「てんしゅさんてんしゅさん、ぼくもおてつだいする？」 「え、お手伝いですか？」 「うん。ぼく、ちちうえとあにうえとケーキつくったことあるの。ブレイラもゼロスはおてつだいじょうずですねっていってる！」 「スゴイですね、お手伝い上手なんですか？」 「じょうず！　てんしゅさん、びっくりするんじゃないかなあ～」 　ゼロスはそう言って胸を張ると、ハウストを振り返る。 「ね、ちちうえ。ぼくじょうずだもんね！　いっしょにおしろのケーキつくったもんね！」 「俺に聞くなよ……」 　店主は親子のやりとりにほのぼのしつつ、なんだか意外な気持ちで魔王を見る。 　当代魔王が愛妻家だということは知っていたが、子どもたちとケーキ作りという家族サービスまでしているとは思わなかった。 　そんな店主の視線の意味に気付いてか、ハウストが面白くなさそうに目を据わらせる。 「……なにか言いたいことでもあるのか？」 「と、とんでもない……」 　無言の圧力に店主は内心冷や汗だ。 　突っ込んではならないということ。 　魔王と店主の間になんともいえない空気が漂ったが、それに気付かない三歳児はのん気に父上におねだりだ。 「ちちうえ～、ぼくもこのつくえほしい。かって！」 　おしゃれさんな三歳児は酒場のおしゃれなカウンターを気に入ってしまった。 「ふざけるな。だいたいカウンターなんてお前が何に使うんだ」 「おへやでいらっしゃいってする」 「ままごと用か……」 　どうやらカウンターで酒場ごっこがしたいようだ。クロードが客席に座らされるのは間違いない。 『いらっしゃいませ～。なににしますか？』 『あいあ～、あぶっ』 『ミルクどうぞ』 　などと遊ぶのだろう。 　だが欲しがるものをなんでも与えるつもりはない。それはブレイラの教育方針、それすなわち家庭の教育方針ということ。 　当然ながら父上であるハウストは却下する。 「却下だ」 「きゃっかってなあに？」 「駄目ってことだ」 「ちちうえ、どうしてダメっていうの！　ダメでしょ！」 「ダメがダメだ」 「ダメがダメでダメでしょー！」 「ダメがダメでダメなのもダメだ」 「ダメがダメでダメダメでダ……、ぅっ、うわあああんっ、ちちうえがいじわるする～！　ブレイラ、ちちうえが～～！！」 　ゼロスがダメダメ合戦に負けた。 　しかもブレイラに泣きついた。 　ブレイラはクロードにあーんさせながらハウストをじろりと見る。 「ハウスト、なにゼロスとダメダメ言い合ってるんですか」 「それはゼロスが」 「ゼロスが、なんですか？」 「……俺が大人げなかった」 　降参する魔王。 　冥王が王妃に泣きついた時点で魔王の降参は決まっていた。 　でもブレイラもしっかりゼロスに注意することは忘れない。 「ゼロス、あなたもワガママ言ってはいけません。いいですね？」 「はいっ」 　ブレイラにはお利口な返事ができるゼロスである。 　こうして過ごしているとパフェが完成して運ばれてきた。 「わあああっ、パフェだ～！！」 　ゼロスの前にフルーツたっぷりの可愛いパフェが置かれた。 　他にもジョッキグラスの巨大パフェと恋人専用ドリンクである。 「てんしゅさん、ありがとう！　いただきます！」 　ゼロスは酒場で二度目のいただきますである。 　さっそくスプーンでクリームを掬い、「ほっぺおちちゃう～」と頬を押さえてうっとり顔だ。大満足のゼロスである。 　イスラは試作品の巨大パフェを食べながらも、「この深さ辺りで味変した方がいいんじゃないか？」「フルーツの酸味を足した方がいいかもな」などと店主と話しあっている。パフェの出来栄えに満足しながらも試食担当の役目をしっかり果たすイスラだ。 　そして大満足をしている人がここにも一人、いや二人。もちろんブレイラとハウストである。 「久しぶりだからでしょうか。初めてじゃないのに、なんだか照れ臭いですね」 「俺はいつでもしたかったぞ」 「ふふふ、私だって」 　ちゅーーーーーー。 　一つのグラスに二人用のハート型ストロー。 　そう、ハウストとブレイラは恋人専用ドリンクを堪能していた。 　近い距離で見つめ合ってブレイラは恥ずかしそうに目を伏せている。でも楽しそうにイチャイチャしているので満更ではないのだ。 　それは魔界の権威と威厳を守るためにも誰にも見せられない姿だが、魔界の魔王と王妃は仲良しなのである。 　そんな二人の恋人専用ドリンクにパフェとプリンを食べ終えたゼロスとクロードも興味津々だ。