「ブレイラ、ぼくも！　ぼくもストローでちゅ～ってしたい！」 「いいですよ。でも飲むなら水です」 「ええ～っ」 「駄々をこねてもダメですよ。プリンとパフェを食べたのに、ジュースまで飲むのはいけません」 「……は～い」 　ゼロスが渋々ながらも返事をした。納得するしかないのだ。 　ブレイラは自分のストローを抜いて水の入ったグラスに差そうとしたが。 「王妃様、よろしければこれをどうぞ」 　そう言ってカウンターに置かれたのはおしゃれな丸グラス。そこには恋人用のハート型ストローが差してある。 　グラスの中身はもちろん水だが、氷がたくさん浮かんでいるのでなんだかおしゃれだ。 「店主様、お心遣いありがとうございます」 「てんしゅさん、おみずおしゃれにしてくれてありがとう！！」 　ゼロスは大喜びした。 　普通の水なのにとっても美味しそうだ。 「ブレイラ、いっしょにのも？　ぼくもブレイラとしたい！」 「いいですよ」 「やった～！　よいしょ、よいしょ」 　ゼロスがブレイラの隣に座っていたハウストの足によじ登る。膝に座って魔王を椅子替わりだ。 　当然ながらハウストの目が据わっていく。 「おい、降りろ」 「やだ。とどかないんだからしょうがないでしょ」 「背が低いんだな」 「コラーッ、そんなこといっちゃダメでしょ！」 「そうですよ、ゼロスは三歳の中では身長が高いですよ」 　ブレイラがフォローするとゼロスは「ほらねほらね」と満面笑顔だ。 　ブレイラとゼロスは近い距離で見つめ合い、ちゅーーーーーっ。 「わああっ、たのしいね～！！」 「ふふふ、楽しいですね」 　もう一度、ちゅーーーーーーーっ。 　あっという間にグラスは空になってしまった。 　そしてそんなブレイラとゼロスを間近で見つめる者が一人、クロードだ。 　ブレイラに膝抱っこされていたクロードがじーーっと見つめていた。 「あぶぶっ。あいあ～、あー！」 　バンバンバン！　テーブルをバンバン叩くクロード。 　明らかになにかを訴えている。 　ゼロスはクロードがグラスを見つめて瞳を輝かせているのに気が付いた。 「クロードもちゅ～ってしたいの？」 「あいっ」 　こくりと頷くクロード。 　したいしたいと訴えていたようだ。 　ブレイラは小さく笑うとイスラを振り返る。 「そうでしたか、ではイスラお願いします」 「俺がするのか！？　クロードと！？」 　突然の指名にイスラはギョッとした。 　しかしブレイラはニコニコしたままお願いする。 「私がしてあげたいんですが、さっきゼロスと頂きました。もうお腹いっぱいで」 「そ、それじゃあハウストはっ？」 　イスラがハウストを振り返った。 　ハウストに押し付ける気満々だったが。 「俺はほら、膝にゼロスを乗せてるだろ。だから無理なんだ、仕方ないんだ」 「なにが仕方ないだ」 　ならば手を変えるしかない。 　イスラは回避を諦めるつもりはないのだ。 「……俺もクロードとしてやりたいけど、これ以上は店主に迷惑かけられないから」 「イスラ、遠慮するなよ」 　コトッ。 　目の前に置かれたおしゃれな丸グラス。ご丁寧にたっぷりの水と二人で一つのハート型ストロー。 　店主が白々しいほど優しい笑みを浮かべていた。 「お前と俺の仲だろ？　遠慮は無用だ」 「おいっ……」 　イスラがぎろりっと睨む。 　しかしなにか言い返す前にブレイラが口を開く。 「店主様、ありがとうございます。イスラ、店主様のご厚意ですから」 「ぐっ……」 　イスラが押し黙る。 　ブレイラが喜んでいるのに文句は言えない。完全無欠のパーフェクト勇者は筋金入りのブレイラ第一主義なのである。 「わあ～っ、てんしゅさんってやさしいね！」 「あぶぅ～！」 　パチパチ拍手する純粋なゼロスとクロード。二人に悪気はない。 「良かったな、イスラ」 　ニヤニヤするハウスト。こちらは間違いなく面白がっている。 　こうしてイスラは追い詰められ、観念してクロードと恋人専用ドリンクを飲むことになった。 「クロード、ちゅーって吸うんですよ？」 「あいっ」 　ブレイラの説明に頷くクロード。 　赤ちゃんのクロードはストローを初めて使うのである。 　説明を理解しているのか不明だが、赤ちゃんながら自信満々な顔でストローに手を伸ばしているので理解したと信じたい。 「いいか、クロード。吸うんだぞ？　哺乳瓶吸ってるだろ？　それと同じだ」 「あいっ」 　クロードが真剣な顔で頷く。 　イスラとクロードが一つのグラスに顔を寄せ、ストローを口に咥え……。 　ちゅー、ッ、……ブクブクブクブクブクブクッ……！ 「ッ、クロード吐くなっ、吸うんだ……！　ゴホゴホッ」 　イスラが咽ながらストローから口を離した。 　そう、クロードは理解していなかった。『ちゅー』と吸ったのではなく『フーッ』と息を吐いたのだ。 「あう？」 「あうじゃないだろ、あうじゃ……」 　イスラは脱力した。 　……仕方ない、相手は末っ子の赤ちゃんだ。 　イスラは呼吸の仕方から教える。 「クロード、吸うんだ。スー、ハー、のスーだ。やってみろ」 「あい。…………スー」 「そうだ、うまいぞ。よし本番だ。やってみろ」 「あい。…………ブクブクブク」 「なんでだ……」 「あう？」 『こんなにじょうずなのに？』といわんばかりのクロード。 　どうやら本人的には出来ているつもりのようだ。 　しかし間違いなく分かっていない。 　でも仕方ないのである。だってクロードはまだ赤ちゃんなのだから。 　こうして家族五人は午後のひと時を酒場『ワイルドハート』で賑やかに過ごしたのだった。 終わり 番外編を読んでくれてありがとうございました！ 神話本編はきつい展開もあったのでたくさん笑っていただけてれば嬉しいです！ 次の番外編は家族で西都に視察という名の家族旅行へ行く話しです。 次ページから始まりますのでよろしくです。