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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】7
その日の夜。
政務を終えたハウストと私は迎賓館の居間に戻っていました。
一日の予定がひと段落つくとほっと落ち着きますね。
ふわふわのラグの上ではゼロスとクロードが積み木遊びをしています。サロンで遊んでいた続きのようですが、どうやら今度は共同作業にしているようです。ケンカしても仲良しですね。
「クロード、こっち。こっちにおくの」
「あいっ」
「そうそう。つぎはこっち」
「あいっ」
「こんどはこっち」
「あいっ。あう~……、ばぶっ!?」
……カランッ。
あ、うまく置けなくて落ちたようです。
クロードは下唇を噛んでぷるぷるしてしまう。上手にできなくて悔しいのですね。
そんなクロードの顔をゼロスが覗き込んでます。
「クロード、えーんってしそう。ハンカチいる?」
「……。……ばぶっ」
小さな手を差しだすクロード。ハンカチを所望のようです。
ゼロスがハンカチを渡してあげると、クロードはぎゅっと握りしめました。
「えーんはがまんできそお?」
「……あいっ」
「がんばれそお?」
「あいっ」
こくりと頷いたクロードにゼロスが積み木を渡してあげます。
「じゃあ、もっかいやってみて。だいじょうぶだから」
「あいっ」
クロードがもう一度挑戦しました。
真剣な顔で積み木を乗せるクロード。
すると今度はとっても上手に置けたようですね。
「できた~! じょうずにできた~!」
「お~っ、お~っ、あいあ~!」
パチパチ拍手するゼロスとクロード。
今度は大成功のようで大絶賛してます。
そんな二人の様子を私とハウストはソファから眺めていました。
「……あいつらは何をしてるんだ」
「ふふふ、どうやら二人でお城作りの再挑戦をしていたようです」
こうして眺めていると、居間の扉がノックとともに開きました。
イスラです。イスラが政務から帰ってきました。
「おかえりなさい、イスラ」
「ただいま」
イスラがシャツの襟を緩めながら言いました。
今日のイスラは西都にある研究機関のセレモニーに勇者として招待されていたのです。朝からとても忙しそうにしていました。
「あにうえ、おかえりなさい!」
「にー、あうあ~!」
「ああ、ただいま」
ゼロスとクロードが嬉しそうにイスラを出迎えました。
二人してわっとイスラに寄っていき、周りをうろちょろするゼロスと、イスラの足に掴まり立ちして抱っこをせがむクロード。
政務が終わったばかりのイスラは少し疲れた様子ですが、クロードをひょいっと抱っこし、ゼロスにも構ってくれます。
「あにうえ、みて! ぼくとクロードでおしろつくったの!」
そう言ってゼロスが積み木のお城をイスラに見せようとします。
抱っこされているクロードも「にー。あいっ、あいっ」と指差してイスラに教えている。二人は共同作品をどうしても兄上に見てほしいようですね。
でも政務が終わったばかりなのでイスラは面倒くさそうな顔をします。
「あとにしろ」
「ええ~っ、いまみてよ! すぐそこにあるから!」
「あうあ~っ、ばぶぶっ!」
早く見てほしいと騒ぎだした二人の弟にイスラがうんざりした顔になります。
しかし二人の弟は諦めません。ゼロスはイスラの足を押して誘導しようとし、クロードはイスラのシャツを引っ張って駄々をこねだしました。
「お前らな……」
「ふふふ、見てあげてください。二人の共同作業なんです。二人で一生懸命作っていたんですよ?」
私が小さく笑いながらそう言いました。
するとゼロスとクロードが「ぼくたちいっしょうけんめいつくったの」「ばぶぅ」と甘えた声。しかも瞳もキラキラ潤ませます。
そんな二人にイスラが眉間に皺を刻みました。
「ブレイラの真似するな」
「でもあにうえ、そのほうがいいよっていうでしょ?」
「舐めてんのか……」
そう会話しながらイスラたちが積み木のお城の方へ向かいます。なんだかんだ言いながらも弟たちの共同作品を見てあげるようです。が。
「…………え、さっきのどういう意味ですか。私の真似だったんですか?」
確認するようにハウストを振り返ると、目が合う前に顔を逸らされてしまいました。
……なんなんですか。ゼロスとクロードには後でしっかりたしかめなければ。
こうしている間にもゼロスとクロードがイスラにお城の解説を始めています。
「これまかいのおしろなの。ここがぼくのおへや、こっちがあにうえのおへや」
「あい~、ばぶぶっ」
「俺の部屋の方が狭くないか?」
「ええ~、じゃあちょっとだけひろくしてあげる」
解説しながらゼロスが「ちょっとだけね」と積み木の壁を動かしています。
「ここがブレイラのおへやで、そっちがちちうえとクロードのおへや」
「……おい、なんで俺とクロードだけ同じ部屋なんだ。個室はどうした」
聞いていたハウストが不服を訴えました。自分にも個室を用意しろというのです。
しかしゼロスも考えがあって部屋の配置をしたようで呆れて言い返します。
「ちちうえ、どうしてそんなワガママいうの」
思わずハウストと私は顔を見合わせてしまいます。
ワガママ……。どうやらさっきのはワガママだったようですね、ゼロスが説明してくれます。
「クロードはあかちゃんだから、ちちうえがいっしょのおへやにいてあげて。ひとりだとあぶないでしょ、あかちゃんなんだから」
だからちちうえとクロードはこのおへやね、とゼロスが積み木のお城の一画を指差しました。決定事項のようですね。
「お前は本当にいい度胸だな」
「だって~」
「いつもクロードと遊んでるならお前が一緒の部屋になればいいだろ」
「そうだけど、ぼくはブレイラのおへやいくからしょうがないの」
「なにがしょうがないだ」
ハウストが呆れた顔で言いました。
そんなやり取りに笑ってしまいます。
「まあまあ落ち着いてください。ハウストがいてくれればクロードも安心なんですから」
そう言って私はソファに座っているハウストの隣に腰を下ろしました。
ハウストがムムッと眉間に皺を刻んでいます。
「それならお前も俺の部屋に来い。歓迎しよう」
「ぜひお邪魔します」
そう言って小さく笑うと、ついでに眉間の皺もモミモミしてあげました。
せっかく一日の政務が終わって家族の時間をすごしているのに、そんな怖い顔をしていてはいけません。
私とハウストは積み木のお城を囲んでいる三兄弟を眺めながらお話しします。
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