! そういうことしちゃダメでしょ!! ……あ、ちょっとまってて、モグモグ。ごちそうさまでした」  ゼロスはプリンを食べ終わるとお行儀よくごちそうさまをした。  次はクロードだ。ゼロスはスプーンを握ったクロードを抱っこすると店主に預けることにした。まだ赤ちゃんなので一人でお座りしたままだと危ないのだ。 「てんしゅさん、クロードだっこしてて!」 「え、抱っこって……」 「はいどうぞっ」 「は、はいっ……」  思わず赤ちゃんを受け取ってしまった店主。  クロードはスプーンをしゃぶってむにゃむにゃしている。  赤ちゃんを抱っこするのは娘のエミリアが赤ん坊だった時以来だ。赤ちゃんの甘い重みになんだかほんわかした気分になった店主だが。 「って、赤ちゃんだけじゃなくて君もだ! 君もまだ子どもだろっ! 危ないからこっちへ来なさい!」  ほんわかしている場合ではない。店主は慌てて幼児の方も呼んだ。  しかし幼児が戻ってくることはない。それどころか男たちに強気に対峙している。  そしてとうとう始まってしまった。 「舐めやがってクソガキが!!」 「絶対保護者に責任取らせてやる!!」  二人の男が捕まえようと襲いかかった。  しかし寸前、ふっと幼児が消えたかと思うと。 「えいっ!」  ガラガラガシャーン!!  男たちがテーブルに勢いよく突っ込んだ。  幼児は目にも留まらぬ速さで男たちの背後に移動して背中を押したのだ。 「えっ……?」  店主は目を疑った。  そう、目の前の幼児の動きは明らかに普通の幼児ではなかったのだ。  …………しかし、この世には例外があることを店主は知っている。  例外という名の規格外。それは神格の存在とも言われ……。  店主は抱っこしている赤ちゃんを恐る恐る見下ろした。  ちゅぱちゅぱスプーンをしゃぶっている赤ちゃん。名前はたしか、たしか、クロードと呼ばれていたような。 「えっと、…………クロード、さま?」 「あいっ」  赤ちゃんの可愛いお返事。  この魔界で『クロード』の名を知らぬ魔族はいない。  店主はサァッ……と青褪めた。  まさかという思いに全身の血の気が引いたが、隙だらけの店主に男が一人忍び寄る。 「隙だらけだぜ!!!!」 「バカ野郎オオ!!!!」  ドゴオオオオッ!!  店主の振り向きざまの鉄拳で男が吹っ飛んだ。 「この赤ん坊、いや赤ちゃんさんがびっくりするだろ!!!!」  魔族としてこの赤ちゃんに指一本触れさせてはならぬのだ。  気付いてしまったのである。この謎の幼児と赤ちゃんの正体に。 「わああ~っ、てんしゅさんつよ~い!!」  ゼロスが歓声をあげた。  ゼロスはスゴイスゴイとはしゃぎながらひょいひょい男の攻撃を避けている。  普通の幼児ならありえない動きだが、この幼児なら納得の動きだ。  ゼロスは「えいっ」「えいっ」と次々に男たちを押して転倒させていく。しかしそれではすぐに男たちは立ち上がってきてまた襲いかかってくる。力加減をしすぎて決定的な攻撃にならないのだ。 「もう~っ、おきてきちゃダメでしょ!」  ゼロスは構え直して男たちを見た。  一人は店主が倒したので残りは四人。ダメージを与えすぎてはいけない、けれど一時的に戦闘不能にしなければならない。 「さっきからちょこまかしやがって! ガキだろうともう許さねぇ!!」 「捕まえろ!!」 「もう容赦しねぇぞ!!」 「そっちへ回れ! 絶対捕まえろ!!」  四人が連携して襲いかかってきた。  ゼロスは瞬時に高く跳躍して避けたが、でもこのままでは埒が明かない。  ゼロスはぎゅっと拳を握りしめた。力を制御しながら上手にえいっとするのだ。 「えいっ!」 「ぐはっ」 「やった~! じょうずにできた!」  まず一人目。うまく力を抜いて殴り飛ばすことができた。しばらく起き上がってくることはないだろう。  店主に抱っこしてもらっているクロードもパチパチ拍手している。  続いて二人目、三人目とゼロスは力加減をして吹っ飛ばしていく。  このまま最後の一人に飛び蹴りしようとしたが。 「ああっ、ちからとまんない!」  空中で慌てた。うっかり力の制御を忘れていたのだ。  このまま飛び蹴りが直撃すれば男は気絶ではすまないだろう。  だがその時。 「左肩の動きを逆方向にするんだ!!」  店主の指示が飛んできた。  咄嗟のそれにもゼロスは対応する。 「えっと、こう!!」  ドガッ!!  飛び蹴りを受けた衝撃で男が悲鳴とともに吹っ飛ばされた。  男は昏倒するが、ゼロスが左肩を引いて力が逆方向に流れたことで制御成功。無事に一時的な戦闘不能だ。 「できた~! ぼくじょうずにできた~!」  ゼロスはぴょんぴょんして大喜びだ。  未熟なゼロスにとって力加減はとても難しかったのである。でも店主の指示でとっても上手に出来た。 「てんしゅさ~ん、ありがと~! ぼくとってもじょうずにできたよ~!!」  ゼロスが店主に向かって大きく手を振った。  抱っこしているクロードはスプーンをちゅぱちゅぱしゃぶりながら店主を見上げている。  こうした二人の様子に店主は「ハハッ……」と引きつった笑みを浮かべて手を振り返す。  もう認めるしかなかった。間違いない、この謎の幼児と赤ちゃんの正体は……。 「お邪魔します! ゼロスとクロードがここに来ていませんか!?」  バターン!  魔界の王妃ブレイラが店に駆けこんできた。  その後ろには魔王ハウストと勇者イスラ。  そう、それは謎の幼児と赤ちゃんの両親と兄上だ。

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