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番外編②・魔王一家視察旅行【西都編】8

「今日のお茶会ではメルディナと少しお話ししましたよ。……分かりやすすぎると叱られてしまいました」  そう言った私にハウストが苦笑します。 「そうか」 「はい。メルディナが、イスラとゼロスとクロードが兄弟であることは魔界にとって意味があることだと言っていました。メルディナは魔界の姫なんですね」 「ああ、俺の妹だ」  ハウストはどこか誇らしげな顔をしています。  あなたもメルディナも魔界をとても愛している。それは初めて出会った時からよく存じていますよ。  だからメルディナは魔界を守りたいのです。その前では自分の心など固く封じてしまうくらいに。 「私ももっと上手く隠せるようにならなければいけませんね。明日は大瀑布だというのに、また叱られてしまいます」 「ランディとメルディナが案内してくれるんだったな」 「はい、ランディにお世話になるのは二度目ですね」 「そうだったか」  ハウストが懐かしげに目を細めました。  まだゼロスが誕生する前、ハウストと私とイスラは西都を訪れたことがあるのです。その時に大瀑布を案内してくれたのはランディでした。 「視察だと分かっていますが楽しみです。しかも今度はゼロスとクロードを一緒に連れて行けるんですから」 「ああ」  ハウストは頷くと、積み木で遊んでいる三兄弟に視線を向けます。  遊んでいるのはゼロスとクロードだけでイスラは付き合わされているんですが、それでもとても楽しそう。 「あにうえ、おしごとするおへやもつくったほうがいいかなあ」 「そうだな、いるかもな」 「あうあ~、ばぶぶっ」 「クロードもおしごとするおへやほしいの? でもクロードはあかちゃんだから、まだおしごとしてないでしょ。ぼくはステキなめいおうさまだから、めいかいのおいすにすわりにいくけど」 「あう~~っ」 「おこっちゃったの? プンプン? しかたないなあ、それならちちうえとおなじおへやにしといてあげるね」  そう言ってゼロスが積み木のお城を増築するとイスラも手伝ってあげています。  聞こえてくる賑やかな声。  その声にハウストが苦笑します。 「だいぶ生意気だがな」 「ふふふ、またそんないじわるを言って」  私は思わず笑ってしまう。  明日はいよいよ大瀑布です。  政務と分かっていても五人でお出掛けできることが楽しみで仕方ありませんでした。  翌朝。  その日は朝から晴天が広がっていました。  今日は西都にある観光名所の一つ、大瀑布へお出かけです。  報告によれば昨夜は大瀑布の上流で大雨が降ったそうですが、今日の目的地には影響がないそうです。 「王妃様、出発の支度が整いました。魔王様とイスラ様とゼロス様は外でお待ちです」 「ありがとうございます。クロードは……ちょうど飲み終わったようですね」  ラグにいるクロードを振り返るとちょうどミルクを飲み終わったようでした。 「ケプッ」と可愛いゲップをしたクロードがハイハイで私のところに来ます。私の足に掴まり立ちして抱っこをせがむ姿が可愛らしい。 「あうあ~、あ~」 「お腹いっぱいでご機嫌ですね。移動中は退屈かもしれませんが我慢してくださいね」  そう言って抱き上げるとクロードは「……ケプッ」とまた可愛いゲップ。お腹いっぱいで大満足ですね。 「クロード、今日は大瀑布です。楽しみですね」 「あいっ」  クロードを抱っこして正面玄関へ向かいました。  そこには魔王の騎馬隊や歩兵隊がずらりと整列しています。もちろんハウストとイスラとゼロスもそこにいました。  大瀑布への道のりは魔王の隊列によるパレード形式です。  でもなにやら三人は揉めているようですね。ゼロスが一人だけプンプンしています。 「お待たせしました。なにしてるんですか?」 「あ、ブレイラ! ちちうえとあにうえがぼくにいじわるするの!」  ゼロスが怒った顔で私に訴えてきました。  驚いてハウストを見ると、彼が呆れた顔で教えてくれます。 「ゼロスが自分もこれで行きたいと駄々をこねているんだ」  そう言ってハウストが目を向けたのは立派な黒馬でした。  大瀑布への移動にはハウストとイスラはそれぞれ乗馬し、私とゼロスとクロードは天井がないオープン型の馬車です。前回は私も乗馬しましたが、今回はゼロスとクロードがまだ幼いので馬車を使うことにしたのです。  しかしゼロスは自分も馬がいいと駄々をこねているようですね。 「ぼくも、おうまにのりたい! ねえブレイラ、いいでしょ? ぼく、じょうずにのれるから!」  ゼロスが私にも訴えてきます。  そんなゼロスに苦笑してしまう。  そうですね、魔狼を乗りこなすゼロスなら乗馬も問題ないでしょう。でも今日はパレード形式の移動なので楽しい乗馬遊びというものでもないのですよ。 「ゼロス、今日は馬車に乗ってください。今日はたくさんの方々が沿道に集まって私たちを出迎えてくれるんです。だから馬車からたくさん手を振ってご挨拶してほしいんです」 「え、ぼくのごあいさつがいるってこと?」 「そうなんです。あなたのご挨拶が大切なんです。馬車からなら上手に手を振ってたくさんご挨拶できますから」 「……ぼくのごあいさつがじょうずだから?」 「その通りです。とっても上手ですから安心です。クロードにも教えてあげてください」 「うーん、うーん。…………わかったっ。ぼくのごあいさつみせてあげるね」 「ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします」  良かった。ゼロスが納得してくれました。  イスラが「…………単純だな」と呆れていますが、ゼロスが納得してくれればいいのです。  しかし、ここにも乗馬したいと主張する子が一人。 「あいっ、あいっ。あうーあー!」 「……なに生意気してるんですか。あなたはまだ木馬だけにしてください」  クロードが生意気にも黒馬を指差していました。  もちろん却下です。乗れるはずありませんからね。  こうしてハウストとイスラは騎乗し、私とゼロスとクロードは馬車に乗り込みました。

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