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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】6

「ゼロス、クロードも連れていってあげてください」 「いいよ。クロードおいで」 「にー、にー」  膝にいたクロードがハイハイでゼロスのところへ行きました。  ゼロスが両腕でクロードを抱っこしてくれます。  まだ三歳なので不安定な抱っこに見えますが、規格外の三歳児なので実際はしっかりした抱っこです。 「ゼロス、サロンの一画に自由に遊べるスペースを作ってもらっていますから、そこでおやつをいただいて来なさい。絵本やおもちゃもあるようです」 「えっ、それってあそんでもいいってゆうこと!?」 「もちろんです。ああでも騒ぎすぎてはいけませんよ? サロンでは静かな遊びです」 「わかった! クロードいこ!」 「あいっ」  クロードは小さな手でゼロスにぎゅっとしがみつく。クロードはゼロスが自分を守ってくれる兄上だとちゃんと分かっているのです。  二人はさっそく段上を降りて遊びに行きました。ケンカすることもありますが仲良しですね。  一緒にゼロスとクロードを見送っていたメルディナがフンッと口元だけで笑います。 「冥王でもまだ子どもね」 「ふふふ。ステキな冥王様ですが、やっぱりまだ三歳ですからね」 「言動は立派な三歳ですものね」  メルディナはサロンを歩き回ってるゼロスを見ながら言いましたが、ふと小声になって私に話します。 「初代時代では初代幻想王と戦ったって聞いたわ」 「そうなんですよ、冥界を守るためにゼロスは戦いました。とても頑張ったんですよ」 「ほんとかしら、と言いたいところだけど。そこは認めるわ。初代四界の王は歴代王のなかでも別格、その初代と戦うなんて生半可なことじゃなかったはずだもの」  生意気な言い方をしながらも認めるべきところは認める。それが出来るからメルディナは誇り高い魔界の姫なのです。  私は目を細めてメルディナに同意します。 「はい、オルクヘルム様は素晴らしい方でした。初代幻想王はたしかに幻想界を愛していました」 「この時代の文献に残っているのは一万年前の冥界が封じられた時の出来事ばかりですものね。冥王だけじゃなくてあなたの勇者も初代勇者と戦ったようね」 「イスラはとても立派に戦いました。相手が初代勇者とはいえ負けることは許されませんから」 「当然よね」 「そう、当然です」 「フンッ」  メルディナは小生意気にツンとしていますが、私は嬉しくなって目を細めます。  なんだかんだ言いながらも勇者イスラと冥王ゼロスを認めてくれているのですね。  でも気付いています。メルディナはイスラとゼロスの話しはしてくれるけれど、クロードのことには触れようとしません。クロードも初代時代でとても頑張ったんです。まだ小さな赤ちゃんなのに初代時代の苦難の中で一生懸命生き抜いてくれました。  ……クロードも褒めてあげてほしいと思ってしまう。  でもそれをお願いすることは出来ません。ハウストと決めたのです、メルディナの覚悟を見守ると。  内心しんみりしてしまいましたがメルディナとの世間話は続きます。 「王妃、北離宮は相変わらずのようですわね。相変わらずお兄様が一人で北離宮に渡ることを許されてないとか」 「…………人聞きが悪い言い方しないでください。あれは約束です。私とハウストの個人的な約束です」 「なにが約束よ。誰がどう見たって王妃の逆鱗に触れるからではありませんの。北離宮に令嬢を送りたい貴族たちが困ってましたわよ?」 「それは困らせておいてよいのです。北離宮になにをしに来るつもりですか」 「なにってお兄様の寵愛を手に入れて寵姫になるために決まってますわ。あわよくば世継ぎを……なんてね。古来より北離宮はそういう場所よ」 「認めませんよ」  ぴしゃりと言い返してやりました。  もちろん私もその事実を知っています。  古来より北離宮とはそういう場所。魔王が世継ぎをつくり、自由に戯れを楽しむ場所なのです。歴代魔王の中には政務を疎かにして北離宮に籠もってしまい、優遇を受けた寵姫の縁者が政務を取り仕切ることもあったようです。  そう、北離宮とは謀略と計略が錯綜する場所でした。それは魔界のもう一つの権威であり、魔界全土を揺るがす火種になり得る場所ということです。  でもそれは昔の話し、私とハウストは愛し合っているのです。とっても仲良しなのです。しかもクロードという正当な世継ぎがいるのですから、今の北離宮は謀略を寄せ付けません。というか私が断固として排除します。 「絶対認めませんから」 「あらこわい。王妃様を怒らせてしまったわ」  念を押した私にメルディナが口元だけで笑います。  私たちは軽く睨みあいましたが、少ししてメルディナの表情がふっと解けました。 「そんなの誰もが承知してますわよ。今の魔界にそんな無謀な籠絡を企む魔族なんていませんわ。王妃、あなたが北離宮の主人よ」 「北離宮の主人……。重圧を感じますが、歴代に恥じぬ王妃であることを約束します」  私の役目は魔王を支えて魔界の安寧を祈ること。そして勇者と冥王と次代の魔王を大切に育てること。 「分かってるならいいわ。鬱陶しかったのよ」 「え、鬱陶しい……?」 「王妃がなにを考えているのか興味もありませんけど、西都に来てからずっとわたくしのことを見てましたわね。どうせクロードのことを気にしていたんでしょうけど、鬱陶しくて仕方なかったのよ」 「なっ、なななんてことをっ。あなたっ、鬱陶しいってっ……」  ワナワナしました。  たしかに私はメルディナを気にしていましたが、それを鬱陶しいとはなにごとですかっ。  そんな私にメルディナはツンとしたまま口を開きます。 「分かりやすいのよ。……まったく、余計な気を回そうとしないで。私は今を悪くないと思っているのよ」  そう言ってメルディナはサロンの一画で遊んでいるゼロスとクロードを見ました。  おやつを食べ終わった二人は積み木遊びをしています。  ゼロスが積み木を積み上げると、クロードも真似をして積み木を積もうとしています。赤ちゃんなので上手く積めていませんがとっても真剣な様子。  そんな二人を眺めながらメルディナは言葉を続けます。 「次代の魔王が勇者や冥王と兄弟として共にいる、それは魔界にとって悪いことじゃありませんわ。もちろん魔界だけじゃなく四界にとっても」 「メルディナ……」  それは私にも理解できることです。  強力な結界によって遮られていた四界は不干渉が鉄則でしたが、現在は少しずつ親交を繋げてきています。それは四界の王の関係が良好であることが大前提のものですから。  メルディナは遊んでいるゼロスとクロードを見つめながら、未来に思いを馳せているのかもしれません。  ほら耳を澄ますとこの場所までゼロスとクロードが仲良く遊んでいる声が……。 「できた~! じょうずにできた~! ぼくはおっきいからじょうずにおしろつくれるけど、クロードはあかちゃんだからおしろへんなの~!」 「あう~っ」 「おこっちゃったの? だってほんとにへんなんだもん。クロードのへんだから、ぼくいっぱいわらっちゃお!」 「あう~っ! あーあー!」  クロードが短い腕を振り回してプンプンしてます。威嚇のつもりのようです。  しかし残念なことに三歳児に赤ちゃんの威嚇は通じません。  でもその時でした。――――ガシャーン!  ハイハイです。クロードがハイハイで積み木のお城に突撃したのです。 「ああああっ、クロードがぼくのおしろこわした~~!」 「あうーっ、あいあー、あー!」 「クロードおおおお~!!」 「ばぶぅ~~っ!!」  兄弟げんかが始まってしまいました……。  世話役の女官と侍女が必死に宥めてくれていますが二人ともプンプンです。  二人のプンプンはこちらまで届くもので……。 「…………」 「…………」  私とメルディナが無言になってしまう。  居心地の悪い沈黙が落ちましたが、コホンッ。誤魔化すように咳払いを一つ。 「ふ、普段はとっても仲良しなんですよ? ほんとうですっ。嘘じゃありませんっ。いつもクロードはにーにーと呼んで一緒に遊んでるんですよっ……!」  とにかくフォローを頑張りました。  いつもクロードは兄上のイスラやゼロスのしていることに興味津々で、赤ちゃんながら二人の後について回っているくらいです。とっても仲良しなんです。  焦ってフォローする私にメルディナが呆れた顔で「分かってますわよ……」とため息をつきました。  良かった、分かってもらえてるようですね。ほっとひと安心。  こうしてちょっとしたトラブルはありましたが、一日目のお茶会が無事に終わったのでした。

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