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番外編①「どうしてちちうえとブレイラはぼくにダメっていうの?」14
「てんしゅさんぼくも! わあッ、ちちうえはなして~!」
ゼロスがハウストからぴょんっと飛び降りて駆け寄ろうとしたが、首根っこを掴まれている。
阻止されたゼロスは不満そうにハウストを見上げた。
「ちちうえ、はなして! どうしてダメってするの!」
「プリンを食べさせてもらったんだろ。ワガママするな」
「そうだけどっ、そうだけど~!」
ゼロスが地団駄を踏む。
三歳児はプリンを食べたけどパフェも食べたいのだ。
ブレイラも苦笑してゼロスを説得する。
「ゼロス、無理を言ってはいけません」
「うぅ……。……どうしてちちうえとブレイラはぼくにダメっていうの? てんしゅさんのさかばも、パフェも、イタズラも」
……イタズラはダメだろ。思わずハウストとブレイラは顔を見合わせた。
でもゼロスは「……グスッ」と鼻を啜る。視線を落として、シャツを両手で握りしめて、なんだかいじけている様子である。我慢しているが今にも泣きだしてしまいそうだ。
ブレイラは優しく目を細めると、抱っこしていたクロードをハウストに渡した。
そしてゼロスと目線を合わせるように膝をつく。
「ゼロス」
「ブレイラ……。どうして? どうしてダメっていうの?」
「あなたは冥王だけど、まだ三歳の子どもです。私もハウストもイスラもあなたが心配なんです」
「……ぼく、つよいのに?」
「はい、強いけれど心配なんです」
「………………」
ゼロスは黙り込む。
いつもはこれで納得するが、今は納得したくないと言わんばかりの顔だ。
三歳のゼロスは日々成長している。昨日は疑問を覚えなかったことでも今日はいろいろ考えてしまったり、気付いてしまったり……。ゼロスだってたくさん考えているのだ。
そんなゼロスにブレイラは頷くと、ゆっくりとおしゃべりをする。
「そうですね、あなたは強いです。きっと私の心配など必要ないのでしょう」
「うん。ぼく、とってもつよいの。だからだいじょうぶ!」
「では、私も一人で山に遊びに行くことにしましょう」
「えっ?」
「ふふふ。私は山暮らしをしていたので山はとても得意なんです。だから大丈夫なんですよ」
「ダ、ダメー! ひとりでいくのダメ! そんなことしちゃあぶないでしょ! まいごになったらどうするの! こわいどうぶつにえいってされたらどうするの!」
「大丈夫ですよ、だって山には慣れていますから」
「ダメっ、どうしてそんなこというの! やまにいくなら、ぼくかあにうえかちちうえといっしょにいきなさい!」
ゼロスは「もうブレイラは~」とプンプン怒りだした。
そんな様子にブレイラは小さく笑う。
「そんなこと言うんですね」
「いう!」
「私のこと心配だからですか?」
「しんぱい!」
「大好きだからですか?」
「ブレイラだいすき!」
「ふふふ。私も一緒です」
「いっしょ~! …………ん? ……ああっ!」
ゼロスがハッとした。
気付いてしまったのだ。
ゼロスは恥ずかしそうにちらちらブレイラを見る。
「…………ぼくもダメっていっちゃった」
「あなたのこと大好きですよ」
「えへへ、ぼくも」
ゼロスが照れ臭そうにはにかむとブレイラにぎゅっと抱きついた。
ブレイラもゼロスを抱きしめて、無事に一件落着である。
しかも納得したゼロスにご褒美とばかりに店主から朗報が。
「……あの王妃様、ご迷惑でなければ用意させてもらいますが」
「てんしゅさんっ……!」
ゼロスの瞳が感激にうるうるした。
しかしブレイラは恐縮してしまう。
「それは有り難く思いますが、今は休憩中ですよね。お休みしている時間にワガママに付き合わせてしまうなんて……」
「お気になさらず。いつもイスラには試作品を試してもらっているので、その御礼だと思ってください」
「店主様、お心遣いに感謝いたします」
「てんしゅさ~~ん! うわあああんっ、ぼくうれしいよ~! ありがと~!!」
ゼロスは大喜びではしゃぎ回った。
ハウストに抱っこされているクロードも喜びを察知して握っていたスプーンを振り回す。
「あいあ~、あ~」
「分かっている。お前はプリンだろ」
「あいっ。ちゅぱちゅぱちゅぱ」
またスプーンをしゃぶるクロード。
残したままのプリンを気にしているのだ。
こうして魔王一家は酒場『ワイルドハート』で午後のひと時を過ごすことになったのだ。
店主はカウンターキッチンに立ってフルーツをカットしていた。
用意したのはジョッキグラスとパフェグラス、そして恋人専用ドリンクグラス。
そう、魔王一家の希望の品である。
最初はイスラのパフェだけの予定だったがゼロスの分が追加された。それで終わりかと思ったら。
『ハウスト大変です! メニューが増えています!』
ブレイラが恋人専用ドリンクのメニューが増えていることに気付いたのだ。
嬉しそうな王妃の様子に魔王の決断は早かった。
『店主、注文を頼む。この中でブレイラの喜ぶものを作ってくれ』
『ハウストっ……』
王妃がうっとりしたため息をついた。
メニューは魔王命令で増やすことになったのだがそんなことは野暮だ。
こうして店主はパフェ作りに専念する。
その間、魔王一家はカウンター席に腰かけていた。ゼロス、ハウスト、ブレイラ、イスラの並びで座っている。
「クロード、どうぞ。あーん」
「あーん」
クロードがプリンをあーんで食べる。
ブレイラに抱っこされたクロードは残りのプリンを食べていた。美味しそうにむにゃむにゃし、握っていたスプーンをイスラに向かって振り回している。どうやらイスラに自慢しているようだ。
イスラは目の前でスプーンを振り回されて目を据わらせる。
「なんだクロード」
「あぶあー、ばぶぶっ。あいっ、あいっ」
「おい、やめろっ」
今度はイスラの口にスプーンを突っ込もうとする。
どうやら本人的には自慢ではなくイスラにも食べさせようとしていたようだ。
そしてゼロスはというとカウンターに乗り上げて店主のパフェ作りを見学だ。
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